伊勢物語 119段:形見こそ あらすじ・原文・現代語訳

第118段
たえぬ心
伊勢物語
第四部
第119段
形見こそ
第120段
筑摩の祭

 
 目次
 

 ・あらすじ(大意)
 

 ・原文
 

 ・現代語訳(逐語解説)
 
  かたみとて置きたるものども(女どもの)
 
  忘れるゝ時もあらまほし(おしゃべり)
 
 
 
 

あらすじ

 
 
 この段は、今までの認定の集大成。
 「むかし女」は、今まであてなる男(有常)に掛けたが、ここでは、あだなる男(著者)に掛ける。
 
 そして、この二人とセットで出てきて、また配置されてきたのは小町のみ(44段・馬の餞。37・38段、52・53段)。
 また、116段から前段118段からの流れも、間接的に小町を暗示していた(姫松→小さい松→小町)。
 
 ここでは、陸奥の国(14・15、115段)から帰って来た男(著者)が、小町に久しぶりというと、そっけなくされた背景を説明している。
 
 「あだなり」とは、二人の共通の仕事場、女方・縫殿で男に立てられた噂話のことを言っている。
 形見とは、その場に男がいなくなっても、その噂が立てられていたこと。
 しかし、女に手を出していたわけではない。女の面倒を見ることが仕事だが(二条の后に仕うまつる男・95段)、それがゆがめられただけ。
 
 著者は、むかし男で、縫殿の六歌仙。業平ではない。主人公とみなされたから歌仙とされただけ。だからこの男は本来歌仙足りえない。
 しかしそういう話が、噂の派生形で最たるもの。そういう話(二条の后との恋愛云々)は、6段(芥河)で事実無根の噂と書いている。
 加えて、114段の仁和帝の元号表記の時点で業平死亡は確定しているし、物語前半と一体性を、陸奥の女との話を出すことで裏づけている。
 
 ~
 

 むかし女が、浮気な(あだなる)男の形見として置いていった「ものども」を見て。
 
 ものども、とは女官達のこと。でないと「ども」が説明できない。それを仄めかすために置いている。
 形見とは、男の噂話のこと。
 

 かたみこそ 今はあだなくこれなくは 忘れるゝ時も あらまほしきものを
 
 今はあだなるアイツも来れないが、忘れる時もありゃしない。これが形見というものか。
 
 ~ 
 
 忘れられればと書いて、またそういう文脈なのに、辛い寂しいとかにしてしまう。
 文中に全くない言葉を、確実な掛かりもなく読み込まないように。
 著者が置いた言葉に基づかないで膨らませても、それは伊勢の解釈ではない。
 
 本段の歌が、古今746に詠み人知らずで収録されるが、著者の作。小町のでもない。
 なぜなら、伊勢は他人の歌も著者の翻案・心情の代弁と暗示しているし(歌をよめないとした人物に歌を当てる。101段、107-108段)、
 だから本段の歌も、心情をおもんばかった歌。詠んだともしてない。
 
 伊勢が古今を参照することはない。
 何より全ての登場する帝の話が古今以前だし(850~886頃)、伊勢が万葉を参照する時でも、必ず独自の言葉に置き換えている。
 だから、伊勢が古今をそのまま引用する理由がない。伊勢の歌を古今が参照しただけ。実力的にも。
 
 
 
 

原文

男女
及び
和歌
定家本 武田本
(定家系)
朱雀院塗籠本
(群書類従本)
  第119段 形見こそ
   
 むかし、女、  むかし、女の、  昔女。
  あだなる男のかたみとて、 あだなるおとこのかたみとて、 あだなる男の。かたみとて
  置きたるものどもを見て、 をきたる物どもを見て、 をきたる物どもをみて。
       

201
 かたみこそ
 今はあだなくこれなくは
 かたみこそ
 今はあだなれこれなくは
 形見こそ
 今はあたなれこれなくは
  忘れるゝ時も
  あらまほしきものを
  わするゝ時も
  あらましものを
  忘るゝ時も
  あらまし物を
   

現代語訳

 
 

かたみとて置きたるものども

 

むかし、女、
あだなる男のかたみとて、
置きたるものどもを見て、

 
 
むかし女
 
 これは小町。
 直前の116段から118段まで間接的認定だったが、より強固に確認する段。
 
 これまで端的に「むかし女」から始まるのは、41段(紫)、108段(浪こす岩)の2段のみだった。
 そしてその段の内容はいずれも、紀有常にまつわる女達の話。41段では妻の姉妹、108段は娘。
 
 しかしこれらの女達を最後に出しているわけではなく、有常を「あてなる男」(41段、107段)としていたことと掛けている。
 「むかし男」が著者であるように「あてなる男」は有常を意味する(16段・あてはかなることを好みて)。
 
 有常は著者と最も近しい人物(友達とされる)。だから最初に実名・フルネームで登場する人物。
 かたや女性で(都で)一番近かったのが小町。だから両者はセットで配置された。
 
 37段・下紐=小町 38段・恋といふ=有常
 44段・馬の餞では三人一緒
 52段・飾り粽=有常 53段・あひがたき女=小町
 
 つまりこの両者の中心にいるのが、著者。
 

 なお、著者(むかし男)は、業平を全否定しているので、「むかし男」ではない。
 (63段「けぢめみせぬ心」から始まり、106段までの全ての登場段で否定。101段では行平のはらから(兄弟)を、歌をもとより知らずと評する)
 業平なら義父の有常を友だちということもありえない。いや、その呼称にかかわらず、上の理由で業平ではない。
 

