万葉集 第四巻:一覧と配置

第三巻 万葉集
第四巻
第五巻

 
 万葉集第四巻、その一覧と配置。
 内容はリンク先から引用。底本は西本願寺本とのこと(最も代表的な写本とされる)。
 題詞と左注の読み下しを『萬葉集古義』の鹿持訓訂で補う。題詞と左注に併記した訓はこの引用で、常に対応しているとは限らない。
 しかし一致すること、していないこと、それぞれに考える意味がある。
 

 一巻から四巻までは人麻呂の歌集と解する。
 五巻は憶良の歌集。それ以降は赤人が主体で、没した人麻呂の歌をメインに編纂した。それが人麻呂の精神を継承した赤人の高い評価(山柿の門)。
 だから五巻以降は、端的な人麻呂認定がなく人麻呂歌集とされる。つまり四巻までは自分認定。そして人麻呂没で憶良が一時的にしゃしゃり出たと見れる。
 

 三巻以降末尾に家持が出現するが、どう見てもその部分だけ後日の付加。全体でも各巻でも(17巻以降を除き)冒頭から中核に家持がくることは一切ない。
 家持が最も後発なので万葉の編纂者とする見解が一般だが、家持主体の17巻以降の固定的構成(一貫して冗長)と全体の構成は全く異なるためありえない。
 

 万葉の本質的構成は流動性に富み、無名を重んじ、シンプルさを貫いている。憶良と家持が支配的な巻は、一見してその精神と相容れず、徒に煩瑣である。
 古今と比較しても、支配的影響を持つ編纂者が冒頭の一巻・ニ巻に皆無ということはありえないし、家持は人麻呂赤人のような謙抑的な記述の者でもない。
 だから憶良と家持は、貫之と定家から赤人より評価されていない。そしてどちらも憶良を無視している。その原因は、五巻を少しでも見ればわかるはず。
 見ても何のことかわからない人は、少なくとも、貫之と定家と同じ感性ではない。


 

第四巻 目次と配置(484~792:309首)
相聞(309首)
      484
難波天皇妹
485
崗本◇ 
486
崗本◇ 
487
崗本◇ 
488
額田王 
489
鏡王女 
490
吹芡刀自
491
吹芡刀自
492
舎人千年
493
田部忌寸櫟子
494
田部忌寸櫟子
495
田部忌寸櫟子
496
柿★
 
497
柿★
 
498
柿★
 
499
柿★
 
500
碁檀越妻
 
 
501
柿★
 
502
柿★
 
503
柿★
 
504
柿★
 
505
安倍女郎
506
安倍女郎
507
駿河婇女
508
三方沙弥
509
丹比真人笠麻呂
510
丹比真人笠麻呂
511
當麻麻呂大夫妻
512
草嬢
 
513
志貴皇子
514
阿倍女郎
515
中臣東人
516
阿倍女郎
517
大将軍大伴卿
518
石川郎女
519
大伴女郎
520
大伴女郎
521
常陸娘子
522
京職藤原大夫
523
京職藤原大夫
524
京職藤原大夫
525
坂上郎女
526
坂上郎女
527
坂上郎女
528
坂上郎女
529
大伴坂上郎女
530
◇:聖武 
531
海上女王
532
大伴宿奈麻呂
533
大伴宿奈麻呂
534
安貴王 
535
安貴王 
536
門部王 
537
高田女王
538
高田女王
539
高田女王
540
高田女王
541
高田女王
542
高田女王
543
笠金村 
544
笠金村 
545
笠金村 
546
笠金村 
547
笠金村 
548
笠金村 
549
石川足人
550
石川足人
551
石川足人
552
大伴三依
553
丹生女王
554
丹生女王
555
大宰帥大伴卿
556
賀茂女王
557
土師水道
558
土師水道
559
大伴百代
560
大伴百代
561
大伴百代
562
大伴百代
563
大伴坂上郎女
564
大伴坂上郎女
565
賀茂女王
566
大伴百代
567
大伴百代
568
門部石足
569
麻田陽春
570
麻田陽春
571
大伴四綱
572
沙弥満誓
573
沙弥満誓
574
大納言大伴卿
575
大納言大伴卿
576
葛井大成
577
大納言大伴卿
578
大伴三依
579
余明軍 
580
余明軍 
581
大伴坂上大娘
582
大伴坂上大娘
583
大伴坂上大娘
584
大伴坂上大娘
585
大伴坂上郎女
586
大伴稲公
587
笠女郎 
588
笠女郎 
589
笠女郎 
590
笠女郎 
591
笠女郎
592
笠女郎
593
笠女郎
594
笠女郎
595
笠女郎
596
笠女郎
597
笠女郎
598
笠女郎
599
笠女郎
600
笠女郎
 
 
601
笠女郎
602
笠女郎
603
笠女郎
604
笠女郎
605
笠女郎
606
笠女郎
607
笠女郎
608
笠女郎
609
笠女郎
610
笠女郎
611
612
613
山口女王
614
山口女王
615
山口女王
616
山口女王
617
山口女王
618
大神女郎
619
大伴坂上郎女
620
大伴坂上郎女
621
佐伯東人妻
622
佐伯東人
623
池邊王 
624
◇:聖武 
625
高安王 
626
八代女王
627
娘子
 
628
佐伯赤麻呂
629
大伴四綱
630
佐伯赤麻呂
631
湯原王 
632
湯原王 
633
娘子
 
634
娘子
 
635
湯原王 
636
湯原王 
637
娘子
 
638
湯原王 
639
娘子
 
640
湯原王 
641
娘子
 
642
湯原王 
643
紀郎女 
644
紀郎女 
645
紀郎女 
646
大伴駿河麻呂
647
大伴坂上郎女
648
大伴駿河麻呂
649
大伴坂上郎女
650
大伴三依
651
大伴坂上郎女
652
大伴坂上郎女
653
大伴駿河麻呂
654
大伴駿河麻呂
655
大伴駿河麻呂
656
大伴坂上郎女
657
大伴坂上郎女
658
大伴坂上郎女
659
大伴坂上郎女
660
大伴坂上郎女
661
大伴坂上郎女
662
市原王 
663
安都年足
664
大伴像見
665
安倍蟲麻呂
666
大伴坂上郎女
667
大伴坂上郎女
668
厚見王 
669
春日王 
670
湯原王 
671

 
672
安倍蟲麻呂
673
大伴坂上郎女
674
大伴坂上郎女
675
中臣女郎
676
中臣女郎
677
中臣女郎
678
中臣女郎
679
中臣女郎
680
681
682
683
大伴坂上郎女
684
大伴坂上郎女
685
大伴坂上郎女
686
大伴坂上郎女
687
大伴坂上郎女
688
大伴坂上郎女
689
大伴坂上郎女
690
大伴三依
691
692
693
大伴千室
694
廣河女王
695
廣河女王
696
石川廣成
697
大伴像見
698
大伴像見
699
大伴像見
700
 
 
701
河内百枝娘子
702
河内百枝娘子
703
巫部麻蘇娘子
704
巫部麻蘇娘子
705
706
童女
 
707
粟田女娘子
708
粟田女娘子
709
粟田女娘子
710
安都扉娘子
711
丹波大女娘子
712
丹波大女娘子
713
丹波大女娘子
714
715
716
717
718
719
720
721
大伴坂上郎女
722
723
724
大伴坂上郎女
725
大伴坂上郎女
726
大伴坂上郎女
727
728
729
大伴坂上大嬢
730
大伴坂上大嬢
731
大伴坂上大嬢
732
733
734
735
大伴坂上大嬢
736
737
大伴坂上大嬢
738
大伴坂上大嬢
739
740
741
742
743
744
745
746
747
748
749
750
751
752
753
754
755
756
大伴田村之大嬢
757
大伴田村之大嬢
758
大伴田村之大嬢
759
大伴田村之大嬢
760
大伴坂上郎女
761
大伴坂上郎女
762
紀女郎 
763
紀女郎 
764
紀女郎 
765
766
767
768
769
770
771
772
773
774
775
776
紀女郎
777
778
779
780
781
782
紀女郎 
783
784
785
786
787
788
789
790
791
藤原久須麻呂
792
藤原久須麻呂
               
 

第四巻

   
 

相聞

   
   04/0484
題詞 相聞 / 難波天皇妹奉上在山跡皇兄御歌一首
題訓 相聞したしみうた  難波天皇なにはのすめらみことの妹みいもの、山跡やまとに在います皇兄すめらみことのいろせのみことに奉上たてまつれる御歌一首ひとつ
原文 一日社 人母待<吉> 長氣乎 如此<耳>待者 有不得勝
訓読 一日こそ人も待ちよき長き日をかくのみ待たば有りかつましじ
仮名 ひとひこそ ひともまちよき ながきけを かくのみまたば ありかつましじ
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 告→吉 [元][紀][細] / 所→耳 [玉嬥小琴]
事項 相聞 作者:難波天皇妹 仁徳 孝徳 間人皇女 中大兄 恋情 女歌
訓異 ひともまちよき;ひともまつつけ, ながきけを;なかきけを, かくのみまたば;かくまたるれは, ありかつましじ;ありえたへすも, 
   
  04/0485
題詞 <崗>本天皇御製一首[并短歌]
題訓 岳本天皇をかもとのすめらみことのみよみませる御製歌おほみうた一首、また短歌みじかうた
原文 神代従 生継来者 人多 國尓波満而 味村乃 去来者行跡 吾戀流 君尓之不有者 晝波 日乃久流留麻弖 夜者 夜之明流寸食 念乍 寐宿難尓登 阿可思通良久茂 長此夜乎
訓読 神代より 生れ継ぎ来れば 人さはに 国には満ちて あぢ群の 通ひは行けど 我が恋ふる 君にしあらねば 昼は 日の暮るるまで 夜は 夜の明くる極み 思ひつつ 寐も寝かてにと 明かしつらくも 長きこの夜を
仮名 かむよより あれつぎくれば ひとさはに くににはみちて あぢむらの かよひはゆけど あがこふる きみにしあらねば ひるは ひのくるるまで よるは よのあくるきはみ おもひつつ いもねかてにと あかしつらくも ながきこのよを
左注 (右今案 高市<崗>本宮後<崗>本宮二代二帝各有異焉 但称<崗>本天皇未審其指)
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 岳→崗 [元][古][紀]
事項 相聞 作者:舒明 皇極 恋情 女歌 挽歌発想 枕詞
訓異 かむよより;かみよより, あれつぎくれば;あれつきくれは, あぢむらの;あちむらの, かよひはゆけど;いさとはゆけと, あがこふる;わかこふる, ひのくるるまで;ひのくるるまて, ながきこのよを;なかきこのよを, 
   
