徒然草47段 ある人、清水へ参りたりけるに:原文

柳原の辺 徒然草
第二部
47段
ある人清水へ
光親卿

 
 ある人、清水へ参りたりけるに、老いたる尼の行きつれたりけるが、道すがら、「くさめくさめ」と言ひもて行きければ、「尼御前、何事をかくは宣ふぞ」と問ひけれども、答へもせず、なほ言ひやまざりけるを、たびたび問はれて、うち腹たちて、「やや、鼻ひたる時、かくまじなはねば死ぬるなりと申せば、養ひ君の、比叡山に児にておはしますが、ただ今もや鼻ひ給はむと思へば、かく申すぞかし」と言ひけり。
ありがたき心ざしなりけむかし。