古事記~第一次神逐 原文対訳

三貴子② 古事記
上巻 第一部
イザナギとイザナミ
スサノオの第一次神逐
天照の武装
原文 書き下し
(武田祐吉)
現代語訳
(武田祐吉)
故。
各隨依
賜之命。
 かれ
おのもおのもよさし
賜へる命のまにま
それで
それぞれ
命ぜられたままに
所知看之中。 知らしめす中に、 治められる中に、
速須佐之男命。 速須佐の男の命、 スサノヲの命だけは
不知所
命之國而。
依さしたまへる國を
知らさずて、
命ぜられた國を
お治めなさらないで、
八拳須
至于心前。
八拳須
やつかひげ
心前むなさきに至るまで、
長い鬚ひげが
胸に垂れさがる
年頃になつても
啼伊佐知伎也。
〈自伊下四字
以音下效此〉
啼きいさちき。 ただ
泣きわめいて
おりました。
     
其泣状者。 その泣く状さまは、 その泣く有樣は
青山
如枯山
泣枯。
青山は
枯山なす
泣き枯らし
青山が
枯山になるまで
泣き枯らし、
河海者
悉泣乾。
河海うみかはは
悉ことごとに
泣き乾ほしき。
海や河は
泣く勢いで
泣きほしてしまいました。
     
是以
惡神之音。
ここを以ちて
惡あらぶる神の音なひ、
そういう次第ですから
亂暴な神の物音は
如狹蠅
皆滿。
狹蠅さばへなす
皆滿みち、
夏の蠅が騷ぐように
いつぱいになり、
萬物之妖
悉發。
萬の物の妖わざはひ
悉に發おこりき。
あらゆる物の妖わざわいが
悉く起りました。
     

伊邪那岐
大御神。
かれ
伊耶那岐の
大御神、
そこで
イザナギの命が

速須佐之男命。
速須佐の男の命に
詔りたまはく、
スサノヲの命に
仰せられるには、
何由以汝。 「何とかも汝いましは 「どういうわけであなたは
不治所
事依之國而。
言依させる國を
治しらさずて、
命ぜられた國を
治めないで
哭伊佐知流。 哭きいさちる」
とのりたまへば、
泣きわめいているのか」
といわれたので、
爾答白。 答へ白さく、 スサノヲの命は、
僕者欲
罷妣國
根之堅洲國
故哭。
「僕あは
妣ははの國
根ねの堅洲かたす國に罷らむ
とおもふがからに哭く」
とまをしたまひき。
「わたくしは
母上のおいでになる
黄泉よみの國に行きたい
と思うので泣いております」
と申されました。
     

伊邪那岐
大御神
ここに
伊耶那岐の
大御神、
そこで
イザナギの命が
大忿怒。 大いたく忿らして 大變お怒りになつて、

然者
汝不可住此國。
詔りたまはく、
「然らば
汝はこの國にはな住とどまりそ」
と詔りたまひて、
「それなら
あなたはこの國には住んではならない」
と仰せられて

神夜良比爾
夜良比賜也。
〈自夜以下七字以音〉
すなはち
神逐かむやらひに
逐やらひたまひき。
追いはらつてしまいました。
     
故。
其伊邪那岐
大神者。
かれ
その伊耶那岐の大神は、
このイザナギの命は、

淡海之
多賀也。
淡路の
多賀たがに
まします。
淡路の
多賀たがの社やしろに
お鎭しずまりになつておいでになります。
三貴子② 古事記
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イザナギとイザナミ
スサノオの第一次神逐
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