古事記 おしてるや難波歌~原文対訳

黒姫 古事記
下巻①
16代 仁徳天皇
イワヒメ皇后の嫉妬物語
3 おしてるや難波の歌
吉備で青菜摘む歌
原文 書き下し
(武田祐吉)
現代語訳
(武田祐吉)

淡路では出会わじ

     
於是天皇。  ここに天皇、  ここに天皇は
戀其黑日賣。 その黒日賣に戀ひたまひて、 黒姫をお慕い遊ばされて、
欺大后。 大后を欺かして、のりたまはく、 皇后樣に欺いつわつて、

欲見
淡道嶋而。
「淡道島あはぢしま
見たまはむとす」
とのりたまひて、
淡路島を
御覽になる
と言われて、
幸行之時。 幸いでます時に、  
坐淡道嶋。 淡道島にいまして、 淡路島においでになつて
遙望歌曰。 遙はろばろに望みさけまして、
歌よみしたまひしく、
遙にお眺めになつて
お歌いになつた御歌、
     

オノゴロ島

     
淤志弖流夜 おしてるや、 海の照り輝く
那爾波能佐岐用 難波の埼よ 難波の埼から
伊傳多知弖 出で立ちて 立ち出でて
和賀久邇美禮婆 わが國見れば、 國々を見やれば、
阿波志摩 粟島 アハ島や
淤能碁呂志摩 淤能碁呂島おのごろしま、 オノゴロ島
阿遲摩佐能 檳榔あぢまさの アヂマサの
志麻母美由 島も見ゆ。 島も見える。
佐氣都志摩美由 佐氣都さけつ島見ゆ。 サケツ島も見える。
黒姫 古事記
下巻①
16代 仁徳天皇
イワヒメ皇后の嫉妬物語
3 おしてるや難波の歌
吉備で青菜摘む歌

古事記の安万侶=万葉の乞食者=人麻呂

 
 
 ここでの歌詞「おしてるや」は万葉16巻末尾の乞食者の長歌(3886)とリンクしている。

 
おしてるや 難波の小江に廬作り 隠りて居る葦蟹を 
 大君召すと何せむに 
 我を召すらめや 明けく 
 我が知ることを 歌人と
 我を召すらめや 笛吹きと
 我を召すらめや 琴弾きと
 我を召すらめや かもかくも
 命受けむと
 今日今日と 飛鳥に至り

 置くとも  置勿に至り
 つかねども 都久野に至り 
 東の 中の御門ゆ 参入り来て 命受くれば」
 

 歌詞の内容から、この乞食者は古事記を記した安万侶(通名人麻呂。万侶=人麻呂。字形。没年一致)の心境以外ありえない。人麻呂集こと万侶集で万葉集。
 
 

地名の枕詞

 
 
 おしてるや難波、つぎねふや山城、あをによし奈良、そらみつ大和、これらはいずれもこの仁徳の章に記されている。
 よってこれらはいずれも人麻呂語。