  04/0486
題詞 (<崗>本天皇御製一首[并短歌])反歌
題訓 反し歌
原文 山羽尓 味村驂 去奈礼騰 吾者左夫思恵 君二四不<在>者
訓読 山の端にあぢ群騒き行くなれど我れは寂しゑ君にしあらねば
仮名 やまのはに あぢむらさわき ゆくなれど われはさぶしゑ きみにしあらねば
左注 (右今案 高市<崗>本宮後<崗>本宮二代二帝各有異焉 但称<崗>本天皇未審其指)
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 存→在 [西(右書)][元][類]
事項 相聞 作者:舒明 皇極 恋情 挽歌発想
訓異 あぢむらさわき;あちむらさわき, ゆくなれど;ゆくなれと, われはさぶしゑ;われはさふしゑ, きみにしあらねば;きみにしあらねは, 
   
  04/0487
題詞 ((<崗>本天皇御製一首[并短歌])反歌)
原文 淡海路乃 鳥篭之山有 不知哉川 氣乃己呂其侶波 戀乍裳将有
訓読 近江道の鳥篭の山なる不知哉川日のころごろは恋ひつつもあらむ
仮名 あふみちの とこのやまなる いさやかは けのころごろは こひつつもあらむ
左注 右今案 高市<崗>本宮後<崗>本宮二代二帝各有異焉 但称<崗>本天皇未審其指
左注訓
校異 岳→崗 [元][古][紀] / 岳→崗 [西(右書)][元][類][古][紀] / 岳→崗 [西(右書)][元][類][古][紀]
事項 相聞 作者:舒明 皇極 恋情 序詞
訓異 けのころごろは;けのころころは, 
   
  04/0488
題詞 額田王思近江天皇作歌一首
題訓 額田王ぬかたのおほきみの近江天皇を思しぬひまつりてよみたまへる歌一首
原文 君待登 吾戀居者 我屋戸之 簾動之 秋風吹
訓読 君待つと我が恋ひ居れば我が宿の簾動かし秋の風吹く
仮名 きみまつと あがこひをれば わがやどの すだれうごかし あきのかぜふく
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 相聞 作者:額田王 天智 恋情 待攦 漢詩
訓異 あがこひをれば;わかこひをれは, わがやどの;わかやとの, すだれうごかし;すたれうこかし, あきのかぜふく;あきのかせふく, 
   
  04/0489
題詞 鏡王女作歌一首
題訓 鏡女王のよみたまへる歌一首
原文 風乎太尓 戀流波乏之 風小谷 将来登時待者 何香将嘆
訓読 風をだに恋ふるは羨し風をだに来むとし待たば何か嘆かむ
仮名 かぜをだに こふるはともし かぜをだに こむとしまたば なにかなげかむ
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 相聞 作者:鏡王女 額田王 天智 待攦
訓異 かぜをだに;かせをたに, かぜをだに;かせをたに, こむとしまたば;こむとしまたは, なにかなげかむ;いかかなけかむ, 
   
  04/0490
題詞 吹芡刀自歌二首
題訓 吹黄刀自ふきのとじが歌二首
原文 真野之浦乃 与騰<乃>継橋 情由毛 思哉妹之 伊目尓之所見
訓読 真野の浦の淀の継橋心ゆも思へや妹が夢にし見ゆる
仮名 まののうらの よどのつぎはし こころゆも おもへやいもが いめにしみゆる
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / <>→乃 [西(右書)][元][類][金]
事項 相聞 作者:吹芡刀自 恋情 夢 皮肉 誤伝 伝承 序詞
訓異 よどのつぎはし;よとのつきはし, おもへやいもが;おもふやいもか, 
   
  04/0491
題詞 (吹芡刀自歌二首)
原文 河上乃 伊都藻之花乃 何時<々々> 来益我背子 時自異目八方
訓読 川上のいつ藻の花のいつもいつも来ませ我が背子時じけめやも
仮名 かはかみの いつものはなの いつもいつも きませわがせこ ときじけめやも
左注 なし
校異 <>→々々 [西(右書)][類][紀][細]
事項 相聞 作者:吹芡刀自 勧誘 序詞
訓異 きませわがせこ;きませわかせこ, ときじけめやも;ときわかめやも, 
   
  04/0492
題詞 田部忌寸櫟子任<大>宰時歌四首
題訓 田部忌寸櫟子たべのいみきいちひこが太宰おほみこともちのつかさに任まけらるる時の歌四首
原文 衣手尓 取等騰己保里 哭兒尓毛 益有吾乎 置而如何将為 [舎人吉年]
訓読 衣手に取りとどこほり泣く子にもまされる我れを置きていかにせむ [舎人吉年]
仮名 ころもでに とりとどこほり なくこにも まされるわれを おきていかにせむ
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 太→大 [桂][元][金][紀]
事項 相聞 作者:田部櫟子 恋情 羈旅 離別 太宰府 任官
訓異 ころもでに;ころもてに, とりとどこほり;とりととこほり, おきていかにせむ;おきていかかせむ, 
   
  04/0493
題詞 (田部忌寸櫟子任<大>宰時歌四首)
原文 置而行者 妹将戀可聞 敷細乃 黒髪布而 長此夜乎 <[田部忌寸櫟子]>
訓読 置きていなば妹恋ひむかも敷栲の黒髪敷きて長きこの夜を <[田部忌寸櫟子]>
仮名 おきていなば いもこひむかも しきたへの くろかみしきて ながきこのよを
左注 なし
校異 <>→田部忌寸櫟子 [元][細]
事項 相聞 作者:田部櫟子 恋情 羈旅 離別 太宰府 任官 呪術 枕詞
訓異 おきていなば;おきていかは, いもこひむかも;いもこひむかも, ながきこのよを;なかきこのよを, 
   
  04/0494
題詞 (田部忌寸櫟子任<大>宰時歌四首)
原文 吾妹兒乎 相令知 人乎許曽 戀之益者 恨三念
訓読 我妹子を相知らしめし人をこそ恋のまされば恨めしみ思へ
仮名 わぎもこを あひしらしめし ひとをこそ こひのまされば うらめしみおもへ
左注 なし
校異 乎 [元][紀][金](塙) 矣
事項 相聞 作者:田部櫟子 恋情 羈旅 離別 太宰府 任官
訓異 わぎもこを;わきもこを, あひしらしめし;あひしらせけむ, こひのまされば;こひのまされは, うらめしみおもへ;うらぬれみおもへ, 
   
  04/0495
題詞 (田部忌寸櫟子任<大>宰時歌四首)
原文 朝日影 尓保敝流山尓 照月乃 不猒君乎 山越尓置手
訓読 朝日影にほへる山に照る月の飽かざる君を山越しに置きて
仮名 あさひかげ にほへるやまに てるつきの あかざるきみを やまごしにおきて
左注 なし
校異 なし
事項 相聞 作者:田部櫟子 恋情 羈旅 離別 太宰府 任官
訓異 あさひかげ;あさひかけ, あかざるきみを;あかすかきみを, やまごしにおきて;やまこしにおきて, 
   
  04/0496
題詞 柿本朝臣人麻呂歌四首
題訓 柿本朝臣人麻呂が歌四首
原文 三熊野之 浦乃濱木綿 百重成 心者雖念 直不相鴨
訓読 み熊野の浦の浜木綿百重なす心は思へど直に逢はぬかも
仮名 みくまのの うらのはまゆふ ももへなす こころはもへど ただにあはぬかも
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 相聞 作者:柿本人麻呂 恋情 挽歌発想 贈答 紀州 和歌山 羈旅 序詞 地名 植物
訓異 ももへなす;ももへなる, こころはもへど;こころはおもへと, ただにあはぬかも;たたにあはぬかも, 
   
  04/0497
題詞 (柿本朝臣人麻呂歌四首)
原文 古尓 有兼人毛 如吾歟 妹尓戀乍 宿不勝家牟
訓読 いにしへにありけむ人も我がごとか妹に恋ひつつ寐ねかてずけむ
仮名 いにしへに ありけむひとも あがごとか いもにこひつつ いねかてずけむ
左注 なし
校異 なし
事項 相聞 作者:柿本人麻呂 恋情 羈旅 和歌山 挽歌発想 昔
訓異 あがごとか;わかことか, いねかてずけむ;いねかてにけむ, 
   
  04/0498
題詞 (柿本朝臣人麻呂歌四首)
原文 今耳之 行事庭不有 古 人曽益而 哭左倍鳴四
訓読 今のみのわざにはあらずいにしへの人ぞまさりて音にさへ泣きし
仮名 いまのみの わざにはあらず いにしへの ひとぞまさりて ねにさへなきし
左注 なし
校異 なし
事項 相聞 作者:柿本人麻呂 恋情 羈旅 和歌山 挽歌発想
訓異 わざにはあらず;わさにはあらす, ひとぞまさりて;ひとそまさりて, 
   
  04/0499
題詞 (柿本朝臣人麻呂歌四首)
原文 百重二物 来及毳常 念鴨 公之使乃 雖見不飽有<武>
訓読 百重にも来及かぬかもと思へかも君が使の見れど飽かずあらむ
仮名 ももへにも きしかぬかもと おもへかも きみがつかひの みれどあかずあらむ
左注 なし
校異 哉→武 [桂][元][金][紀]
事項 相聞 作者:柿本人麻呂 恋情 使者
訓異 きしかぬかもと;きをよへかもと, きみがつかひの;きみかつかひの, みれどあかずあらむ;みれとあかさらむ, 
   
  04/0500
題詞 碁檀越徃伊勢國時留妻作歌一首
題訓 碁檀越ごのだむをちが伊勢国に往く時、留まれる妻めがよめる歌一首
原文 神風之 伊勢乃濱荻 折伏 客宿也将為 荒濱邊尓
訓読 神風の伊勢の浜荻折り伏せて旅寝やすらむ荒き浜辺に
仮名 かむかぜの いせのはまをぎ をりふせて たびねやすらむ あらきはまへに
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 相聞 作者:碁檀越妻 伊勢 三重 羈旅 留守 枕詞 植物
訓異 かむかぜの;かみかせの, いせのはまをぎ;いせのはまおき, たびねやすらむ;たひねやすらむ, 
   
  04/0501
題詞 柿本朝臣人麻呂歌三首
題訓 柿本朝臣人麻呂が歌三首
原文 未通女等之 袖振山乃 水垣之 久時従 憶寸吾者
訓読 娘子らが袖布留山の瑞垣の久しき時ゆ思ひき我れは
仮名 をとめらが そでふるやまの みづかきの ひさしきときゆ おもひきわれは
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 相聞 作者:柿本人麻呂 歌垣 枕詞 序詞
訓異 をとめらが;をとめらか, そでふるやまの;そてふるやまの, みづかきの;みつかきの, ひさしきときゆ;ひさしきよより, 
   