あだなる男かたみとて
 浮気な男が形見として
 

 あだなり 【徒なり】
 :誠実でない。浮気だ。疎略だ。
 
 これは著者。
 「あだなる男」を上述した「あてなる男」とパラレルにリンクさせた自虐。
 この点も少々説明しよう。
 

 著者は浮気でも不誠実なわけでもない。超一途。

 むかし男ありけり。いとまめにじちようにて(マメ・真面目で、実直で)、あだなる心なかりけり103段
 これは自称なので多少ふざけて膨らませて書いているが、これはこの直後全否定する、業平との対比で書いている。
 
 しかしなぜこう書いているかというと、周知のように著者の物語は、ことあるたび女に言い寄りまくる業平の話と混同されているからである。
 というのも著者がそのような人格破綻したスーパー淫奔だったのではなく、女方、後宮に勤めていたから。
 だから、今まで女方を色々な角度で描いてきたが、それだとどうやら無視されるということで、
 後宮を象徴する「後涼殿」という建物名を出したりしてアピールしてきた。
 
 著者の勤めていた所は、縫殿という所で、服の製造の他、後宮の女官人事を担当していたという。
 だから後宮の女達も日中ボーっとしているわけではなく、反物の仕立て・縫物などもしていたと思われる。
 更衣などの肩書はそれを表していると思う。格が上がれば徐々にゆっくりできると。
 小町が小町針というエピソードで語られること、二人が六歌仙であることは、ここでのつながりによる。
 でなければ何のバックボーンもない女子が突如歌仙とされるような大量の歌を量産できない。つまり著者がプロデュースし小町に歌ってもらっていた。
 
 そして著者の役職は最終的には縫殿助(ホームに戻って)、現場監督のようなことをしていた。
 つまり二番目だが、貴族ではないので三助的立ち位置。女達を色々見回っていた。そこで日々の悩みや、水疱瘡や男の話をきかされる。
 二条の后の話もその一環。95段・彦星「二条の后に仕うまつる男」。
 続く96段・天の逆手では、水疱瘡の女に男が出現し、女は逃げて男の相手をさせられ、なぜか著者が男に恨まれる(逆恨み)。
 二条の后の若い時、夜のお忍び外出でお泊りさせると(4段)、夜這いだ業平だ害虫から警備せねばと外野が騒ぎ立てた(5・6段)。一番有名な話。
 
 このように男が女達(ども)を見ていると、色んな話が出てくる。
 ある女と話していると嫉妬される(19段・天雲)、妬み・逆恨みされる(31段、忘草)、そのことを根にもたれる(100段、忘れ草)
 
 女達を大事に大事にしていると、浮気マン、女なら誰でもいい、穴があればどこでも入りたいやつ(≒業○)だと噂を立てられる。

 むかし、男、懇にいかでと思ふ女ありけり。されど、この男をあだなりと聞きて47段・大幣)
 
 問題児のフォローをして、あー私もう死ぬ、いやまだイケてる、え、うそんホレちゃう、チョまてよ、とアホみたいなやりとりをする。
 『ゆく水と 過ぐるよはひと散る花と いづれ待ててふ ことを聞くらむ』
 あだ比べ、かたみにしける男女の、忍びありきしけることなるべし
50段・あだくらべ)
 
 だからここでは、このようなことを振り返って、自虐しているのである。
 

 かたみ 【形見】
 :記念(物)。思い出の種。昔を思い出す手がかりとなるもの。
 

 しかしナニ平のように次から次へと言い寄ったりするはずがない。
 そんなことをしたら追放だし(65段で在原なりける男は帝に流されている)、そんな阿保みたいなことしようとも思わない。
 在五の見境なさに著者はダメだしている。
 この人は、思ふをも思はぬをも、けぢめみせぬ心なむありける63段
 
 

置きたるものどもを見て
 置いたものども(?)を見て
 
 「ども」は現代と同じ。
 ということは「もの」は物ではなく者、しかも複数ということになる。
 つまり後宮で著者のことを「あいつどこいったん」とピーチクパーチク噂する女官達
 それを評して著者は鳥の子と言っている。50段「鳥の子を 十づゝ十は重ぬとも」
 
 つまり、前段で著者が陸奥から戻ってきた時、
 久々~忘れてなかった~? 戻ってきたよ~、と小町に言ったら、
 (むかし男、久しく音もせで、わするゝ心もなし。まゐり来むといへりければ)
 つれなくされて(うれしげもなし)、ガックりした背景を説明している段。
 
 

忘れるゝ時もあらまほし

 

かたみこそ 今はあだなく これなくは
 忘れるゝ時も あらまほしきものを

  
かたみこそ 今はあだなくこれなくは
 置き土産 今はアイツは 来れないが
 

忘れるゝ時も あらまほしきものを
 忘れるときが あったらいいのに (うっさいな~)
 
 
 あ~機嫌なおして~、他の子なんてどーでもいいから!
 
 君が一番! 世界で一番綺麗で可愛い!
 三大美人言うけど、その中で絶対一番だから! 
 
 あ、喜んでくれた。いや、これホントだからね!? ほんとに喜んでくれたもの。多分。
 覚えているかは分からないけど…。ちょっと前の話だわ。あーあ。