枕草子 一本28 長谷にもうでて

池ある所 枕草子
一本
28段
長谷に
女房の

(旧)大系:1本28段
新大系:一本28段、新編全集:27段
(以上全て三巻本系列本。しかし後二本の構成は2/3が一致せず混乱を招くので、以後、三巻本理論の根本たる『(旧)大系』に準拠すべきと思う)
(旧)全集=能因本:308段
 

新旧全集冒頭:初瀬に詣でて、局にゐたるに


 
 長谷にもうでて局にゐたりしに、あやしき下﨟どもの、うしろをうちまかせつつ居並みたりしこそねたかりしか。
 

 いみじき心起こして参りしに、川の音などのおそろしう、呉階をのぼるほどなど、おぼろげならず困じて、いつしか仏の御前をとく見奉らむ、と思ふに、白衣着たる法師、蓑虫などのやうなる者ども集まりて、立ちゐ額づきなどして、つゆばかり所もおかぬけしきなるは、まことにこそねたくおぼえて、おし倒しもしつべき心地せしか。いづくもそれはさぞあるかし。
 

 やむごとなき人などの参り給へる、御局などの前ばかりをこそ払ひなどもすれ、よろしき人は制しわづらひぬめり。さは知りながらも、なほさしあたりてさる折々、いとねたきなり。
 

 はらひ得たる櫛、あかに落とし入れたるもねたし。