  04/0502
題詞 (柿本朝臣人麻呂歌三首)
原文 夏野去 小<壮>鹿之角乃 束間毛 妹之心乎 忘而念哉
訓読 夏野行く牡鹿の角の束の間も妹が心を忘れて思へや
仮名 なつのゆく をしかのつのの つかのまも いもがこころを わすれておもへや
左注 なし
校異 牡→壯 [金][紀]
事項 相聞 作者:柿本人麻呂 恋情 動物 序詞
訓異 いもがこころを;いもかこころを, 
   
  04/0503
題詞 (柿本朝臣人麻呂歌三首)
原文 珠衣乃 狭藍左謂沈 家妹尓 物不語来而 思金津裳
訓読 玉衣のさゐさゐしづみ家の妹に物言はず来にて思ひかねつも
仮名 たまきぬの さゐさゐしづみ いへのいもに ものいはずきにて おもひかねつも
左注 なし
校異 なし
事項 相聞 作者:柿本人麻呂 恋情 別離 悲別 出発 羈旅
訓異 さゐさゐしづみ;さゐさゐしつみ, ものいはずきにて;ものいはすきにて, 
   
  04/0504
題詞 柿本朝臣人麻呂妻歌一首
題訓 柿本朝臣人麻呂が妻めの歌一首
原文 君家尓 吾住坂乃 家道乎毛 吾者不忘 命不死者
訓読 君が家に我が住坂の家道をも我れは忘れじ命死なずは
仮名 きみがいへに わがすみさかの いへぢをも われはわすれじ いのちしなずは
左注 なし
校異 歌 [西] 謌
事項 相聞 作者:柿本人麻呂妻 宇陀 恋情 難解 地名
訓異 きみがいへに;きみかいへに, わがすみさかの;われすみさかの, いへぢをも;いへちをも, われはわすれじ;われはわすれし, いのちしなずは;いのちしなすは, 
   
  04/0505
題詞 安倍女郎歌二首
題訓 安倍女郎あべのいらつめが歌二首
原文 今更 何乎可将念 打靡 情者君尓 縁尓之物乎
訓読 今さらに何をか思はむうち靡き心は君に寄りにしものを
仮名 いまさらに なにをかおもはむ うちなびき こころはきみに よりにしものを
左注 なし
校異 なし
事項 相聞 作者:安倍女郎 恋情
訓異 うちなびき;うちなひき, 
   
  04/0506
題詞 (安倍女郎歌二首)
原文 吾背子波 物莫念 事之有者 火尓毛水尓<母> 吾莫七國
訓読 我が背子は物な思ひそ事しあらば火にも水にも我れなけなくに
仮名 わがせこは ものなおもひそ ことしあらば ひにもみづにも われなけなくに
左注 なし
校異 毛→母 [桂][元][紀]
事項 相聞 作者:安倍女郎 恋情
訓異 わがせこは;わかせろは, ことしあらば;ことしあらは, ひにもみづにも;ひにもみつにも, われなけなくに;われならなくに, 
   
  04/0507
題詞 駿河婇女歌一首
題訓 駿河采女するがのうねべが歌一首
原文 敷細乃 枕従久<々>流 涙二曽 浮宿乎思家類 戀乃繁尓
訓読 敷栲の枕ゆくくる涙にぞ浮寝をしける恋の繁きに
仮名 しきたへの まくらゆくくる なみたにぞ うきねをしける こひのしげきに
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 久→々 [元][金][紀]
事項 相聞 作者:駿河婇女 恋情 枕詞
訓異 まくらゆくくる;まくらをくくる, なみたにぞ;なみたにそ, こひのしげきに;こひのしけきに, 
   
  04/0508
題詞 三方沙弥歌一首
題訓 三方沙弥みかたのさみが歌一首
原文 衣手乃 別今夜従 妹毛吾母 甚戀名 相因乎奈美
訓読 衣手の別かる今夜ゆ妹も我れもいたく恋ひむな逢ふよしをなみ
仮名 ころもでの わかるこよひゆ いももあれも いたくこひむな あふよしをなみ
左注 なし
校異 母 [金][紀][細] 毛
事項 相聞 作者:三方沙弥 恋情 別離 羈旅 枕詞
訓異 ころもでの;ころもての, わかるこよひゆ;わくこよひより, いももあれも;いももわれも, いたくこひむな;いたくこひしな, 
   
  04/0509
題詞 丹比真人笠麻呂下筑紫國時作歌一首[并短歌]
題訓 丹比真人笠麻呂が筑紫国に下る時よめる歌一首、また短歌
原文 臣女乃 匣尓乗有 鏡成 見津乃濱邊尓 狭丹頬相 紐解不離 吾妹兒尓 戀乍居者 明晩乃 旦霧隠 鳴多頭乃 哭耳之所哭 吾戀流 干重乃一隔母 名草漏 情毛有哉跡 家當 吾立見者 青旗乃 葛木山尓 多奈引流 白雲隠 天佐我留 夷乃國邊尓 直向 淡路乎過 粟嶋乎 背尓見管 朝名寸二 水手之音喚 暮名寸二 梶之聲為乍 浪上乎 五十行左具久美 磐間乎 射徃廻 稲日都麻 浦箕乎過而 鳥自物 魚津左比去者 家乃嶋 荒礒之宇倍尓 打靡 四時二生有 莫告我 奈騰可聞妹尓 不告来二計謀
訓読 臣の女の 櫛笥に乗れる 鏡なす 御津の浜辺に さ丹つらふ 紐解き放けず 我妹子に 恋ひつつ居れば 明け暮れの 朝霧隠り 鳴く鶴の 音のみし泣かゆ 我が恋ふる 千重の一重も 慰もる 心もありやと 家のあたり 我が立ち見れば 青旗の 葛城山に たなびける 白雲隠る 天さがる 鄙の国辺に 直向ふ 淡路を過ぎ 粟島を そがひに見つつ 朝なぎに 水手の声呼び 夕なぎに 楫の音しつつ 波の上を い行きさぐくみ 岩の間を い行き廻り 稲日都麻 浦廻を過ぎて 鳥じもの なづさひ行けば 家の島 荒磯の上に うち靡き 繁に生ひたる なのりそが などかも妹に 告らず来にけむ
仮名 おみのめの くしげにのれる かがみなす みつのはまべに さにつらふ ひもときさけず わぎもこに こひつつをれば あけくれの あさぎりごもり なくたづの ねのみしなかゆ あがこふる ちへのひとへも なぐさもる こころもありやと いへのあたり わがたちみれば あをはたの かづらきやまに たなびける しらくもがくる あまさがる ひなのくにべに ただむかふ あはぢをすぎ あはしまを そがひにみつつ あさなぎに かこのこゑよび ゆふなぎに かぢのおとしつつ なみのうへを いゆきさぐくみ いはのまを いゆきもとほり いなびつま うらみをすぎて とりじもの なづさひゆけば いへのしま ありそのうへに うちなびき しじにおひたる なのりそが などかもいもに のらずきにけむ
左注 なし
校異 短歌 [西] 短謌 [西(訂正)] 短歌
事項 相聞 作者:丹比笠麻呂 羈旅 恋情 別離 望郷 枕詞 地名 植物 大阪 兵庫 道行翮
訓異 おみのめの;まうとめの, くしげにのれる;くしけにのする, かがみなす;かかみなす, みつのはまべに;みつのはまへに, ひもときさけず;ひもときさけす, わぎもこに;わきもこに, こひつつをれば;こひつつゐは, あさぎりごもり;あさきりこもり, なくたづの;なくたつの, ねのみしなかゆ;なきのみそなく, あがこふる;わかこふる, なぐさもる;なくさむる, わがたちみれば;わかたちみれは, かづらきやまに;かつらきやまに, たなびける;たなひける, しらくもがくる;しらくもかくれ, あまさがる;あまさかる, ひなのくにべに;ひなのくにへに, ただむかふ;たたむかふ, あはぢをすぎ;あはちをすき, そがひにみつつ;そかひにみつつ, あさなぎに;あさなきに, かこのこゑよび;かこのおとよひ, ゆふなぎに;ゆふなきに, かぢのおとしつつ;かちのおとしつつ, いゆきさぐくみ;いゆきさくくみ, いなびつま;いなひつま, うらみをすぎて;うらみをすきて, とりじもの;とりしもの, なづさひゆけば;なつさひゆけは, ありそのうへに;あらいそのうへに, うちなびき;うちなひき, しじにおひたる;ししにおひたる, なのりそが;なのりそか, などかもいもに;なとかもいもに, のらずきにけむ;つけすきにけむ, 
   
  04/0510
題詞 (丹比真人笠麻呂下筑紫國時作歌一首[并短歌])反歌
題訓 反し歌
原文 白<細>乃 袖解更而 還来武 月日乎數而 徃而来猿尾
訓読 白栲の袖解き交へて帰り来む月日を数みて行きて来ましを
仮名 しろたへの そでときかへて かへりこむ つきひをよみて ゆきてこましを
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 / 妙→細 [元][紀][類][古]
事項 相聞 作者:丹比笠麻呂 羈旅 別離 枕詞
訓異 そでときかへて;そてときかへて, つきひをよみて;ほとをかそへて, 
   
  04/0511
題詞 幸伊勢國時當麻麻呂大夫妻作歌一首
題訓 伊勢国に幸いでませる時、當麻麻呂たぎまのまろの大夫まへつきみが妻めのよめる歌一首
原文 吾背子者 何處将行 己津物 隠之山乎 今日歟超良<武>
訓読 我が背子はいづく行くらむ沖つ藻の名張の山を今日か越ゆらむ
仮名 わがせこは いづくゆくらむ おきつもの なばりのやまを けふかこゆらむ
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 / 哉→武 [西(訂正)][元][金][類]
事項 相聞 作者:當麻麻呂妻 行幸 伊勢 留守 重出 枕詞 地名
訓異 わがせこは;わかせこは, いづくゆくらむ;いつちゆくらむ, なばりのやまを;かくれのやまを, 
   
  04/0512
題詞 草嬢歌一首
題訓 草嬢うかれめが歌一首
原文 秋田之 穂田乃苅婆加 香縁相者 彼所毛加人之 吾乎事将成
訓読 秋の田の穂田の刈りばかか寄りあはばそこもか人の我を言成さむ
仮名 あきのたの ほたのかりばか かよりあはば そこもかひとの わをことなさむ
左注 なし
校異 歌 [西] 謌
事項 相聞 作者:草嬢 恋情 尫柜蹋 序詞
訓異 ほたのかりばか;ほたのかりはか, かよりあはば;かよりあはは, わをことなさむ;われをことなさむ, 
   
  04/0513
題詞 志貴皇子御歌一首
題訓 志貴皇子の御歌一首
原文 大原之 此市柴乃 何時鹿跡 吾念妹尓 今夜相有香裳
訓読 大原のこのいち柴のいつしかと我が思ふ妹に今夜逢へるかも
仮名 おほはらの このいちしばの いつしかと あがおもふいもに こよひあへるかも
左注 なし
校異 なし
事項 相聞 作者:志貴皇子 恋情 逢会 植物 序詞
訓異 このいちしばの;このいつしはの, あがおもふいもに;わかおもふいもに, 
   
