枕草子 一本27 池ある所の五月長雨の頃こそ

荒れたる家 枕草子
一本
27段
池ある所
長谷に

(旧)大系:一本27段
新大系:一本27段、新編全集:一本26段
(以上全て三巻本系列本。しかし後二本の構成は2/3が一致せず混乱を招くので、以後、三巻本理論の根本たる『(旧)大系』に準拠すべきと思う)
(旧)全集=能因本:ナシ
 


 
 池ある所の五月長雨の頃こそいとあはれなれ。菖蒲、菰など生ひこりて、水もみどりなるに、二輪もひとつ色に見えわたりて、曇りたる空をつくづくとながめくらしたるは、いみじうこそあはれなれ。いつも、すべて、池ある所はあはれにをかし。
 冬も、氷したるあしたなどはいふべきにもあらず。わざとつくろひたるよりも、うち捨てて水草がちに荒れ、青みたる絶え間絶え間より、月かげばかりは白々と映りて見えたるなどよ。
 

 すべて、月かげは、いかなる所にてもあはれなり。