宇治拾遺物語:貫之、歌の事

高忠侍 宇治拾遺物語
巻第十二
12-13 (149)
貫之、歌の事
東人の歌

 
 今は昔、貫之が土佐守になりて、下りてありけるほどに、任果の年、七八ばかりの子の、えもいはずをかしげなるを、限りなくかなしうしけるが、とかく煩ひて、失せにければ、泣きまどひて、病づくばかり思ひこがるるほどに、月ごろになりぬれば、かくてのみあるべき事かは、上りなんと思ふに、児のここにて、何とありしはやなど、思ひ出でられて、いみじうかなしかりければ、柱に書きつけける
 

♪17
 都へと 思ふにつけて 悲しきは
 帰らぬ人の あればなりけり

 
 とかきつけたりける歌なん、いままでありける。