徒然草222段 竹谷乗願房:原文

建治、弘安 徒然草
第六部
222段
竹谷乗願房
鶴の大臣殿

 
 竹谷乗願房、東二条院へ参られたりけるに。
「亡者の追善には、何事か勝利多き」と尋ねさせ給ひければ、「光明真言、宝篋印陀羅尼」と申されたりけるを、弟子ども、「いかにかくは申し給ひけるぞ。念仏に勝る事候ふまじとは、など申し給はぬぞ」と申しければ、「我が宗なれば、さこそ申さまほしかりつれども、正しく、称名を追福に修して巨益あるべしと説ける経文を見及ばねば、何に見えたるぞと重ねて問はせ給へば、いかが申さんと思ひて、本経の確かなるにつきて、この真言、陀羅尼をば申しつるなり」とぞ申されける。