源氏物語 朝顔:巻別和歌13首・逐語分析

薄雲 源氏物語
和歌一覧
各巻別内訳
20帖 朝顔
乙女

 
 源氏物語・朝顔の和歌13首を抜粋一覧化し、現代語訳と歌い手を併記、原文対訳の該当部と通じさせた。

 

 内訳:8()、3(朝顔:斎院)、1×2(典侍、紫上)※最初最後
 

朝顔・和歌の対応の程度と歌数
和歌間の文字数
即答 4首  40字未満
応答 2首  40~100字未満
対応 4首  ~400~1000字+対応関係文言
単体 3首  単一独詠・直近非対応

※分類について和歌一覧・総論部分参照。

 

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 上下の句に分割したバージョン。見やすさに応じて。

 なお、付属の訳はあくまで通説的理解の一例なので、訳が原文から離れたり対応していない場合、より精度の高い訳を検討されたい。
 




原文
(定家本校訂)
現代語訳
(渋谷栄一)
309
人知れず
の許しを
待ちし間に
ここらつれなき
世を過ぐすかな
〔源氏〕誰にも知られず
賀茂の神のお許しを
待っていた間に
長年つらい
世を過ごしてきたことよ
310
なべて世の
あはればかりを
問ふからに
誓ひしことと
やいさめむ
〔朝顔:斎院〕一通りの
お見舞いの
挨拶をするだけでも
誓ったことに背くと
賀茂の神がお戒めになるでしょう
311
見し折の
つゆ忘られぬ
朝顔
花の盛りは
過ぎやしぬらむ
〔源氏〕昔拝見したあなたが
どうしても忘れられません
その朝顔の
花は盛りを
過ぎてしまったのでしょうか
312
秋果てて
霧の籬に
むすぼほれ
あるかなきかに
移る朝顔
〔朝顔:斎院〕秋は終わって
霧の立ち込める
垣根にしぼんで
今にも枯れそうな
朝顔の花のようなわたしです
313
いつのまに
蓬がもとと
むすぼほれ
雪降る里と
荒れし垣根ぞ
〔源氏〕いつの間に
この邸は蓬が生い茂り

雪に埋もれたふる里と
なってしまったのだろう
314
年経れど
この契りこそ
られね
とか
ひし一
〔典侍〕何年たっても
あなたとのご縁が
忘れられません
親の親――わたしはあなたの祖母、とか
おっしゃった一言がございますもの
315
身を変へて
後も待ち見よ
この世にて
るる
ためしありやと
〔源氏〕来世に生まれ変わった
後まで待って見てください
この世で
子が親を忘れる
例があるかどうかと
316
つれなさを
昔に懲りぬ
心こそ
人のつらきに
添へてつらけれ
〔源氏〕昔のつれない仕打ちに
懲りもしない
わたしの心までが
あなたがつらく思う心に
加わってつらく思われるのです
317
あらためて
何かは見えむ
人のうへに
かかりと聞きし
変はり
〔朝顔:斎院〕今さらどうして
気持ちを変えたりしましょう
他人では
そのようなことがあると聞きました
心変わりを
318
氷閉ぢ
石間の水は
行きなやみ
空澄む月の
ぞ流るる
〔紫上〕氷に閉じこめられた
石間の遣水は
流れかねているが
空に澄む月の
はとどこおりなく西へ流れて行く
319
かきつめて
昔恋しき
雪もよに
あはれを添ふる
鴛鴦の浮
〔源氏〕何もかも
昔のことが恋しく思われる
雪の夜にいっそう
しみじみと思い出させる
鴛鴦の鳴き声であることよ
320
とけて寝ぬ
覚さびしき
冬の夜に
むすぼほれつる
夢の短さ
〔源氏〕安らかに眠られず
ふと寝覚めた寂しい
冬の夜に

見た夢の何とも短かかったことよ
321
亡き人を
慕ふ心に
まかせても
見ぬ三つの
瀬にや惑はむ
〔源氏〕亡くなった方を
恋慕う心に
まかせてお尋ねしても
その姿も見えない
三途の川のほとりで迷うことであろうか