  04/0514
題詞 阿倍女郎歌一首
題訓 阿倍女郎が歌一首
原文 吾背子之 盖世流衣之 針目不落 入尓家良之 我情副
訓読 我が背子が着せる衣の針目おちず入りにけらしも我が心さへ
仮名 わがせこが けせるころもの はりめおちず いりにけらしも あがこころさへ
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 / 入 [紀] 入来
事項 相聞 作者:阿倍女郎 恋情
訓異 わがせこが;わかせこか, けせるころもの;きせるころもの, はりめおちず;はりめおちす, いりにけらしも;いりにけらしな, あがこころさへ;わかこころさへ, 
   
  04/0515
題詞 中臣朝臣東人贈阿倍女郎歌一首
題訓 中臣朝臣東人あづまひとが阿倍女郎に贈れる歌一首
原文 獨宿而 絶西紐緒 忌見跡 世武為便不知 哭耳之曽泣
訓読 ひとり寝て絶えにし紐をゆゆしみと為むすべ知らに音のみしぞ泣く
仮名 ひとりねて たえにしひもを ゆゆしみと せむすべしらに ねのみしぞなく
左注 なし
校異 なし
事項 相聞 作者:中臣東人 阿倍女郎 恋情 不安 不吉 贈答
訓異 せむすべしらに;せむすへしらに, ねのみしぞなく;ねのみしそなく, 
   
  04/0516
題詞 阿倍女郎答歌一首
題訓 阿倍女郎が答ふる歌一首
原文 吾以在 三相二搓流 絲用而 附手益物 今曽悔寸
訓読 我が持てる三相に搓れる糸もちて付けてましもの今ぞ悔しき
仮名 わがもてる みつあひによれる いともちて つけてましもの いまぞくやしき
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 相聞 作者:阿倍女郎 中臣東人 贈答
訓異 わがもてる;わかもてる, つけてましもの;つけてましものを, いまぞくやしき;いまそくやしき, 
   
  04/0517
題詞 大納言兼大将軍大伴卿歌一首
題訓 大納言おほきものまをしのつかさ大将軍おほきいくさのきみ兼かけたる大伴の卿まへつきみの歌一首
原文 神樹尓毛 手者觸云乎 打細丹 人妻跡云者 不觸物可聞
訓読 神木にも手は触るといふをうつたへに人妻といへば触れぬものかも
仮名 かむきにも てはふるといふを うつたへに ひとづまといへば ふれぬものかも
左注 なし
校異 なし
事項 相聞 作者:大伴安麻呂 人妻
訓異 かむきにも;さかきにも, ひとづまといへば;ひとつまといへは, 
   
  04/0518
題詞 石川郎女歌一首 [即佐保大伴大家也]
題訓 石川郎女が歌一首
原文 春日野之 山邊道乎 与曽理無 通之君我 不所見許呂香聞
訓読 春日野の山辺の道をよそりなく通ひし君が見えぬころかも
仮名 かすがのの やまへのみちを よそりなく かよひしきみが みえぬころかも
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 与 [西(貼紙)][元] 於
事項 相聞 作者:石川郎女(邑婆) 大伴安麻呂 地名 奈良
訓異 かすがのの;かすかのの, かよひしきみが;かよひしきみか, 
   
  04/0519
題詞 大伴女郎歌一首 [今城王之母也今城王後賜大原真人氏也]
題訓 大伴女郎が歌一首
原文 雨障 常為公者 久堅乃 昨夜雨尓 将懲鴨
訓読 雨障み常する君はひさかたの昨夜の夜の雨に懲りにけむかも
仮名 あまつつみ つねするきみは ひさかたの きぞのよのあめに こりにけむかも
左注 なし
校異 なし
事項 相聞 作者:大伴女郎 勧誘
訓異 あまつつみ;あまさはり, きぞのよのあめに;よふへのあめに, 
   
  04/0520
題詞 (大伴女郎歌一首 [今城王之母也今城王後賜大原真人氏也])後人追同歌一首
題訓 後の人の追ひて和なぞらふる歌一首
原文 久堅乃 雨毛落<粳> 雨乍見 於君副而 此日令晩
訓読 ひさかたの雨も降らぬか雨障み君にたぐひてこの日暮らさむ
仮名 ひさかたの あめもふらぬか あまつつみ きみにたぐひて このひくらさむ
左注 なし
校異 糠→粳 [元][類][紀]
事項 相聞 作者:大伴女郎 追同 枕詞
訓異 きみにたぐひて;きみにたくひて, 
   
  04/0521
題詞 藤原宇合大夫遷任上京時常陸娘子贈歌一首
題訓 藤原宇合うまかひの大夫が遷任めされて京みやこに上る時、常陸娘子ひたちをとめが贈れる歌一首
原文 庭立 麻手苅干 布<暴> 東女乎 忘賜名
訓読 庭に立つ麻手刈り干し布曝す東女を忘れたまふな
仮名 にはにたつ あさでかりほし ぬのさらす あづまをみなを わすれたまふな
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 慕→暴 [元]
事項 相聞 作者:常陸娘子 藤原宇合 餞別 植物
訓異 あさでかりほし;あさてかりほし, ぬのさらす;しきしのふ, あづまをみなを;あつまをとめを, 
   
  04/0522
題詞 京職藤原大夫贈大伴郎女歌三首 [卿諱曰麻呂也]
題訓 京職大夫みさとつかさのかみ藤原の大夫まへつきみが大伴坂上郎女おほとものさかのへのいらつめに賜おくれる歌三首
原文 D嬬等之 珠篋有 玉櫛乃 神家武毛 妹尓阿波受有者
訓読 娘子らが玉櫛笥なる玉櫛の神さびけむも妹に逢はずあれば
仮名 をとめらが たまくしげなる たまくしの かむさびけむも いもにあはずあれば
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 相聞 作者:藤原麻呂 坂上郎女 枕詞 序詞 贈答
訓異 をとめらが;をとめらか, たまくしげなる;たまくしけなる, かむさびけむも;めつらしけむも, いもにあはずあれば;いもにあはすあれは, 
   
  04/0523
題詞 (京職藤原大夫贈大伴郎女歌三首 [卿諱曰麻呂也])
原文 好渡 人者年母 有云乎 何時間曽毛 吾戀尓来
訓読 よく渡る人は年にもありといふをいつの間にぞも我が恋ひにける
仮名 よくわたる ひとはとしにも ありといふを いつのまにぞも あがこひにける
左注 なし
校異 なし
事項 相聞 作者:藤原麻呂 坂上郎女 贈答
訓異 ありといふを;ありてふを, いつのまにぞも;いつのままそも, あがこひにける;わかこひにける, 
   
  04/0524
題詞 (京職藤原大夫贈大伴郎女歌三首 [卿諱曰麻呂也])
原文 蒸被 奈胡也我下丹 雖臥 与妹不宿者 肌之寒霜
訓読 むし衾なごやが下に伏せれども妹とし寝ねば肌し寒しも
仮名 むしふすま なごやがしたに ふせれども いもとしねねば はだしさむしも
左注 なし
校異 なし
事項 相聞 作者:藤原麻呂 坂上郎女 孤独 贈答
訓異 むしふすま;あつふすま, なごやがしたに;なこやかしたに, ふせれども;ふせれとも, いもとしねねば;いもとしねねは, はだしさむしも;はたしさむしも, 
   
  04/0525
題詞 (京職藤原大夫贈大伴郎女歌三首 [卿諱曰麻呂也])大伴郎女和歌四首
題訓 大伴坂上郎女が和こたふる歌四首
原文 狭穂河乃 小石踐渡 夜干玉之 黒馬之来夜者 年尓母有粳
訓読 佐保川の小石踏み渡りぬばたまの黒馬来る夜は年にもあらぬか
仮名 さほがはの こいしふみわたり ぬばたまの くろまくるよは としにもあらぬか
左注 (右郎女者佐保大納言卿之女也 初嫁一品穂積皇子 被寵無儔而皇子薨之後時 藤原麻呂大夫娉之郎女焉 郎女家於坂上里 仍族氏号曰坂上郎女也)
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 相聞 作者:坂上郎女 藤原麻呂 恋情 贈答 地名 奈良 動物 枕詞
訓異 さほがはの;さほかはの, こいしふみわたり;さされふみわたり, ぬばたまの;ぬはたまの, くろまくるよは;こまのくるよは, 
   
  04/0526
題詞 ((京職藤原大夫贈大伴郎女歌三首 [卿諱曰麻呂也])大伴郎女和歌四首)
原文 千鳥鳴 佐保乃河瀬之 小浪 止時毛無 吾戀者
訓読 千鳥鳴く佐保の川瀬のさざれ波やむ時もなし我が恋ふらくは
仮名 ちどりなく さほのかはせの さざれなみ やむときもなし あがこふらくは
左注 (右郎女者佐保大納言卿之女也 初嫁一品穂積皇子 被寵無儔而皇子薨之後時 藤原麻呂大夫娉之郎女焉 郎女家於坂上里 仍族氏号曰坂上郎女也)
校異 なし
事項 相聞 作者:坂上郎女 藤原麻呂 恋情 贈答 枕詞 動物 枕詞 地名 奈良
訓異 ちどりなく;ちとりなく, さざれなみ;さされなみ, あがこふらくは;わかこふらくに, 
   
  04/0527
題詞 ((京職藤原大夫贈大伴郎女歌三首 [卿諱曰麻呂也])大伴郎女和歌四首)
原文 将来云毛 不来時有乎 不来云乎 将来常者不待 不来云物乎
訓読 来むと言ふも来ぬ時あるを来じと言ふを来むとは待たじ来じと言ふものを
仮名 こむといふも こぬときあるを こじといふを こむとはまたじ こじといふものを
左注 (右郎女者佐保大納言卿之女也 初嫁一品穂積皇子 被寵無儔而皇子薨之後時 藤原麻呂大夫娉之郎女焉 郎女家於坂上里 仍族氏号曰坂上郎女也)
左注訓
校異 なし
事項 相聞 作者:坂上郎女 藤原麻呂 贈答
訓異 こじといふを;こしといふを, こむとはまたじ;こむとはまたし, こじといふものを;こしといふものを, 
   
