奥の細道 須賀川:原文対照



『おくのほそ道』
素龍清書原本 校訂
『新釈奥の細道』
   とかくして越え行くままに、阿武隈川を渡る。 とかくして越行くまゝにあふくま川をわたる
  左に会津根高く、 左に會津根高く
  右に岩城、相馬、三春の庄、 右に岩城相馬三春の庄
  常陸、下野の地をさかひて ひたち下野の地をさかひて
  山連なる。 山つらなる
  影沼といふ所を行くに、 かげ沼といふ所を行に
  今日は空曇りて物影映らず。 けふは空くもりて影うつらず
     
   須賀川の駅に等窮といふ者を尋ねて、 すか川の驛に等窮といふものを尋て
  四五日とどめらる。 四五日とゝめらる
  まづ、「白河の関いかに越えつるや」と問ふ。 先白河のせきいかに越つるやと問ふ
  「長途の苦しみ、身心疲れ、 長途の勞身心くるしく
  かつは風景に魂奪はれ、 風景に魂うばはれ
  懐旧に腸を断ちて、 懷舊に腸を斷て
  はかばかしう思ひめぐらさず。 はか〳〵しうおもひめくらさず
     

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 風流の 初めや奥の 田植歌  風流の はしめやおくの 田植うた
     
  無下に越えんもさすがに」と語れば、 無下に越えんもさすがにと語れは
  脇、第三と続けて、三巻となしぬ。 脇第三とつゞけて三卷と一本とはトアリなしぬ
     
   この宿のかたはらに、 此宿の傍に
  大きなる栗の木陰を頼みて、世をいとふ僧あり。 大なる栗の木蔭をたのみて世をいとふ僧あり
  橡拾ふ太山もかくやとしづかにおぼえられて、 とちひろふ深山もかくやと閒に覺えられて
  ものに書き付け侍る。 ものにかきつけ侍る
  その詞、  
  『栗といふ文字は、  栗といふ文字は
  西の木と書きて、西方浄土に便りありと、 西の木とかきて西方淨土に便ありと
  行基菩薩の一生杖にも柱にも 行基ぼさつ一本ぼさつのトアリ一生杖にもはしらにも
  この木を用ゐ給ふとかや』 此木を用ひ給ふとかや
     

15
 世の人の 見付けぬ花や 軒の栗  世の人の みつけぬ花や 軒の栗