枕草子150段 胸つぶるるもの

いやしげ 枕草子
中巻中
150段
胸つぶる
うつくし

(旧)大系:150段
新大系:143段、新編全集:144段
(以上全て三巻本系列本。しかし後二本の構成は2/3が一致せず混乱を招くので、以後、三巻本理論の根本たる『(旧)大系』に準拠すべきと思う)
(旧)全集=能因本:154段
 


 
 胸つぶるるもの 競馬見る。元結よる。親などの心地あしとて、例ならぬけしきなる。まして、世の中などさわがしと聞こゆる頃は、よろづのことおぼえず。また、ものいはぬちごの泣き入りて、乳も飲まず、乳母のいだくにもやまで久しき。
 

 例の所ならぬ所にて、ことにまたいちじるからぬ人の声聞きつけたるはことわり、こと人などのそのうへなどいふにも、まづこそつぶるれ。いみじうにくき人の来たるにも、またつぶる。あやしくつぶれがちなるものは、胸こそあめれ。
 

 よべ来はじめたる人の、今朝の文のおそきは、人のためさへつぶる。
 
 

いやしげ 枕草子
中巻中
150段
胸つぶる
うつくし