枕草子81段 御仏名のまたの日

心地よげなる 枕草子
上巻下
81段
御仏名の
頭の中将の

(旧)大系:81段
新大系:77段、新編全集:77段
(以上全て三巻本系列本。しかし後二本の構成は2/3が一致せず、混乱を招くので、三巻本理論の根本たる『(旧)大系』に準拠すべきと思う)
(旧)全集=能因本:85段
 


 
 御仏名のまたの日、地獄絵の屏風とりわたして、宮に御覧ぜさせ奉らせ給ふ。ゆゆしう、いみじきことかぎりなし。「これ見よ、見よ」と仰せらるれど、「さらに見侍らじ」とて、ゆゆしさにうへやにかくれふぬ。
 

 雨いたう降りてつれづれなりとて、殿上人上の御局に召して御遊びあり。道方の少納言、琵琶いとめでたし。済政筝の琴、行儀笛、経房の少将、笙の笛などおもしろし。
 ひとわたり遊びて、琵琶のひきやみたるほどに、大納言殿、「琵琶の声やんで物語せむとすること遅し」と誦し給へりしに、かくれふしたるしも起き出でて、「なほ、罪おそろしけれども、もののめでたさはやむまじ」とて笑はる。