枕草子268段 男こそ、なほいとありがたく

世の中に 枕草子
下巻中
268段
男こそ
よろづの

(旧)大系:268段
新大系:249段、新編全集:250段
(以上全て三巻本系列本。しかし後二本の構成は2/3が一致せず混乱を招くので、以後は最も索引性に優れ三巻本理論の根本たる『(旧)大系』に準拠すべきと思う)
(旧)全集=能因本:ナシ
 


 
 男こそ、なほいとありがたくあやしき心地したるものはあれ。いときよげなる人を捨てて、にくげなる人を持たるもあやしかし。おほやけ所に入りたちする男、家の子などは、あるがなかによからむことをこそは、選りて思ひ給はめ。およぶまじからむ際をだに、めでたしと思はむを、死ぬばかりも思ひかかれかし。人のむすめ、まだ見ぬ人などをも、よしと聞くをこそは、いかでとも思ふなれ。かつ女の目にもわろしと思ふを思ふは、いかなることにかあらむ。
 かたちいとよく、心もをかしき人の、手もよう書き、歌もあはれに詠みて、うらみおこせなどするを、返り事はさかしらにうちするものから、よりつかず、らうたげにうちなげきてゐたるを、見捨てていきなどするは、あさましう、おほやけ腹立ちて、見証の心地も心憂く見ゆべけれど、身の上にては、つゆ心苦しさを思ひ知らぬよ。
 
 

世の中に 枕草子
下巻中
268段
男こそ
よろづの