徒然草140段 身死して財残ること:原文

家にありたき 徒然草
第四部
140段
身死して
悲田院

 
 身死して財残ることは、知者のせざるところなり。
よからぬ物たくはへ置きたるもつたなく、よき物は心をとめけむとはかなし。
こちたく多かる、まして口をし。
「われこそ得め」などいふ者どもありて、後に争ひたる、あさまし。
後はたれにと志す物あらば、生けらむうちにぞ譲るべき。
朝夕なくてかなはざらむ物こそあらめ、そのほかは何も持たでぞあらまほしき。