古事記 志自牟の新室楽~原文対訳

飯豊女王の治世 古事記
下巻⑦
22代 清寧天皇
志自牟の新室楽
志毘の歌垣
原文 書き下し
(武田祐吉)
現代語訳
(武田祐吉)

人民・志自牟の家

     
爾山部連
小楯。
 ここに山部やまべの連むらじ
小楯をたて、
 ここに山部やまべの連
小楯おだてが
任針間國之
宰時。
針間はりまの國の
宰みこともちに任よさされし時に、
播磨の國の
長官に任命されました時に、
到其國之人民。 その國の人民おほみたから この國の人民の
名志自牟之
新室樂。
名は志自牟しじむが
新室に到りて樂うたげしき。
シジムの家の
新築祝いに參りました。
     
於是。
盛樂。
酒酣。
ここに
盛さかりに樂うたげて
酒酣なかばなるに、
そこで
盛んに遊んで、
酒酣たけなわな時に
以次第
皆儛。
次第つぎてをもちて
みな儛ひき。
順次に
皆舞いました。
     

燒火少子二口。
かれ
火燒たきの小子わらは二人、
その時に
火焚ひたきの少年が二人
居竈傍。 竈かまどの傍へに居たる、 竈かまどの傍におりました。
     

おまえがまえ(前/舞え)

     
令儛
其少子等。
その小子どもに
儛はしむ。
依つてその少年たちに
舞わしめますに、
     
爾其一少子。 ここにその一人の小子、 一人の少年が
曰。
汝兄先儛。
「汝兄なせまづ儛ひたまへ」
といへば、
「兄上、まずお舞まいなさい」
というと、
其兄亦。 その兄も、 兄も

汝弟先儛。
「汝弟なおとまづ儛ひたまへ」
といひき。
「お前がまず舞まいなさい」
と言いました。
如此相讓之時。 かく相讓る時に、 かように讓り合つているので、
其會人等。 その會つどへる人ども、 その集まつている人たちが
咲其相讓之状。 その讓れる状さまを咲わらひき。 讓り合う有樣を笑いました。
     
爾遂兄儛訖。 ここに遂に兄儛ひ訖りて、 遂に兄がまず舞い、
次弟將儛時。 次に弟儛はむとする時に、 次に弟が舞おうとする時に
爲詠曰。 詠ながめごとしたまひつらく、 詠じました言葉は、
     
物部之。 物ものの部ふの、 武士である
我夫子之。 わが夫子せこが、 わが君の
取佩。 取り佩はける、 お佩きになつている
於大刀之手上。 大刀の手上たがみに、 大刀の柄つかに、
丹畫著。 丹書にかき著け、 赤い模樣を畫き、
其緒者。 その緒には、 その大刀の緒には
載赤幡。 赤幡あかはたを裁ち、 赤い織物を裁たつて附け、
     
立赤幡。 赤幡たちて見れば、 立つて見やれば、
見者五十隱。 い隱る、 向うに隱れる
山三尾之。 山の御尾の、 山の尾の上の
竹矣。
「本」訶岐
〈此二字以音〉
苅。
竹を
掻き
苅り、
竹を
刈り
取つて、

押縻魚簀。

押し靡かすなす、
その竹の末を
押し靡なびかせるように、
如調
八絃琴。
八絃やつをの琴を
調しらべたるごと、
八絃の琴を
調べたように、
所治賜天下。 天の下治しらし給たびし、 天下をお治めなされた
伊邪本和氣。 伊耶本和氣いざほわけの イザホワケの
天皇之御子。 天皇の御子、 天皇の皇子の
市邊之。 市の邊の イチノベノ
押齒王之。 押齒の王みこの、 オシハの王の御子みこです。
奴末。 奴やつこ、御末みすゑ。 わたくしは。
     
   とのりたまひつ。 と述べましたから、
     

オホケとヲケ、王家に復帰

     
爾即
小楯連聞驚而。
ここにすなはち
小楯の連聞き驚きて、
小楯が
聞いて驚いて
自床墮轉而。 床とこより墮ち轉まろびて、 座席から落ちころんで、
追出其室人等。 その室の人どもを追ひ出して、 その家にいる人たちを追い出して、
其二柱王子。 その二柱の御子を、 そのお二人の御子を
坐左右膝上。 左右ひだりみぎりの
膝の上へに坐ませまつりて、
左右の
膝の上にお据え申し上げ、
泣悲而。 泣き悲みて、 泣き悲しんで
     
集人民作假宮。 人民どもを集へて、 民どもを集めて
坐置
其假宮而。
假宮を作りて、
その假宮に坐ませまつり置きて、
假宮を作つて、
その假宮にお住ませ申し上げて
貢上驛使。 驛使はゆまづかひ上りき。 急使を奉りました。
     
於是。
其姨飯豐王。
ここに
その御姨をば飯豐いひとよの王、
そこで
その伯母樣のイヒトヨの王が
聞歡而。 聞き歡ばして、 お喜びになつて、
令上於宮。 宮に上のぼらしめたまひき。 宮に上らしめなさいました。
飯豊女王の治世 古事記
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