源氏物語 藤裏葉:巻別和歌20首・逐語分析

梅枝 源氏物語
和歌一覧
各巻別内訳
33帖 藤裏葉
若菜上

 
 源氏物語・藤裏葉(ふじのうらば)巻の和歌20首を抜粋一覧化し、現代語訳と歌い手を併記、原文対訳の該当部と通じさせた。

 

 内訳:7(夕霧=源氏嫡子)、4(内大臣=かつての頭中将)、2(雲居雁=夕霧妻・内大臣娘)、1×7(柏木=内大臣の子=現在の頭中将、藤典侍=惟光娘=夕霧愛人、雲居雁乳母、夕霧乳母、源氏、朱雀院、冷泉帝=源氏と藤壺の子)※最初最後
 

藤裏葉・和歌の対応の程度と歌数
和歌間の文字数
即答 11首  40字未満
応答 8首  40~100字未満
対応 0  ~400~1000字+対応関係文言
単体 1首  単一独詠・直近非対応

※分類について和歌一覧・総論部分参照。

 

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 上下の句に分割したバージョン。見やすさに応じて。

 なお、付属の訳はあくまで通説的理解の一例なので、訳が原文から離れたり対応していない場合、より精度の高い訳を検討されたい。
 


  原文
(定家本校訂)
現代語訳
(渋谷栄一)
439
わが宿の
藤の色濃き
たそかれに
尋ねやは来ぬ
春の名残を
〔内大臣:かつての頭中将〕わたしの家の
藤の花の色が濃い
夕方に
訪ねていらっしゃいませんか、
逝く春の名残を惜しみに
440
なかなかに
折りやまどはむ
藤の
たそかれ時の
たどたどしくは
〔夕霧=源氏嫡子〕かえって
藤の花を
折るのにまごつくのではないでしょうか
夕方時の
はっきりしないころでは
441
紫に
かことはかけむ
藤の
まつより過ぎて
うれたけれども
〔内大臣:かつての頭中将〕紫色の
せいにしましょう、
藤の花の
待ち過ぎてしまって
恨めしいことだが
442
いく返り
露けき春を
過ぐし来て
紐解
折にあふらむ
〔夕霧〕幾度も
湿っぽい春を
過ごして来ましたが
今日初めて花の開く
お許しを得ることができました
443
たをやめの
にまがへる
藤の
見る人からや
色もまさらむ
〔柏木〕うら若い女性の
袖に見違える
藤の花は
見る人の立派なためか
いっそう美しさを増すことでしょう
444
浅き名を
言ひ流しける
河口
いかがらしし
の荒垣
〔雲居雁〕軽々しい浮名を
流した
あなたの口は
どうしてお漏らしになったのですか
445
りにける
岫田の
河口
浅きにのみは
おほせざらなむ
〔夕霧〕浮名が漏れたのは
あなたの父大臣のせいでもありますのに
わたしのせいばかりに
なさらないで下さい
446
贈:
とがむなよ
忍びにしぼる
手もたゆみ
今日あらはるる
袖のしづくを
〔夕霧→雲居雁〕お咎め下さいますな、
人目を忍んで
絞る手も力なく
今日は人目にもつきそうな
袖の涙のしずくを
447
何とかや
今日のかざしよ
かつ見つつ
おぼめくまでも
なりにけるかな
〔夕霧〕何と言ったのか、
今日のこの插頭は、
目の前に見ていながら
思い出せなくなるまでに
なってしまったことよ
448
かざしても
かつたどらるる
草の名は
桂を折りし
人や知るらむ
〔藤典侍:惟光娘・夕霧愛人〕頭に插頭してもなお
はっきりと思い出せない
草の名は
桂を折られた
あなたはご存知でしょう
449


にても
濃き紫の
色とかけきや
〔夕霧〕浅緑色をした
若葉の菊を
濃い紫の花が咲こうとは
夢にも
思わなかっただろう
450
より
名立たる園の
なれば
き色わく
もなかりき
〔女君の大輔乳母=雲居雁乳母〕二葉の時から
名門の園に育つ
菊ですから
浅い色をしていると
差別する者など誰もございませんでした
451
なれこそは
岩守るあるじ
見し人の
行方は知るや
宿の真清
〔夕霧〕おまえこそは
この家を守っている主人だ、
お世話になった人の
行方は知っているか、
邸の真清水よ
452
亡き人の
影だに見えず
つれなくて
心をやれる
いさらゐの
〔雲居雁〕亡き人の
姿さえ映さず
知らない顔で
心地よげに流れている
浅い清水ね
453
そのかみの
老木はむべも
朽ちぬらむ
植ゑし小
苔生ひにけり
〔内大臣:かつての頭中将〕その昔の
老木はなるほど
朽ちてしまうのも当然だろう
植えた小松にも
苔が生えたほどだから
454
いづれをも
蔭とぞ頼む
双葉より
根ざし交はせる
末々
〔夕霧乳母〕どちら様をも
蔭と頼みにしております、
二葉の時から
互いに仲好く大きくおなりになった
二本の松でいらっしゃいますから
455
色まさる
籬の
折々
袖うちかけし
秋を恋ふらし
〔源氏〕色濃くなった
籬の菊も
折にふれて
袖をうち掛けて
昔の秋を思い出すことだろう
456
紫の
雲にまがへる
の花
濁りなき世の
星かとぞ見る
〔内大臣:かつての頭中将〕紫の
雲と似ている
菊の花は
濁りのない世の中の
星かと思います
457
秋をへて
時雨ふりぬる
里人も
かかる紅葉
折をこそ見ね
〔朱雀院〕幾たびの秋を経て、
時雨と共に年老いた
里人でも
このように美しい紅葉の
時節を見たことがない
458
世の常の
紅葉とや見る
いにしへ
ためしにひける
庭の錦を
〔冷泉帝〕世の常の
紅葉と思って御覧になるのでしょうか
昔の
先例に倣った
今日の宴の紅葉の錦ですのに