土佐日記 和歌一覧

上中下 土佐日記
和歌一覧
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 土佐日記の和歌抜粋一覧。55日・60首(うち長歌1と舟歌1)。
 冒頭リンクは原文該当部に通じている。
 
 和歌57首というカウントがあるが、ここでは58。
 古今は1111首、墨滅除いて1100首(含む貫之)、貫之100首。
 数字のキリを良くしていることは、月ごとの歌数にも表れている。

 和歌で6は特別な数字だろう。
 

目次
12月 師走 1~6
1月 睦月 7~36
2月 如月 37~60

12月 師走

1 都いでゝ 君に逢はむと こしものを
 こしかひもなく 別れぬるかな
2 しろたへの 浪路を遠くゆきかひて
 我に似べきは たれならなくに
3 都へと おもふもものゝ かなしきは
 かへらぬ人の あればなりけり
4 あるものと 忘れつゝ なほなき人を
 いづらと問ふぞ 悲しかりける
5 をしと思ふ 人やとまると あし鴨の
 うちむれてこそ われはきにけれ
6 棹させど 底ひもしらぬ わたつみの
 ふかきこゝろを 君に見るかな

1月 睦月

7 淺茅生の 野邊にしあれば 水もなき
 池につみつる わかななりけり
8 ゆくさきに たつ白浪の 聲よりも
 おくれて泣かむ われやまさらむ
9 ゆく人も とまるも袖の なみだ川
 みぎはのみこそ ぬれまさりけれ
10 てる月の ながるゝ見れば あまの川
 いづるみなとは 海にざ〈ぞあイ〉りける
11 おもひやる 心は海を 渡れども
 ふみしなければ 知らずやあるらむ
12 見渡せば 松のうれごとに すむ鶴は
 千代のどちとぞ 思ふべらなる
13 春の野にてぞねをばなく
わが薄にて
手をきるきる
つんだる菜を
親やまほるらむ
姑やくふらむ
かへらや
よんべのうなゐもがな
ぜにこはむ
そらごとをして
おぎのりわざをして
ぜにももてこず
おのれだにこず
14 まことにて 名に聞く所 はねならば
 飛ぶがごとくに みやこへもがな
15 世の中に おもひやれども 子を戀ふる
 思ひにまさる 思ひなきかな
16 雲もみな 浪とぞ見ゆる 海士もがな
 いづれか海と 問ひて知るべく
17 立てばたつ ゐれば又ゐる 吹く風と
 浪とは思ふ どちにやあるらむ
18 霜だにも おかぬかたぞと いふなれど
 浪の中には ゆきぞ降りける
19 みなそこの 月のうへより 漕ぐふねの
 棹にさはるは 桂なるら〈べイ〉し
20 かげ見れば 浪の底なる ひさかたの
 空こぎわたる われぞさびしき
21 いそぶりの 寄する磯には 年月を
 いつとも分かぬ 雪のみぞふる
22 風による 浪のいそには うぐひすも
 春もえしらぬ 花のみぞ咲く
23 立つなみを 雪か花かと 吹く風ぞ
 よせつゝ人を はかるべらなる
24 あをうなばら ふりさけ見れば 春日なる
 三笠の山に いでし月かも
25 都にて やまのはにみし 月なれど
 なみより出でゝ なみにこそ入れ
26 なほこそ國のかたは見やらるれ
わが父母ありとしおもへば
かへらや
27 わが髮の ゆきといそべの しら浪と
 いづれまされり おきつ島もり
28 漕ぎて行く 船にてみれば あしびきの
 山さへゆくを 松は知らずや
29 浪とのみ ひとへに聞けど いろ見れば
 雪と花とに まがひけるかな
30 わたつみの ちぶりの神に たむけする
 ぬさのおひ風 やまずふかなむ
31 追風の 吹きぬる時は ゆくふねの
 帆手てうちてこそ うれしかりけれ
32 日をだにも あま雲ちかく 見るものを
 都へと思ふ 道のはるけさ
33 吹くかぜの 絶えぬ限りし 立ちくれば
 波路はいとゞ はるけかりけり
34 おぼつかな けふは子の日か あまならば
 海松をだに 引かましものを
35 けふなれど 若菜もつまず 春日野の
 わがこぎわたる 浦になければ
36 年ごろを すみし所の 名にしおへば
 きよる浪をも あはれとぞ見る

2月 如月

37 玉くしげ 箱のうらなみ たゝぬ日は
 海をかゞみと たれか見ざらむ
38 ひく船の 綱手のながき 春の日
 をよそかいかまで われはへにけり
39 緖をよりて かひなきものは おちつもる
 淚の玉を ぬかぬなりけり
40 よする浪 うちも寄せなむ わが戀ふる
 人わすれ貝 おりてひろはむ
41 わすれ貝 ひろひしもせじ 白玉を
 戀ふるをだにも かたみと思はむ
42 手をひでゝ 寒さも知らぬ 泉にぞ
 汲むとはなしに 日ごろ經にける
43 ゆけどなほ 行きやられぬは いもがうむ
 をつの浦なる きしの松原
44 いのりくる 風間と思ふを あやなくに
 鷗さへだに なみと見ゆらむ
45 今見てぞ 身をば知りぬる 住のえの
 松よりさきに われは經にけり
46 住の江に 船さしよせよ わすれ草
 しるしありやと つみて行くべく
47 ちはやぶる 神のこゝろの あるゝ海に
 鏡を入れて かつ見つるかな
48 いつしかと いぶせかりつる 難波がた
 蘆こぎそけて 御船きにけり
49 きときては 川のほりえの 水をあさみ
 船も我が身も なづむけふかな
50 とくと思ふ 船なやますは 我がために
 水のこゝろの あさきなりけり〈るべしイ〉
51 世の中に 絕えて櫻の さかざらは
 春のこゝろは のどけからまし
52 千代へたる 松にはあれど いにしへの
 聲の寒さは かはらざりけり
53 君戀ひて 世をふる宿の うめの花
 むかしの香にぞ なほにほひける
54 なかりしも ありつゝ歸る 人の子を
 ありしもなくて くるが悲しさ
55 さざれ浪 よするあやをば 靑柳の
 かげのいとして 織るかとぞ見る
56 ひさかたの 月におひたる かつら川
 そこなる影も かはらざりけり
57 あまぐもの はるかなりつる 桂川
 そでをひでゝも わたりぬるかな
58 桂川 わがこゝろにも かよはねど
 おなじふかさは ながるべらなり
59 うまれしも かへらぬものを 我がやどに
 小松のあるを 見るがかなしさ
60 見し人の 松のちとせに みましかば
 とほくかなしき わかれせましや