  04/0528
題詞 ((京職藤原大夫贈大伴郎女歌三首 [卿諱曰麻呂也])大伴郎女和歌四首)
原文 千鳥鳴 佐保乃河門乃 瀬乎廣弥 打橋渡須 奈我来跡念者
訓読 千鳥鳴く佐保の川門の瀬を広み打橋渡す汝が来と思へば
仮名 ちどりなく さほのかはとの せをひろみ うちはしわたす ながくとおもへば
左注 右郎女者佐保大納言卿之女也 初嫁一品穂積皇子 被寵無儔而皇子薨之後時 藤原麻呂大夫娉之郎女焉 郎女家於坂上里 仍族氏号曰坂上郎女也
左注訓 右郎女ハ、佐保大納言卿ノ女ナリ。初メ一品ヒトツノシナ 穂積皇子ニ嫁ギ、寵被ルコト儔タグヒ無シ。皇子薨スギマ シシ後、藤原麻呂大夫郎女ヲ娉ツマドフ。郎女坂上 ノ里ニ家ス。仍レ族氏ウヂヲ坂上郎女ト号イフナリ。
校異 なし
事項 相聞 作者:坂上郎女 藤原麻呂 川渡り 贈答 動物 枕詞 奈良 地名
訓異 ちどりなく;ちとりなく, ながくとおもへば;なかくとおもへは, 
   
  04/0529
題詞 又大伴坂上郎女歌一首
題訓 また大伴坂上郎女が歌一首
原文 佐保河乃 涯之官能 <少>歴木莫苅焉 在乍毛 張之来者 立隠金
訓読 佐保川の岸のつかさの柴な刈りそねありつつも春し来たらば立ち隠るがね
仮名 さほがはの きしのつかさの しばなかりそね ありつつも はるしきたらば たちかくるがね
左注 なし
校異 小→少 [桂][元][古][紀]
事項 相聞 作者:坂上郎女 野遊び 奈良 地名 植物 贈答
訓異 さほがはの;さほかはの, しばなかりそね;しはなかりそね, はるしきたらば;はるしきたらは, たちかくるがね;たちかくるかに, 
   
  04/0530
題詞 天皇賜海上女王御歌一首 [寧樂宮即位天皇也]
題訓 天皇の海上女王うなかみのおほきみに賜へる御歌おほみうた一首
原文 赤駒之 越馬柵乃 緘結師 妹情者 疑毛奈思
訓読 赤駒の越ゆる馬柵の標結ひし妹が心は疑ひもなし
仮名 あかごまの こゆるうませの しめゆひし いもがこころは うたがひもなし
左注 右今案 此歌擬古之作也 但以時當便賜斯歌歟
左注訓 右、今案フルニ、此ノ歌擬古ノ作ナリ。但往当 便ヲ以テ斯ノ歌ヲ賜ヘルカ。
校異 歌 [西] 謌
事項 相聞 作者:聖武天皇 海上女王 動物 序詞 贈答
訓異 あかごまの;あかこまの, こゆるうませの;こゆるうまおりの, いもがこころは;いもかこころは, うたがひもなし;うたかひもなし, 
   
  04/0531
題詞 (天皇賜海上女王御歌一首 [寧樂宮即位天皇也])海上<王>奉和歌一首 [志貴皇子之女也]
題訓 海上女王の和こたへ奉る歌一首
原文 梓弓 爪引夜音之 遠音尓毛 君之御幸乎 聞之好毛
訓読 梓弓爪引く夜音の遠音にも君が御幸を聞かくしよしも
仮名 あづさゆみ つまびくよおとの とほとにも きみがみゆきを きかくしよしも
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 女王→王 [桂][元][古][紀]
事項 相聞 作者:聖武天皇 海上女王 贈答
訓異 あづさゆみ;あつさゆみ, つまびくよおとの;つまひくよとの, きみがみゆきを;きみかみゆきを, きかくしよしも;きくはしよしも, 
   
  04/0532
題詞 大伴宿奈麻呂宿祢歌二首 [佐保大納言<卿>之第三子也]
題訓 大伴宿奈麻呂宿禰おほとものすくなまろのすくねが歌二首
原文 打日指 宮尓行兒乎 真悲見 留者苦 聴去者為便無
訓読 うちひさす宮に行く子をま悲しみ留むれば苦し遣ればすべなし
仮名 うちひさす みやにゆくこを まかなしみ とむればくるし やればすべなし
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / <>→卿 [西(右書)][桂] / <>→之 [桂][紀]
事項 相聞 作者:大伴宿奈麻呂 枕詞
訓異 とむればくるし;とむれはくるし, やればすべなし;やれはすへなし
   
  04/0533
題詞 (大伴宿奈麻呂宿祢歌二首 [佐保大納言<卿>之第三子也])
原文 難波方 塩干之名凝 飽左右二 人之見兒乎 吾四乏毛
訓読 難波潟潮干のなごり飽くまでに人の見る子を我れし羨しも
仮名 なにはがた しほひのなごり あくまでに ひとのみるこを われしともしも
左注 なし
校異 なし
事項 相聞 作者:大伴宿奈麻呂 大阪 地名 序詞
訓異 なにはがた;なにはかた, しほひのなごり;しほひのなこり, あくまでに;あくまてに, 
   
  04/0534
題詞 安貴王歌一首[并短歌]
題訓 安貴王あきのおほきみの歌一首、また短歌
原文 遠嬬 此間不在者 玉桙之 道乎多遠見 思空 安莫國 嘆虚 不安物乎 水空徃 雲尓毛欲成 高飛 鳥尓毛欲成 明日去而 於妹言問 為吾 妹毛事無 為妹 吾毛事無久 今裳見如 副而毛欲得
訓読 遠妻の ここにしあらねば 玉桙の 道をた遠み 思ふそら 安けなくに 嘆くそら 苦しきものを み空行く 雲にもがも 高飛ぶ 鳥にもがも 明日行きて 妹に言どひ 我がために 妹も事なく 妹がため 我れも事なく 今も見るごと たぐひてもがも
仮名 とほづまの ここにしあらねば たまほこの みちをたどほみ おもふそら やすけなくに なげくそら くるしきものを みそらゆく くもにもがも たかとぶ とりにもがも あすゆきて いもにことどひ あがために いももことなく いもがため あれもことなく いまもみるごと たぐひてもがも
左注 (右安貴王娶因幡八上釆女 係念極甚愛情尤盛 於時勅断不敬之罪退却本郷焉 于是王意悼怛聊作此歌也)
校異 歌 [西] 謌 / 短歌 [西] 短謌 [西(訂正)] 短歌
事項 相聞 作者:安貴王 因幡八上釆女 恋情 離別 枕詞 悲別
訓異 とほづまの;とほつまの, ここにしあらねば;ここにあらねは, みちをたどほみ;みちをたとほみ, やすけなくに;やすからなくに, なげくそら;なけくそら, くるしきものを;やすからぬものを, くもにもがも;くもにもかもな, たかとぶ;たかくとふ, とりにもがも;とりにもかもな, いもにことどひ;いもにこととひ, あがために;わかために, いもがため;いもかため, あれもことなく;われもことなく, いまもみるごと;いまもみること, たぐひてもがも;たくひてもかな, 
   
  04/0535
題詞 (安貴王歌一首[并短歌])反歌
題訓 反し歌
題訓  
原文 敷細乃 手枕不纒 間置而 年曽經来 不相念者
訓読 敷栲の手枕まかず間置きて年ぞ経にける逢はなく思へば
仮名 しきたへの たまくらまかず あひだおきて としぞへにける あはなくおもへば
左注 右安貴王娶因幡八上釆女 係念極甚愛情尤盛 於時勅断不敬之罪退却本郷焉 于是王意悼怛聊作此歌也
左注訓 右、安貴王、因幡八上釆女ヲ娶リ、係念極テ甚シク、 愛情尤モ盛ナリ。時ニ勅シテ不敬ノ罪ニ断ジ、本郷ニ 退却シリゾク。是ニ王意悼怛、聊カ此歌ヲ作メリト。
校異 なし
事項 相聞 作者:安貴王 因幡八上釆女 離別 恋情 枕詞 悲別
訓異 たまくらまかず;たまくらまかす, あひだおきて;へたておきて, としぞへにける;としそへにける, あはなくおもへば;あはぬおもひは, 
   
  04/0536
題詞 門部王戀歌一首
題訓 門部王の恋の歌一首
原文 飫宇能海之 塩干乃<鹵>之 片念尓 思哉将去 道之永手呼
訓読 意宇の海の潮干の潟の片思に思ひや行かむ道の長手を
仮名 おうのうみの しほひのかたの かたもひに おもひやゆかむ みちのながてを
左注 右門部王任出雲守時娶部内娘子也 未有幾時 既絶徃来 累月之後更起愛心 仍作此歌贈致娘子
左注訓 右、門部王、出雲守ニ任マケラル時、部内クヌチノ娘子ヲ娶ル。 未ダ幾時モ有ラズ、既ニ往来絶ユ。累月ノ後、更ニ 愛心ヲ起コス。仍レ此歌ヲ作ミテ娘子ニ贈致オクレリ。
校異 歌 [西] 謌 / 滷→鹵 [桂][元] / 歌 [西] 謌
事項 相聞 作者:門部王 恋情 島根 地名 序詞
訓異 おうのうみの;をうのうみの, かたもひに;かたおもひに, みちのながてを;みちのなかてを, 
   
  04/0537
題詞 高田女王贈今城王歌六首
題訓 高田女王の今城王いまきのおほきみに贈りたまへる歌六首むつ
原文 事清 甚毛莫言 一日太尓 君伊之哭者 痛寸<敢>物
訓読 言清くいたもな言ひそ一日だに君いしなくはあへかたきかも
仮名 こときよく いともないひそ ひとひだに きみいしなくは あへかたきかも
左注 なし
校異 取→敢 [古義]
事項 相聞 作者:高田女王 今城王 恋情 贈答
訓異 いともないひそ;いたくもいはれ, ひとひだに;ひとひたに, あへかたきかも;いたききすそも, 
   
  04/0538
題詞 (高田女王贈今城王歌六首)
原文 他辞乎 繁言痛 不相有寸 心在如 莫思吾背<子>
訓読 人言を繁み言痛み逢はずありき心あるごとな思ひ我が背子
仮名 ひとごとを しげみこちたみ あはずありき こころあるごと なおもひわがせこ
左注 なし
校異 <>→子 [西(追補)][桂][紀]
事項 相聞 作者:高田女王 今城王 尫柜蹋 贈答
訓異 ひとごとを;ひとことを, しげみこちたみ;しけみこちたみ, あはずありき;あはさりき, こころあるごと;こころあること, なおもひわがせこ;おもふなわかせ, 
   
  04/0539
題詞 (高田女王贈今城王歌六首)
原文 吾背子師 遂常云者 人事者 繁有登毛 出而相麻志<乎>
訓読 我が背子し遂げむと言はば人言は繁くありとも出でて逢はましを
仮名 わがせこし とげむといはば ひとごとは しげくありとも いでてあはましを
左注 なし
校異 呼→乎 [桂][元][紀][温]
事項 相聞 作者:高田女王 今城王 尫柜蹋 贈答
訓異 わがせこし;わかせこし, とげむといはば;とけむといはは, ひとごとは;ひとことは, しげくありとも;しけくありとも, いでてあはましを;いててあはましを, 
   
