徒然草75段 つれづれわぶる人は:原文

蟻のごとく 徒然草
第二部
75段
つれづれわぶ
世のおぼえ

 
 つれづれわぶる人は、いかなる心ならむ。
まぎるるかたなく、ただひとりあるのみこそよけれ。
世に従へば、心、外の塵に奪はれてまどひやすく、人に交はれば、ことばよその聞きにしたがひて、さながら心にあらず。
人にたはぶれ、者にあらそひ、ひとたびはうらみ、ひとたびはよろこぶ。
そのこと定まれることなし。
分別みだりに起こりて、得失やむ時なし。
まどひの上に酔へり。
酔の中に夢をなす。
走りていそがはしく、ほれて忘れたること、人みなかくのごとし。
 

 いまだまことの道を知らずとも、縁を離れて身を静かにし、事にあづからずして心をやすくせむこそ、しばらく楽しぶともいひつべけれ。
「生活、人事、伎能、学問等の諸縁をやめよ」とこそ、摩訶止観にもはべれ。