紫式部日記 6 八月二十余日のほどよりは 逐語分析

碁の負けわざ 紫式部日記
第一部
宿直の殿上人達
宰相の君の昼寝
目次
冒頭
1 八月二十余日の
2 琴、笛の音などには
3 宮の大夫
4 わざとの御遊びは
5 年ごろ里居したる人びとの

 

原文
(黒川本)
現代語訳
(渋谷栄一)
〈適宜当サイトで改め〉
注釈
【渋谷栄一】
〈適宜当サイトで補注〉

1

 八月二十余日の  八月二十日過ぎの  
ほどよりは、 ころからは、  
上達部、殿上人ども、 上達部や殿上人たちで、  
さるべきはみな しかるべき方々はみな  
宿直がちにて、 宿直することが多くなって、  
橋の上、対の簀子などに、 橋廊の上や対の屋の簀子などに、 【橋の上対の簀子】-透渡殿の橋の上、東の対の簀子〈すのこ〉。
みなうたた寝をしつつ、 みな仮寝をしながら、  
はかなう とりとめもない  
遊び明かす。 遊び事をして夜を明かす。  

2

琴、笛の音などには、 琴や笛の演奏などは、  
たどたどしき若人たちの、 未熟な若い人たちが行い、  
読経あらそひ、 一方で僧たちの読経の競い合い、  
今様歌どもも、 また今様歌の朗唱なども、  
所につけては 場所が場所だけに  
をかしかりけり。 興趣があった。  

3

 宮の大夫<斉信>、  中宮大夫藤原斉信、 【宮の大夫斉信】-底本の割注に「なりのふ」とあるが、中宮大夫藤原斉信(ただのぶ)の誤読。この時、従二位権中納言中宮大夫右衛門督、四十二歳。
左の宰相中将<経房>、 左宰相中将源経房、 【左の宰相中将経房】-宰相兼左中将源経房。笙の名手。この時、従三位参議左近衛権中将近江守、四十歳。
兵衛の督、 兵衛督源憲定、 【兵衛の督】-源憲定(のりさだ)。この時、従三位右兵衛督
美濃の少将<済政> 美濃少将源済政 【美濃の少将済政】-源済政。笛、和琴の名手。
などして、 などが一緒になって、  
遊びたまふ 〈遊び〉なさる ×演奏
夜もあり。 夜もある。  

4

わざとの御遊びは、 〈仕事から離れたあえての遊びは 【しかし特別の演奏会は、
殿おぼすやうやあらむ、 殿のお考えようなのだろうか〉 殿に何かお考えがあるのか、】
せさせたまはず。 おさせにならない。  

5

 年ごろ 〈この年頃・数年来は 【ここ数年の間、
里居したる人びとの、 出仕して来なかった人々の 里下りしていた女房たちが、
中絶えを 仲が疎遠なのを しばらく御無沙汰していたのを
思ひ起こしつつ、 思い起こしつつも、 思い起こし思い起こして、
參り集ふけはひ騒がしうて、 参集して来る様子は騒がしくて 參り集まってくる様子が騒がしくて、
そのころは そのころは〉 そのころは】
しめやかなることなし。 落ち着いた感じもない。