枕草子302段 十二月廿四日(十二月二十四日)

三月ばかり 枕草子
下巻下
302段
十二月廿四日
宮仕へ

(旧)大系:302段
新大系:283段、新編全集:283段
(以上全て三巻本系列本。しかし後二本の構成は2/3が一致せず混乱を招くので、以後は最も索引性に優れ三巻本理論の根本たる『(旧)大系』に準拠すべきと思う)
(旧)全集=能因本:282段
 

段冒頭:廿四日(新旧大系)、二十四日(新旧全集)
(一般論では『全集』表記の新字漢字の「二十四」でも問題ないと思うが、独自の私見では20丁度が「二十」、端数があれば「廿」になると解し、この法則は278段や古い写本にも適用できるので、本段も「廿」とした)


 
 十二月廿四日、宮の御仏名の半夜の導師聞きて出づる人は、夜中ばかりも過ぎにけむかし。
 

 日頃降りつる雪の今日はやみて、風などいたう吹きつれば、垂氷いみじうしだり、地などこそむらむら白き所がちなれ、屋の上は、ただおしなべて白きに、あやしきしづの屋も雪にみな面隠しして、有明の月のくまなきに、いみじうをかし。
 白銀などを葺きたるやうなるに、水晶の滝などいはましやうにて、長く、短く、ことさらにかけわたしたると見えて、いふにもあまりてめでたきに、下簾もかけぬ車の、簾をいと高うあげたれば、奥までさし入りたる月に、薄色、白き、紅梅など、七つ八つばかり着たるうへに、濃き衣のいとあざやかなる、つやなど月にはえて、をかしう見ゆる、かたはらに、葡萄染の固紋の指貫、白き衣どもあまた、山吹、くれなゐなど着こぼして、直衣のいと白き、紐を解きたればぬぎ垂れられ、いみじうこぼれ出でたり。指貫の片つ方は軾のもとに踏み出だしたるなど、道に人あひたらば、をかしと見つべし。
 

 月のかげのはしたなさに、うしろざまにすべり入るを、つねにひきよせ、あらはになされてわぶるもをかし。「凛々として氷鋪けり」といふことを、かへすがへす誦しておはするは、いみじうをかしうて、夜一夜もありかまほしきに、行く所の近うなるもくちをし。
 
 

三月ばかり 枕草子
下巻下
302段
十二月廿四日
宮仕へ