  04/0540
題詞 (高田女王贈今城王歌六首)
原文 吾背子尓 復者不相香常 思墓 今朝別之 為便無有都流
訓読 我が背子にまたは逢はじかと思へばか今朝の別れのすべなかりつる
仮名 わがせこに またはあはじか とおもへばか けさのわかれの すべなかりつる
左注 なし
校異 なし
事項 相聞 作者:高田女王 今城王 恋情 別悞 贈答
訓異 わがせこに;わかせこに, またはあはじか;またはあはしか, とおもへばか;とおもへはか, すべなかりつる;すへなかりつる, 
   
  04/0541
題詞 (高田女王贈今城王歌六首)
原文 現世尓波 人事繁 来生尓毛 将相吾背子 今不有十方
訓読 この世には人言繁し来む世にも逢はむ我が背子今ならずとも
仮名 このよには ひとごとしげし こむよにも あはむわがせこ いまならずとも
左注 なし
校異 なし
事項 相聞 作者:高田女王 今城王 尫柜蹋 贈答
訓異 ひとごとしげし;ひとことしけみ, あはむわがせこ;あはむわかせこ, いまならずとも;いまならすとも, 
   
  04/0542
題詞 (高田女王贈今城王歌六首)
原文 常不止 通之君我 使不来 今者不相跡 絶多比奴良思
訓読 常やまず通ひし君が使ひ来ず今は逢はじとたゆたひぬらし
仮名 つねやまず かよひしきみが つかひこず いまはあはじと たゆたひぬらし
左注 なし
校異 なし
事項 相聞 作者:高田女王 今城王 贈答
訓異 つねやまず;とことはに, かよひしきみが;かよひしきみか, つかひこず;つかひこす, いまはあはじと;いまはあはしと, 
   
  04/0543
題詞 神龜元年甲子冬十月幸紀伊國之時為贈従駕人所誂娘子<作歌>一首[并短歌] <笠朝臣金村>
題訓 神亀じむき元年はじめのとし甲子きのえね冬十月かみなつき、紀伊国に幸いでませる時、従駕みともの人に贈らむ為、娘子に誂あつらへらえて笠朝臣金村がよめる歌一首、また短歌
原文 天皇之 行幸乃随意 物部乃 八十伴雄与 出去之 愛夫者 天翔哉 軽路従 玉田次 畝火乎見管 麻裳吉 木道尓入立 真土山 越良武公者 黄葉乃 散飛見乍 親 吾者不念 草枕 客乎便宜常 思乍 公将有跡 安蘇々二破 且者雖知 之加須我仁 黙然得不在者 吾背子之 徃乃萬々 将追跡者 千遍雖念 手<弱>女 吾身之有者 道守之 将問答乎 言将遣 為便乎不知跡 立而爪衝
訓読 大君の 行幸のまにま もののふの 八十伴の男と 出で行きし 愛し夫は 天飛ぶや 軽の路より 玉たすき 畝傍を見つつ あさもよし 紀路に入り立ち 真土山 越ゆらむ君は 黄葉の 散り飛ぶ見つつ にきびにし 我れは思はず 草枕 旅をよろしと 思ひつつ 君はあらむと あそそには かつは知れども しかすがに 黙もえあらねば 我が背子が 行きのまにまに 追はむとは 千たび思へど 手弱女の 我が身にしあれば 道守の 問はむ答へを 言ひやらむ すべを知らにと 立ちてつまづく
仮名 おほきみの みゆきのまにま もののふの やそとものをと いでゆきし うるはしづまは あまとぶや かるのみちより たまたすき うねびをみつつ あさもよし きぢにいりたち まつちやま こゆらむきみは もみちばの ちりとぶみつつ にきびにし われはおもはず くさまくら たびをよろしと おもひつつ きみはあらむと あそそには かつはしれども しかすがに もだもえあらねば わがせこが ゆきのまにまに おはむとは ちたびおもへど たわやめの わがみにしあれば みちもりの とはむこたへを いひやらむ すべをしらにと たちてつまづく
左注 なし
校異 笠朝臣金村作歌→作歌 [桂][元] / <>→笠朝臣金村 [桂][元] / 嫋→弱 [桂][元][類][紀]
事項 相聞 作者:笠金村 代作 行幸 紀伊 妻 都 羈旅 枕詞 地名 神亀1年10月 年紀
訓異 おほきみの;すめろきの, みゆきのまにま;みゆきのままに, いでゆきし;いてゆきし, うるはしづまは;うつくしつまは, あまとぶや;あまとふや, うねびをみつつ;うねひをみつつ, あさもよし;あさもよい, きぢにいりたち;きちにいりたち, もみちばの;もみちはの, ちりとぶみつつ;ちりとふみつつ, にきびにし;むつましき, われはおもはず;われをはおもはし, たびをよろしと;たひをたよりと, かつはしれども;かつはしれとも, しかすがに;しかすかに, もだもえあらねば;もたえあらねは, わがせこが;われせこか, ちたびおもへど;ちたひおもへと, たわやめの;たをやめの, わがみにしあれば;わかみにしあれは, すべをしらにと;すへをしらすと, たちてつまづく;たちてつまつく, 
   
  04/0544
題詞 (神龜元年甲子冬十月幸紀伊國之時為贈従駕人所誂娘子<作歌>一首[并短歌] <笠朝臣金村>)反歌
題訓 反し歌
原文 後居而 戀乍不有者 木國乃 妹背乃山尓 有益物乎
訓読 後れ居て恋ひつつあらずは紀の国の妹背の山にあらましものを
仮名 おくれゐて こひつつあらずは きのくにの いもせのやまに あらましものを
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 相聞 作者:笠金村 代作 行幸 紀伊 和歌山 妻 羈旅 地名 神亀1年10月 年紀
訓異 おくれゐて;こひつつあらずは;こひつつあらすは, 
   
  04/0545
題詞 ((神龜元年甲子冬十月幸紀伊國之時為贈従駕人所誂娘子<作歌>一首[并短歌] <笠朝臣金村>)反歌)
原文 吾背子之 跡履求 追去者 木乃關守伊 将留鴨
訓読 我が背子が跡踏み求め追ひ行かば紀の関守い留めてむかも
仮名 わがせこが あとふみもとめ おひゆかば きのせきもりい とどめてむかも
左注 なし
校異 なし
事項 相聞 作者:笠金村 代作 行幸 紀伊 和歌山 妻 羈旅 地名 神亀1年10月 年紀
訓異 わがせこが;わかせこか, おひゆかば;おひゆかは, きのせきもりい;きのせきもりや, とどめてむかも;いととめむかも, 
   
  04/0546
題詞 二年乙丑春三月幸三香原離宮之時得娘子<作歌>一首[并短歌] <笠朝臣金村>
題訓 二年ふたとせといふとし乙丑きのとのうし春三月やよひ、三香原みかのはらの離宮とつみやに幸せる時、娘子を得て、笠朝臣金村がよめる歌一首、また短歌
原文 三香<乃>原 客之屋取尓 珠桙乃 道能去相尓 天雲之 外耳見管 言将問 縁乃無者 情耳 咽乍有尓 天地 神祇辞因而 敷細乃 衣手易而 自妻跡 憑有今夜 秋夜之 百夜乃長 有与宿鴨
訓読 三香の原 旅の宿りに 玉桙の 道の行き逢ひに 天雲の 外のみ見つつ 言問はむ よしのなければ 心のみ 咽せつつあるに 天地の 神言寄せて 敷栲の 衣手交へて 己妻と 頼める今夜 秋の夜の 百夜の長さ ありこせぬかも
仮名 みかのはら たびのやどりに たまほこの みちのゆきあひに あまくもの よそのみみつつ こととはむ よしのなければ こころのみ むせつつあるに あめつちの かみことよせて しきたへの ころもでかへて おのづまと たのめるこよひ あきのよの ももよのながさ ありこせぬかも
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 笠朝臣金村作歌→作歌 [桂][元][紀] / <>→笠朝臣金村 [桂][元][紀] / 之→乃 [桂][元]
事項 相聞 作者:笠金村 行幸 久邇京 京都 地名 枕詞 神亀2年3月 年紀
訓異 たびのやどりに;たひのやとりに, よしのなければ;よしのなけれは, しきたへの;しきたえの, ころもでかへて;ころもてかへて, おのづまと;わかつまと, ももよのながさ;ももよのなかさ, ありこせぬかも;あるよいもかも, 
   
  04/0547
題詞 (二年乙丑春三月幸三香原離宮之時得娘子<作歌>一首[并短歌] <笠朝臣金村>)反歌
題訓 反し歌
原文 天雲之 外従見 吾妹兒尓 心毛身副 縁西鬼尾
訓読 天雲の外に見しより我妹子に心も身さへ寄りにしものを
仮名 あまくもの よそにみしより わぎもこに こころもみさへ よりにしものを
左注 なし
校異 歌 [西] 謌
事項 相聞 作者:笠金村 行幸 久邇京 京都 枕詞 地名 神亀2年3月
訓異 わぎもこに;わきもこに, 
   
  04/0548
題詞 ((二年乙丑春三月幸三香原離宮之時得娘子<作歌>一首[并短歌] <笠朝臣金村>)反歌)
原文 今夜之 早開者 為便乎無三 秋百夜乎 願鶴鴨
訓読 今夜の早く明けなばすべをなみ秋の百夜を願ひつるかも
仮名 こよひの はやくあけなば すべをなみ あきのももよを ねがひつるかも
左注 なし
校異 なし
事項 相聞 作者:笠金村 行幸 久邇京 京都 地名 神亀2年3月
訓異 こよひの;このよらの, はやくあけなば;はやくあくれは, すべをなみ;すへをなみ, ねがひつるかも;ねかひつるかも, 
   
  04/0549
題詞 五年戊辰<大>宰少貳石川足人朝臣遷任餞于筑前國蘆城驛家歌三首
題訓 五年いつとせといふとし戊辰つちのえたつ、太宰おほきみこともちの少弐すなきすけ石川足人たりひとの朝臣が遷任みやこにめさるるとき、筑前国つくしのみちのくちのくに蘆城あしきの駅家はゆまやに餞うまのはなむけする歌三首
原文 天地之 神毛助与 草枕 羈行君之 至家左右
訓読 天地の神も助けよ草枕旅行く君が家にいたるまで
仮名 あめつちの かみもたすけよ くさまくら たびゆくきみが いへにいたるまで
左注 (右三首作者未詳)
校異 歌 [西] 謌 / 太→大 [桂][元][紀]
事項 相聞 石川足人 餞別 羈旅 枕詞 福岡 地名 神亀5年 年紀
訓異 たびゆくきみが;たひゆくきみか, 
   
