枕草子128段 八幡の行幸のかへらせ給ふに

はしたなき 枕草子
上巻下
128段
八幡の行幸
関白殿

(旧)大系:128段
新大系:122段、新編全集:123段後段
(以上全て三巻本系列本。しかし後二本の構成は2/3が一致せず、混乱を招くので、三巻本理論の根本たる『(旧)大系』に準拠すべきと思う)
(旧)全集=能因本:131段
 


 
 八幡の行幸のかへらせ給ふに、女院の御桟敷のあなたに御輿とどめて、御消息申させ給ふ、世に知らずいみじきに、まことにこぼるばかり、化粧じたる顔みなあらはれて、いかに見苦しからむ。宣旨の使にて、斉信の宰相の中将の、御桟敷へ参り給ひしこそ、いとをかしう見えしか。ただ随身四人、いみじう装束きたる、馬副のほそく白うしたてたるばかりして、二条の大路の広くきよげなるに、めでたき馬をうちはやめて、いそぎ参りて、すこし遠くおり下りて、そばの御簾の前に候ひ給ひしなど、をかし。御返し承りて、御輿のもとにて奏し給ふほど、いふもおろかなり。
 

 さて、うちのわたらせ給ふを、見奉らせ給ふらむ御心地、思ひやり参らするは、飛び立ちぬべくこそおぼえしか。それには長泣きをして笑はるるぞかし。よろしき際の人だに、なほ子のよきはいとめでたきものを、かくだに思ひ参らするもかしこしや。