古事記~探下逆鉤針 原文対訳

鯛の喉 古事記
上巻 第五部
ホデリとホオリの物語
探下逆鉤針
(謀反逆転)
佐比持神
一尋和邇
原文 書き下し
(武田祐吉)
現代語訳
(武田祐吉)
於是探
赤海鯽魚之喉者。
ここに赤海鯽魚の喉を
探りしかば、
そこで鯛の喉を
探りましたところ、
有鉤。 鉤あり。 鉤があります。
     
即取出而。 すなはち取り出でて そこで取り出して
清洗。 清洗すすぎて、 洗つて
奉火遠理命之時。 火遠理の命に奉る時に、 ホヲリの命に獻りました時に、
綿津見大神 その綿津見の大神 海神が
曰之。 誨をしへて曰さく、 お教え申し上げて言うのに、
以此鉤。 「この鉤を 「この鉤を
給其兄時。 その兄に給ふ時に、 兄樣にあげる時には、
言状者。 のりたまはむ状は、  
此鉤者。 この鉤は、 この鉤は
淤煩鉤。 淤煩鉤おばち、 貧乏鉤
びんぼうばりの
悲しみ鉤ばりだ
須須鉤。 須須鉤すすち、
貧鉤。 貧鉤まぢち、
宇流鉤。 宇流鉤うるち
云而。 といひて、 と言つて、
〈於煩及
須須亦
宇流
六字以音〉
   
於後手賜。 後手しりへでに
賜へ。
うしろ向きに
おあげなさい。
     
然而。 然して そして
其兄
作高田者。
その兄
高田あげだを作らば、
兄樣が
高い所に田を作つたら、
汝命
營下田。
汝が命は
下田くぼだを營つくりたまへ。
あなたは
低い所に田をお作りなさい。
其兄
作下田者。
その兄
下田を作らば、
兄樣が
低い所に田を作つたら、
汝命
營高田。
汝が命は
高田を營りたまへ。
あなたは
高い所に田をお作りなさい。
     
爲然者。 然したまはば、 そうなすつたら

掌水故
三年之間。

水を掌しれば、
三年の間に
わたくしが
水を掌つかさどつておりますから、
三年の間に
必其兄貧窮。 かならずその兄貧しくなりなむ。 きつと兄樣が貧しくなるでしよう。
     
若恨怨
其爲然之事而。
もしそれ
然したまふ事を恨みて
もし
このようなことを恨んで
攻戰者。 攻め戰はば、 攻め戰つたら、
出鹽盈珠
而溺。
鹽しほ盈みつ珠たまを
出して溺らし、
潮しおの滿みちる珠を
出して溺らせ、
若其
愁請者。
もしそれ
愁へまをさば
もし
大變にあやまつて來たら
出鹽乾珠
而活。
鹽しほ乾ふる珠たまを
出して活いかし、
潮しおの乾ひる珠を
出して生かし、
如此令
惚苦云。
かく惚苦たしなめたまへ」
とまをして、
こうしてお苦しめなさい」
と申して、
     

鹽盈
鹽盈つ珠 潮の滿ちる珠
鹽乾 鹽乾る珠 潮の乾る珠、
并兩箇。 并せて兩箇ふたつを
授けまつりて、
合わせて二つを
お授け申し上げて、
     
即悉
召集和邇魚
問曰。
すなはち悉に
鰐どもをよび集へて、
問ひて曰はく、
悉く
鰐わにどもを呼び集め
尋ねて言うには、
今天津日高之御子。 「今天つ日高の御子 「今天の神の御子の
虛空津日高 虚空つ日高、 日ひの御子樣みこさまが
爲將出幸
上國
上うはつ國くにに
幸いでまさむとす。
上の國に
おいでになろうとするのだが、
誰者。 誰は お前たちは
幾日送奉而。 幾日に送りまつりて、 幾日にお送り申し上げて
覆奏。 覆かへりごと奏まをさむ」と問ひき。 御返事するか」と尋ねました。

 

鯛の喉 古事記
上巻 第五部
ホデリとホオリの物語
探下逆鉤針
(謀反逆転)
佐比持神
一尋和邇

解説

 
 
 冒頭の「其綿津見大神」は「海神」で、さらにホオリが海の世界に入る前に出現した「鹽椎神」。
 三者を別に解する必然性はないし、全員に「虛空津日高」と呼ばせている。
 
 鹽椎神の発言にこのようなものがあった。
 「爾鹽椎神。云我爲汝命。作善議」(汝のため善いはかりごとをしよう)
 そしてこの段では表現が全て反転しているから、この表現は、悪い謀(たばかり)を暗示。
 つまり悪者のいう「良い話」と同じ。
 

 曲がったハリにかけ、曲がった謀りごと。
 兄は立てるとかではなく、たくらみ自体が道理に反している。
 ただ逆らう(逆のことをする)ことが目的。これが天邪鬼。
 側女の天のサグメなどよりも、ホオリこそ天邪鬼。
 
 上の国とは、海から上がること。
 大和に上ると掛けて、海を渡って倭に行くこと。
 海を渡るという表現は次の段である。
 

 「此鉤者。淤煩鉤。須須鉤。貧鉤。宇流鉤」は、一見して梓弓真弓槻弓などと同様の表現。
 つまり鉤(カギ)は外して見る。それが解読のカギ。
 
 オバススマズシ売る。
 母を売るほど(心が)貧しくなる(堕ちたことをする)という意味かと思う。神話の母は天照(神ムスビ)。
 つまり、神を金を得るための方便・形だけで立てている。
 スサノオが追放された先で、自分は天照の弟だと名乗ったようなもの。
 そこにクソをまいて汚したのにそんなことがあっても関係ない。海はスサノオの領分。ホオリもそれを継承。
 下に行って悪化して(ここでは堕落して)戻って来るのは大国主の根の国エピソードと同じ。