  04/0550
題詞 (五年戊辰<大>宰少貳石川足人朝臣遷任餞于筑前國蘆城驛家歌三首)
原文 大船之 念憑師 君之去者 吾者将戀名 直相左右二
訓読 大船の思ひ頼みし君が去なば我れは恋ひむな直に逢ふまでに
仮名 おほぶねの おもひたのみし きみがいなば あれはこひむな ただにあふまでに
左注 (右三首作者未詳)
校異 なし
事項 相聞 石川足人 餞別 羈旅 恋情 福岡 地名 神亀5年 年紀
訓異 おほぶねの;おほふねの, きみがいなば;きみかいねは, あれはこひむな;われはこひむな, ただにあふまでに;たみあふまてに, 
   
  04/0551
題詞 (五年戊辰<大>宰少貳石川足人朝臣遷任餞于筑前國蘆城驛家歌三首)
原文 山跡道之 嶋乃浦廻尓 縁浪 間無牟 吾戀巻者
訓読 大和道の島の浦廻に寄する波間もなけむ我が恋ひまくは
仮名 やまとぢの しまのうらみに よするなみ あひだもなけむ あがこひまくは
左注 右三首作者未詳
左注訓 右の三首みうたは、作者未詳よみひとしらず。
校異 なし
事項 相聞 石川足人 餞別 羈旅 序詞 恋情 福岡 地名 神亀5年
訓異 やまとぢの;やまとちの, しまのうらみに;しまのうらわに, あひだもなけむ;あひたなけむに, あがこひまくは;わかこひまくは, 
   
  04/0552
題詞 大伴宿祢三依歌一首
題訓 大伴宿禰三依みよりが歌一首
原文 吾君者 和氣乎波死常 念可毛 相夜不相<夜> 二走良武
訓読 我が君はわけをば死ねと思へかも逢ふ夜逢はぬ夜二走るらむ
仮名 あがきみは わけをばしねと おもへかも あふよあはぬよ ふたはしるらむ
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / <>→夜 [西(右書)][桂][元]
事項 相聞 作者:大伴三依 怨恨 恋情
訓異 あがきみは;わかきみは, わけをばしねと;わけをはしねと, ふたはしるらむ;ふたゆくならむ, 
   
  04/0553
題詞 丹生女王贈<大>宰帥大伴卿歌二首
題訓 丹生女王にふのおほきみの太宰帥おほきみこともちのかみ大伴の卿まへつきみに贈りたまへる歌二首
原文 天雲乃 遠隔乃極 遠鷄跡裳 情志行者 戀流物可聞
訓読 天雲のそくへの極み遠けども心し行けば恋ふるものかも
仮名 あまくもの そくへのきはみ とほけども こころしゆけば こふるものかも
左注 なし
校異 太→大 [桂][元][紀] / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 相聞 作者:丹生女王 大伴旅人 羈旅 贈答 恋情
訓異 そくへのきはみ;へたてのきはめ, とほけども;とほけとも, こころしゆけば;こころしゆけは, 
   
  04/0554
題詞 (丹生女王贈<大>宰帥大伴卿歌二首)
原文 古人乃 令食有 吉備能酒 <病>者為便無 貫簀賜牟
訓読 古人のたまへしめたる吉備の酒病めばすべなし貫簀賜らむ
仮名 ふるひとの たまへしめたる きびのさけ やめばすべなし ぬきすたばらむ
左注 なし
校異 痛→病 [元][類][紀]
事項 相聞 作者:丹生女王 大伴旅人 贈答
訓異 ふるひとの;いにしへの, たまへしめたる;ひとののませる, きびのさけ;きひのさけ, やめばすべなし;やもははすへな, ぬきすたばらむ;ぬきすたまはむ, 
   
  04/0555
題詞 <大>宰帥大伴卿贈大貳丹比縣守卿遷任民部卿歌一首
題訓 太宰帥大伴の卿の大弐おほきすけ丹比縣守たぢひのあがたもりの卿の民部卿たみのつかさのかみに遷任めさるるに歌一首
原文 為君 醸之待酒 安野尓 獨哉将飲 友無二思手
訓読 君がため醸みし待酒安の野にひとりや飲まむ友なしにして
仮名 きみがため かみしまちざけ やすののに ひとりやのまむ ともなしにして
左注 なし
校異 太→大 [桂][元][類][紀] / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 相聞 作者:大伴旅人 丹比縣守 餞別 送別 太宰府 福岡 地名
訓異 きみがため;きみかため, かみしまちざけ;かみしまちさけ, 
   
  04/0556
題詞 賀茂女王贈大伴宿祢三依歌一首 [故左大臣長屋王之女也]
題訓 賀茂女王かものおほきみの大伴宿禰三依に贈りたまへる歌一首
原文 筑紫船 未毛不来者 豫 荒振公乎 見之悲左
訓読 筑紫船いまだも来ねばあらかじめ荒ぶる君を見るが悲しさ
仮名 つくしふね いまだもこねば あらかじめ あらぶるきみを みるがかなしさ
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 相聞 作者:賀茂女王 大伴三依 恨牫 離別 贈答
訓異 いまだもこねば;またもこされは, あらかじめ;あらかしめ, あらぶるきみを;あらふるきみを, みるがかなしさ;みるかかなしさ, 
   
  04/0557
題詞 土師宿祢水<道>従筑紫上京海路作歌二首
題訓 土師宿禰水道はにしのすくねみみちが筑紫より京に上る海路うみつぢにてよめる歌二首
原文 大船乎 榜乃進尓 磐尓觸 覆者覆 妹尓因而者
訓読 大船を漕ぎの進みに岩に触れ覆らば覆れ妹によりては
仮名 おほぶねを こぎのすすみに いはにふれ かへらばかへれ いもによりては
左注 なし
校異 通→道 [桂][元] / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 相聞 作者:土師水道 羈旅 送別 餞別 太宰府 福岡
訓異 おほぶねを;おほふねを, こぎのすすみに;こきのすすみに, かへらばかへれ;かへらはかへれ, 
   
  04/0558
題詞 (土師宿祢水<道>従筑紫上京海路作歌二首)
原文 千磐破 神之社尓 我<挂>師 幣者将賜 妹尓不相國
訓読 ちはやぶる神の社に我が懸けし幣は賜らむ妹に逢はなくに
仮名 ちはやぶる かみのやしろに わがかけし ぬさはたばらむ いもにあはなくに
左注 なし
校異 掛→挂 [桂][元][紀]
事項 相聞 作者:土師水道 送別 太宰府 福岡 餞別 枕詞
訓異 ちはやぶる;ちはやふる, わがかけし;わかかけし, ぬさはたばらむ;ぬさはたはらむ, 
   
  04/0559
題詞 <大>宰大監大伴宿祢百代戀歌四首
題訓 太宰の大監おほきまつりごとひと大伴宿禰百代が恋の歌四首
原文 事毛無 生来之物乎 老奈美尓 如是戀<乎>毛 吾者遇流香聞
訓読 事もなく生き来しものを老いなみにかかる恋にも我れは逢へるかも
仮名 こともなく いきこしものを おいなみに かかるこひにも われはあへるかも
左注 なし
校異 太→大 [桂][元][紀] / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 于→乎 [桂][元][紀]
事項 相聞 作者:大伴百代 老齢 恋情
訓異 いきこしものを;ありこしものを, おいなみに;おひなみに, 
   
  04/0560
題詞 (<大>宰大監大伴宿祢百代戀歌四首)
原文 孤悲死牟 後者何為牟 生日之 為社妹乎 欲見為礼
訓読 恋ひ死なむ後は何せむ生ける日のためこそ妹を見まく欲りすれ
仮名 こひしなむ のちはなにせむ いけるひの ためこそいもを みまくほりすれ
左注 なし
校異 後 [元][桂][紀] 時
事項 相聞 作者:大伴百代 恋情
訓異  
   
  04/0561
題詞 (<大>宰大監大伴宿祢百代戀歌四首)
原文 不念乎 思常云者 大野有 三笠社之 神思知三
訓読 思はぬを思ふと言はば大野なる御笠の杜の神し知らさむ
仮名 おもはぬを おもふといはば おほのなる みかさのもりの かみししらさむ
左注 なし
校異 なし
事項 相聞 作者:大伴百代 福岡 太宰府 地名 恋情
訓異 おもふといはば;おもふといはは, かみししらさむ;かみししるらみ, 
   
  04/0562
題詞 (<大>宰大監大伴宿祢百代戀歌四首)
原文 無暇 人之眉根乎 徒 令掻乍 不相妹可聞
訓読 暇なく人の眉根をいたづらに掻かしめつつも逢はぬ妹かも
仮名 いとまなく ひとのまよねを いたづらに かかしめつつも あはぬいもかも
左注 なし
校異 なし
事項 相聞 作者:大伴百代 怨恨 恋情
訓異 いとまなく;いとまなき, ひとのまよねを;ひとのまゆねを, いたづらに;いたつらに, 
   
  04/0563
題詞 大伴坂上郎女歌二首
題訓 大伴坂上郎女が歌二首
原文 黒髪二 白髪交 至耆 如是有戀庭 未相尓
訓読 黒髪に白髪交り老ゆるまでかかる恋にはいまだ逢はなくに
仮名 くろかみに しろかみまじり おゆるまで かかるこひには いまだあはなくに
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 相聞 作者:坂上郎女 老齢 恋情
訓異 しろかみまじり;しろかみましり, おゆるまで;おひたれと, いまだあはなくに;あまたあはなくに, 
   
  04/0564
題詞 (大伴坂上郎女歌二首)
原文 山菅<之> 實不成事乎 吾尓所依 言礼師君者 与孰可宿良牟
訓読 山菅の実ならぬことを我れに寄せ言はれし君は誰れとか寝らむ
仮名 やますげの みならぬことを われによせ いはれしきみは たれとかぬらむ
左注 なし
校異 乃→之 [桂][類][紀]
事項 相聞 作者:坂上郎女 戯笑 怨恨 植物 恋愛
訓異 やますげの;やますけの, われによせ;われにより, 
   
  04/0565
題詞 賀茂女王歌一首
題訓 賀茂女王の歌一首
原文 大伴乃 見津跡者不云 赤根指 照有月夜尓 直相在登聞
訓読 大伴の見つとは言はじあかねさし照れる月夜に直に逢へりとも
仮名 おほともの みつとはいはじ あかねさし てれるつくよに ただにあへりとも
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 相聞 作者:賀茂女王 尫柜蹋 枕詞 掛詞 地名 大阪 恋愛
訓異 みつとはいはじ;みつとはいはし, てれるつくよに;てれるつきよに, ただにあへりとも;たたにあへりとも, 
   
