紫式部集15 北へ行く:原文対訳・逐語分析

14祓へどの 紫式部集
第一部
若かりし頃

15北へ行く
16行きめぐり
原文
(実践女子大本)
現代語訳
(渋谷栄一)
注釈
【渋谷栄一】
姉なりし人亡くなり、  わたしの姉だった人が亡くなり、 【姉なりし人】-作者の姉。「紫式部集」四番歌の頃には生存していた。
又、 一方で、  
人のおとと失なひたるが、 妹を亡くした人が、 【おとと】-妹。
かたみに お互いに  
行きあひて、 出あって、  
「亡きが代はりに 「亡くなった姉妹の代わりに  
思ひ交はさむ」 思い合いましょう」  
と言ひけり。 と言ったのだった。  
     
文の上に姉君と書き、 手紙の上書きに姉君と書き、 【文の上に姉君と書き、中の君と書き通はし】-
わたしはその人を手紙の上書きに「姉君」と書き、
中の君と書き通はしけるが、 また中の君と書き通わしていたのだが、 その人はわたしのことを「中の君」と書き、の意。
おのがじし それぞれ 【おのがじし】-実践本「をのがじし」は定家の仮名遣い。
遠きところへ行き別るるに、 遠い国へ行き別れるので、 【遠き】-「とをし」は平安の仮名遣い。
よそながら別れ惜しみて、 それぞれ別の所から別れを惜しんで、 【惜しみて】-「おしむ」は定家の仮名遣い。
     
北へ行く 北へ飛んで行く  
雁の翼に 雁の翼に  
言伝てよ 便りを言伝てください  
雲の上がき 雁が雲の上を羽掻きするように、 【雲の上がき】-「上がき」は雁の「上掻き」と手紙の「上書き」の掛詞。
かき絶えずして 手紙を書き絶やさないで 【かき絶えず】-「かき」は接頭語「かき」と「書き」の掛詞。
     

参考異本=後世の二次資料

*「あさからず契りける人の、生きわかれ侍りけるに 紫式部
きたへ行く雁のつばさにことづてよくものうはがきかきたえずして」(寿本「新古今集」離別 八五九)
*「人にわかれけるに 紫式部
北へ行く雁のつばさにことづてよ雲のうは書かきたえずして」(「定家八代抄」七四四)