源氏物語 帚木:巻別和歌14首・逐語分析

桐壺 源氏物語
和歌一覧
各巻別内訳
第2帖 帚木
空蝉

 
 源氏物語・帚木(ははきぎ)巻の和歌14首を抜粋一覧化し、現代語訳と歌い手を併記、原文対訳の該当部と通じさせた。

 

 内訳:3(源氏)、2×2(空蝉:伊予介の後妻、見そめたりし人=夕顔:頭中将愛人・玉鬘母)、1×9(左馬頭、殿上人、頭中将、藤式部丞、女×3)※最初最後
 

帚木・和歌の対応の程度と歌数
和歌間の文字数
即答 7首  40字未満
応答 6首  40~100字未満
対応 0  ~400~1000字+対応関係文言
単体 1首  単一独詠・直近非対応

※分類について和歌一覧・総論部分参照。

 

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 上下の句に分割したバージョン。見やすさに応じて。

 なお、付属の訳はあくまで通説的理解の一例なので、訳が原文から離れたり対応していない場合、より精度の高い訳を検討されたい。
 


  原文
(定家本校訂)
現代語訳
(渋谷栄一)
10
手を折りて
あひ見しことを
数ふれば
これひとつやは
君が憂きふし
〔左馬頭〕あなたとの結婚生活を指折り
【あなたと会って色々見てきたことを】
(△連れ添ってきた間にあったことを:全集)
数えてみますと
この一つだけが
あなたの嫌な点なものか
11
憂きふし
心ひとつに
数へきて
こや君が手を
別るべきをり
〔女=左馬頭の愛人①〕 あなたの辛い仕打ちを
胸の内に
堪えてきましたが
今は
別れる時なのでしょうか
12
琴の音
月もえならぬ
宿ながら
つれなき人を
ひきやとめける
〔殿上人〕 琴の音色も
月も素晴らしい
お宅ですが
薄情な方を
引き止めることができなかったようですね
13
木枯に
吹きあはすめる
の音
ひきとどむべき
言の葉ぞなき
〔女=左馬頭の愛人②〕 冷たい木枯らしに
合うような
あなたの笛の音を
引きとどめる
術をわたしは持ち合わせていません
14
山がつの
垣ほ荒るとも
折々に
あはれはかけよ
撫子の露
〔見そめたりし人=夕顔:頭中将愛人〕 山家の垣根は
荒れていても
時々は
かわいがってやってください
撫子の花を
15
咲きまじる
色はいづれと
分かねども
なほ常夏に
しくものぞなき
〔頭中将〕 庭にいろいろ咲いている
花はいずれも
皆美しいが
やはり常夏の花のあなたが
一番美しく思われます
16
うち払ふ
袖も露けき
常夏に
あらし吹きそふ
秋も来にけり
〔見そめたりし人=夕顔:頭中将愛人〕 床に積もる塵を払う
袖も涙に濡れている
常夏の身の上に
さらに激しい風の吹きつける
秋までが来ました
17
ささがにの
ふるまひしるき
夕暮れに
ひるま過ぐせと
いふがあやなさ
〔藤式部丞〕 蜘蛛の
動きでわたしの来ることがわかっているはずの
夕暮に
蒜が臭っている昼間が過ぎるまで待てと
言うのは訳がわかりません
18
逢ふことの
夜をし隔てぬ
仲ならば
ひる間も何か
まばゆからまし
〔かしこき女=藤式部丞の愛人〕 逢うことを
一夜も置かずに毎晩逢っている
夫婦仲ならば
蒜の臭っている昼間に逢ったからといってどうして
恥ずかしいことがありましょうか
19
つれなきを
恨みも果てぬ
しののめに
とりあへぬまで
おどろかすらむ
〔源氏〕 あなたの冷たい態度に
恨み言を十分に言わないうちに
夜もしらみかけ
鶏までが取るものも取りあえぬまで
あわただしく鳴いてわたしを起こそうとするのでしょうか
20
身の憂さを
嘆くにあかで
明くる
とり重ねてぞ
音もなかれける
〔空蝉〕 わが身の辛さを
嘆いても嘆き足りないうちに
明ける夜は
鶏の鳴く音に取り重ねて、
わたしも泣かれてなりません
21
贈:
見し夢を
逢ふありやと
嘆くまに
目さへあはでぞ
ころも経にける
〔源氏→空蝉〕 夢が現実となったあの夜以来、
再び逢える夜があろうかと
嘆いているうちに
目までが合わさらないで
眠れない夜を幾夜も送ってしまいました
22
帚木
心を知らで
園原の
道にあやなく
惑ひぬるかな
〔源氏〕近づけば消えるという帚木のような、
あなたの心も知らないで近づこうとして、
園原への
道に空しく
迷ってしまったことです
23
数ならぬ
伏屋に生ふる
名の憂さに
あるにもあらず
消ゆる帚木
〔空蝉〕 しがない
境遇に生きる
わたしは情けのうございますから
見えても触れられない
帚木のようにあなたの前から姿を消すのです