徒然草26段 風も吹きあへず:原文

飛鳥川 徒然草
第一部
26段
風も吹き
御国ゆづり

 
 風も吹きあへずうつろふ人の花に、馴れにし年月を思へば、はれと聞きし言の葉ごとに忘れぬものから、わが世のほかになりゆくならひこそ、亡き人の別れよりもまさりて悲しきものなれ。
 

 されば、白き糸の染まむことを悲しび、路のちまたに分かれんことを嘆く人もありけんかし。
堀河院の百首の歌の中に、
 

♪1 昔見し 妹が垣根は 荒れにけり
  つばなまじりの すみれのみして

 
 寂しき気色、さること侍りけん。