紫式部集48 見し人の:原文対訳・逐語分析

47さ雄鹿の 紫式部集
第四部
夫の死

48見し人の
49世とともに
原文
(実践女子大本)
現代語訳
(渋谷栄一)
注釈
【渋谷栄一】
世のはかなきことを嘆くころ、  世の中のはかないことを嘆いていたころ、 【世のはかなきことを嘆くころ】-夫宣孝を亡くして間もなくのころ。長保三年(一〇〇一)四月二十五日、夫宣孝死去。
陸奥に名ある所 陸奥国の名所を  
どころ描いたるを見て、 あれこれ描いた絵を見て、  
塩釜、 塩釜、 【塩釜】-陸奥国の歌枕。塩釜から、塩焼く煙が連想される。
     
見し人の 連れ添った〈よく見た〉人が  
煙となりし 火葬の煙となった  
夕べより 夕べから  
名ぞ睦ましき その名前が親しく思われる、 【睦まし】-「室町時代末頃からムツマジと濁音にもいう」(岩波古語辞典)
塩釜の浦 塩釜の浦よ  
     

参考異本=後世の二次資料

*「よのはかなきことをなげくころ、みちのくにに名あるところどころかきたるゑを見侍りてよめる  紫式部
見し人の煙なりし夕べより名ぞ睦ましき塩釜の浦」(寿本「新古今集」哀傷 八二〇)

*「見し人のけぶりとなりし夕よりなもむつましきしほがまのうら」(書陵部本「時代不同歌合」一一四)