伊勢物語 26段:もろこし舟 あらすじ・原文・現代語訳

第25段
逢はで寝る
伊勢物語
第一部
第26段
もろこし舟
第27段
たらひの影

 
 目次
 

 ・あらすじ(大意)
 

 ・原文
 

 ・現代語訳(逐語解説)
 
 
 
 

あらすじ

 
 

 むかし、男が、
 五条あたりの女を手に入れれなかったという話(5段・6段の内容)に関し、ある人が気の毒に、申し訳なく思っているというので、
 それに返して言った。
 
 思ほえず 袖にみなとの騒ぐかな もろこし舟の 寄りしばかりに
 

 思いもよらず、ただの噂が大手を振って(一人歩きして)、みなでワイワイ騒ぐのな。
 唐土船のカラ船とかけ、中身がないのに、空騒ぎして。
 からっぽばかり寄り集まってからに。
 

 つまりこの段は、4段で二条の后が、人目を忍び東五条に人を見舞って偲びにいったのが、朝廷周辺にばれ、大袈裟に警備が敷かれた話を、
 何も知らない人達が、(業平のような男が)女を手に入れるための夜這いを防ぐための守りだなどと、現在に至るまでの騒ぎを続けていることを、
 気の毒に思っている人から慰められた時に、その感想を述べた段である。
 

 この申し訳なく思っている人「わびたりける人」とは、素直にみれば二条の后。
 禁断の恋などではなく、二条に「宮仕え」していた男が、二条の后を支えていたということ(95段・二条の后に仕うまつる男ありけり)。
 3段「ひじき藻」では、男が二条の后の外出用の服(喪服)を選んでいる。
 

 そして服にまつわる仕事の男が、六歌仙にいる。
 「ふくからに」(百人一首22)の人。だから唐衣とか、もろこし船などと、よくかかる。初段も服、狩衣の話。
 

 業平は主人公ではない。初出の63段で「在五」が「けぢめ見せぬ心」と非難されることから始まり、
 伊勢に来た二条の后に対し、藤原の氏神を出しバカにする翁として描かれる(76段・小塩の山)。
 加えて、業平は藤原のことを藤氏と呼んでバカにしていた(101段)。自身は皇族の血という思い上がりがあるのだろう。
 これで二条の后の相手になる理由がない。
 
 
 
 

原文

男女
及び
和歌
定家本 武田本
(定家系)
朱雀院塗籠本
(群書類従本)
  第26段 もろこし舟 欠落
   
 むかし、男  むかし、おとこ、  
  五条わたりなりける女を 五条わたりなりける女を、  
  え得ずなりにける事と えゝずなりにけることゝ、  
  わびたりける人の返り事に、 わびたりける人の返ごとに、  
       

58
 思ほえず
 袖にみなとの騒ぐかな
 おもほえず
 そでにみなとのさはぐかな
 
  もろこし舟の
  寄りしばかりに
  もろこしぶねの
  よりし許に
 
   

現代語訳

 

むかし、男
五条わたりなりける女を、え得ずなりにける事と、わびたりける人の返り事に、
 
思ほえず 袖にみなとの 騒ぐかな
 もろこし舟の 寄りしばかりに

 
むかし、男
 むかし、男が
 

五条わたりなりける女を
 五条あたりの女を
 

 わたり:渡り(移動)と辺り(場所と人)をかけている。
 (詳しくは同じ記述の5段参照。同じ記述だから前後の説明を省略している。)
 

 ※「ひんがしの五条」(4段:西の対)
 (二条の后が、東五条に人目を忍び人を見舞い・偲びにいった話
 →事実)
 

 ※「ひんがしの五条わたり」(5段:関守)
 (4段で二条が密かに行動したのがばれ、
  そのための警備がおおがかりに敷かれたことで、
  子供のあけた穴から、どこぞの男が五条に夜な夜な侵入した話と吹聴される。
 →子供が屋敷の塀に大人が通れる穴をあける=ありえない話)
 

え得ずなりにける事と
 手に入れられなかった事と
 

 ※女のえ得まじかりけるを
 からうじて 盗み出でて(6段:芥河)
 (4段→5段から派生した夜這い話。
 →噂の度が進み、男の幼稚な冒険譚に発展)
 

わびたりける人の
 大変で申し訳なかったと言ってくる人の
 

 わぶ 【侘ぶ】
 ①気落ちする。悲観する。嘆く。悩む。
 ②つらく。せつなく。寂しく思う。
 

 「わびたりける人」は、二条の后の可能性が一番高い。素直にみればそう。
 二条の后も男にとっては「ただ人」という記載がある(3段)。嫁入り前だからと書いている体だが、それはおまけ。
 男は、筒井筒と梓弓にあるように田舎出身だが、竹取の記述同様、身分は基本気にしない(人柄のみ見る。→16段・紀有常)。
 

返り事に、
 返事として曰く、
 

思ほえず
(そうなるとは)思いもよらず
 

袖にみなとの 騒ぐかな
 ワイやワイやと、みなで港で騒ぐように
 

 
 (大手を)振るとかけ、騒ぐと合わせ、いたずらに吹く。大袈裟に吹聴する。

 参考→「采女の 袖吹きかへす 明日香風 都を遠み いたづらに吹く」 (万葉:01/0051)
 

 騒ぐ:もろこしの唐(カラ)とかけ、空騒ぎ。

 空騒ぎ:大したことではないのに、やたら騒ぎたて、騒いだわりに実りのないこと。
 

 参考→大手を振る:他人の目を気にせず、辺りをはばからず、いばった態度(→業平。65段の記述参照。「人の見るをも知で」)。
 4段で人目を忍んだのと対極。
 

もろこし舟の
(派手な)唐土船を一目みようと
 (ナリはでかいが中身はない? 894に戻す遣唐使。ちょうどその少し前の話)
 

寄りしばかりに
 ば○ばかり寄り集まって、くるように。