古事記~黄泉③対立 原文対訳

黄泉② 古事記
上巻 第一部
イザナギとイザナミ
黄泉③対立
禊祓①
原文 書き下し
(武田祐吉)
現代語訳
(武田祐吉)
最後
其妹
伊邪那美命。
最後いやはてに
その妹
伊耶那美の命、
最後には
女神めがみ
イザナミの命が
身自
追來焉。
身みみづから
追ひ來ましき。
御自身で
追つておいでになつたので、
爾千引石。 ここに千引の石いはを 大きな巖石を
引塞
其黃泉比良坂。
その
黄泉比良坂
よもつひらさかに
引き塞さへて、
その
黄泉比良坂
よもつひらさかに
塞ふさいで
其石置中。 その石を中に置きて、 その石を中に置いて
各對立而。 おのもおのも對むき立たして、 兩方で對むかい合つて
度事戶之時。 事戸ことどを
度わたす時に、
離別りべつの言葉を
交かわした時に、
伊邪那美命
言。
伊耶那美の命
のりたまはく、
イザナミの命が
仰せられるには、
愛我那勢命。 「愛うつくしき
我あが汝兄なせの命、
「あなたが
爲如此者。 かくしたまはば、 こんなことをなされるなら、
汝國之人草。 汝いましの國の人草、 わたしはあなたの國の人間を
一日
絞殺
千頭。
一日ひとひに
千頭ちかしら
絞くびり殺さむ」
とのりたまひき。
一日に
千人も殺してしまいます」
といわれました。
爾。 ここに そこで
伊邪那岐命詔。 伊耶那岐の命、
詔りたまはく、
イザナギの命は
愛我那邇妹命。 「愛しき我が汝妹なにもの命、 「あんたが
汝爲然者。 汝みまし然したまはば、 そうなされるなら、
吾一日立
千五百
產屋。
吾あは一日に
千五百ちいほの
産屋うぶやを立てむ」
とのりたまひき。
わたしは一日に
千五百も
産屋うぶやを立てて見せる」
と仰せられました。
     
是以
一日必千人死。
ここを以ちて
一日にかならず千人ちたり死に、
こういう次第で
一日にかならず千人死に、
一日必千五百人
生也。
一日にかならず千五百人
なも生まるる。
一日にかならず千五百人
生まれるのです。
     
故號
其伊邪那美神命。
 かれ
その伊耶那美の命に
號なづけて
かくして
そのイザナミの命を

黃泉津大神。
黄泉津よもつ大神といふ。 黄泉津大神
よもつおおかみと申します。
亦云。 また また
以其追斯伎斯
〈此三字以音〉而。
その追ひ及しきしをもちて、 その追いかけたので、

道敷大神。
道敷ちしきの大神
ともいへり。
道及ちしきの大神
とも申すということです。
     
亦所塞
其黃泉坂之
石者。
また
その黄泉よみの坂に
塞さはれる石は、
その
黄泉の坂に
塞ふさがつている巖石は
號道反大神。 道反ちかへしの大神ともいひ、  
亦謂
塞坐
黃泉戶大神。
塞さへます
黄泉戸よみどの大神
ともいふ。
塞いでおいでになる
黄泉よみの入口の大神
と申します。
故其所謂
黃泉比良坂者。
かれそのいはゆる
黄泉比良坂
よもつひらさかは、
その
黄泉比良坂
よもつひらさかというのは、
今謂出雲國之
伊賦夜坂也。
今、出雲の國の
伊賦夜いぶや坂といふ。
今の出雲いずもの國の
イブヤ坂ざかという坂です。
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イザナギとイザナミ
黄泉③対立
禊祓①