  04/0566
題詞 <大>宰大監大伴宿祢百代等贈驛使歌二首
題訓 太宰の大監大伴宿禰百代等が駅使はゆまつかひに贈れる歌二首
原文 草枕 羈行君乎 愛見 副而曽来四 鹿乃濱邊乎
訓読 草枕旅行く君を愛しみたぐひてぞ来し志賀の浜辺を
仮名 くさまくら たびゆくきみを うるはしみ たぐひてぞこし しかのはまべを
左注 右一首大監大伴宿祢百代 / (以前天平二年庚午夏六月 帥大伴卿忽生瘡脚疾苦枕席 因此馳驛上奏 望請庶弟稲公姪胡麻呂欲語遺言者 勅右兵庫助大伴宿祢稲公治部少<丞>大伴宿祢胡麻呂兩人 給驛發遣令省卿病 而逕數<旬>幸得平復 于時稲公等以病既療 發府上京 於是大監大伴宿祢百代少典山口忌寸若麻呂及卿男家持等相送驛使 共到夷守驛家 聊飲悲別乃作此歌)
左注訓 右の一首ひとうたは、大監大伴宿禰百代。
校異 太→大 [桂][元][類] / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 相聞 作者:大伴百代 送別 羈旅 恋情 枕詞 贈答
訓異 たびゆくきみを;たひゆくきみを, うるはしみ;うつくしみ, たぐひてぞこし;たくひてそこし, しかのはまべを;しかのはまへを, 
   
  04/0567
題詞 (<大>宰大監大伴宿祢百代等贈驛使歌二首)
原文 周防在 磐國山乎 将超日者 手向好為与 荒其<道>
訓読 周防なる磐国山を越えむ日は手向けよくせよ荒しその道
仮名 すはなる いはくにやまを こえむひは たむけよくせよ あらしそのみち
左注 右一首少典山口忌寸若麻呂 / 以前天平二年庚午夏六月 帥大伴卿忽生瘡脚疾苦枕席 因此馳驛上奏 望請 庶弟稲公姪胡麻呂欲語遺言者 勅右兵庫助大伴宿祢稲公治部少<丞>大伴宿祢 胡麻呂兩人 給驛發遣令省卿病 而逕數<旬>幸得平復于時稲公等以病既療 發府上京 於是大監大伴宿祢百代少典山口忌寸若麻呂及卿男家持等相送驛使 共到夷守驛家 聊飲悲別乃作此歌
左注訓 右の一首は、少典すなきふみひと山口忌寸若麻呂。
以前天平二年庚午夏六月、帥大伴卿、忽ニ瘡ヲ 脚ニ生シ、枕席ニ疾苦ス。此ニ因テ駅ヲ馳セテ 上奏シ、庶弟稲公、姪胡麻呂ニ遺言ヲ語ラムコ トヲ望請フ。右兵庫助大伴宿禰稲公、治部少丞 大伴宿禰胡麻呂ノ両人ニ勅シテ、駅ヲ給ヒ発遣 シ、卿ノ病ヲ看シム。数旬ヲ逕テ幸ニ平復ヲ得。 時ニ稲公等病既ニ療タルヲ以テ、府ヲ発チ京ニ 上ル。是ニ大監大伴宿禰百代、少典山口忌寸若 麻呂、及ビ卿ノ男家持等、駅使ヲ相送ル。共ニ 夷守ノ駅家ニ到リ、聊カ飲シテ別ヲ悲シム。乃 チ此歌ヲ作メリ。
校異 庭→道 [西(貼紙)][桂][元] / 蒸→丞 [桂] / 看→省 [桂][元][紀] / 句→旬 [桂][元][紀] / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 相聞 作者:大伴百代 送別 羈旅 安全 山口 地名
訓異 すはなる;すはうなる, あらしそのみち;あらきそのみち, 
   
  04/0568
題詞 <大>宰帥大伴卿被任大納言臨入京之時府官人等餞卿筑前國蘆城驛家歌四首
原文 三埼廻之 荒礒尓縁 五百重浪 立毛居毛 我念流吉美
訓読 み崎廻の荒磯に寄する五百重波立ちても居ても我が思へる君
仮名 みさきみの ありそによする いほへなみ たちてもゐても あがもへるきみ
左注 右一首筑前掾門部連石足
左注訓 右の一首は、筑前の掾まつりごとひと門部連かどべのむらじ石足いそたり。
校異 太→大 [桂][元][類][紀] / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 相聞 作者:門部石足 大伴旅人 餞宴 送別 恋情 序詞 福岡 地名
訓異 みさきみの;みさきわの, ありそによする;あらいそによする, あがもへるきみ;わかおもへるきみ, 
   
  04/0569
題詞 (<大>宰帥大伴卿被任大納言臨入京之時府官人等餞卿筑前國蘆城驛家歌四首)
原文 辛人之 衣染云 紫之 情尓染而 所念鴨
訓読 韓人の衣染むといふ紫の心に染みて思ほゆるかも
仮名 からひとの ころもそむといふ むらさきの こころにしみて おもほゆるかも
左注 (右二首大典麻田連陽春)
校異 なし
事項 相聞 作者:麻田陽春 大伴旅人 餞宴 恋情 送別 福岡 地名
訓異 からひとの;あらひとの, 
   
  04/0570
題詞 (<大>宰帥大伴卿被任大納言臨入京之時府官人等餞卿筑前國蘆城驛家歌四首)
原文 山跡邊 君之立日乃 近付者 野立鹿毛 動而曽鳴
訓読 大和へに君が発つ日の近づけば野に立つ鹿も響めてぞ鳴く
仮名 やまとへに きみがたつひの ちかづけば のにたつしかも とよめてぞなく
左注 右二首大典麻田連陽春
左注訓 右の二首は、大典おほきふみひと麻田連陽春あさだのむらじやす。
校異 なし
事項 相聞 作者:麻田陽春 大伴旅人 餞宴 恋情 送別 福岡 地名
訓異 やまとへに, きみがたつひの, ちかづけば, のにたつしかも, とよめてぞなく
   
  04/0571
題詞 (<大>宰帥大伴卿被任大納言臨入京之時府官人等餞卿筑前國蘆城驛家歌四首)
原文 月夜吉 河音清之 率此間 行毛不去毛 遊而将歸
訓読 月夜よし川の音清しいざここに行くも行かぬも遊びて行かむ
仮名 つくよよし かはのおときよし いざここに ゆくもゆかぬも あそびてゆかむ
左注 右一首防人佑大伴四綱
左注訓 右の一首は、防人佑さきもりのまつりごとひと大伴四綱よつな。
校異 なし
事項 相聞 作者:大伴四綱 大伴旅人 餞宴 送別 福岡 地名
訓異 つくよよし;つきよよし, かはのおときよし;かはをときよし, いざここに;いさここに, ゆくもゆかぬも;ゆくもとまるも, あそびてゆかむ;あそひてゆかむ, 
   
  04/0572
題詞 <大>宰帥大伴卿上京之後沙弥満誓贈卿歌二首
題訓 太宰帥大伴の卿の京に上りたまへる後、沙弥満誓さみのまむぜいが卿に贈れる歌二首
原文 真十鏡 見不飽君尓 所贈哉 旦夕尓 左備乍将居
訓読 まそ鏡見飽かぬ君に後れてや朝夕にさびつつ居らむ
仮名 まそかがみ みあかぬきみに おくれてや あしたゆふへに さびつつをらむ
左注 なし
校異 太→大 [桂][元][類] / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 相聞 作者:沙弥満誓 大伴旅人 恋情 送別 枕詞 福岡 地名
訓異 まそかがみ;まそかかみ, さびつつをらむ;さひつつをらむ, 
   
  04/0573
題詞 (<大>宰帥大伴卿上京之後沙弥満誓贈卿歌二首)
原文 野干玉之 黒髪變 白髪手裳 痛戀庭 相時有来
訓読 ぬばたまの黒髪変り白けても痛き恋には逢ふ時ありけり
仮名 ぬばたまの くろかみかはり しらけても いたきこひには あふときありけり
左注 なし
校異 なし
事項 相聞 作者:沙弥満誓 大伴旅人 恋情 送別 年齢 枕詞
訓異 ぬばたまの;ぬはたまの, 
   
  04/0574
題詞 大納言大伴卿和歌二首
題訓 大納言大伴の卿の和こたへたまへる歌二首
原文 此間在而 筑紫也何處 白雲乃 棚引山之 方西有良思
訓読 ここにありて筑紫やいづち白雲のたなびく山の方にしあるらし
仮名 ここにありて つくしやいづち しらくもの たなびくやまの かたにしあるらし
左注 なし
校異 歌 [西] 謌
事項 相聞 作者:大伴旅人 和歌 羈旅 福岡 地名
訓異 つくしやいづち;つくしやいつこ, たなびくやまの;たなひくやまの, 
   
  04/0575
題詞 (大納言大伴卿和歌二首)
原文 草香江之 入江二求食 蘆鶴乃 痛多豆多頭思 友無二指天
訓読 草香江の入江にあさる葦鶴のあなたづたづし友なしにして
仮名 くさかえの いりえにあさる あしたづの あなたづたづし ともなしにして
左注 なし
校異 なし
事項 相聞 作者:大伴旅人 和歌 孤独 羈旅 大阪 地名 動物 序詞
訓異 あしたづの;あしたつの, あなたづたづし;あなたつたつし, 
   
  04/0576
題詞 <大>宰帥大伴卿上京之後筑後守葛井連大成悲嘆作歌一首
題訓 太宰帥大伴の卿の京に上りたまひし後、筑後守つくしのみちのしりのかみ葛井連大成ふぢゐのむらじおほなりが悲嘆なげきてよめる歌一首
原文 従今者 城山道者 不樂牟 吾将通常 念之物乎
訓読 今よりは城の山道は寂しけむ我が通はむと思ひしものを
仮名 いまよりは きのやまみちは さぶしけむ わがかよはむと おもひしものを
左注 なし
校異 太→大 [桂][元][類] / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 相聞 作者:葛井大成 大伴旅人 愛慕 福岡 地名 恋情
訓異 きのやまみちは;きやまのみちは, さぶしけむ;さひしけむ, わがかよはむと;わかかよはむと, 
   
  04/0577
題詞 大納言大伴卿新袍贈攝津大夫高安王歌一首
題訓 大納言大伴の卿の、新しき袍うへのきぬを攝津大夫つすぶるかみ高安王に贈りたまへる歌一首
原文 吾衣 人莫著曽 網引為 難波壮士乃 手尓者雖觸
訓読 我が衣人にな着せそ網引する難波壮士の手には触るとも
仮名 あがころも ひとになきせそ あびきする なにはをとこの てにはふるとも
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 相聞 作者:大伴旅人 高安王 大阪 地名 贈答
訓異 あがころも;わかきぬを, あびきする;あひきする, 
   
  04/0578
題詞 大伴宿祢三依悲別歌一首
題訓 大伴宿禰三依が悲別わかれの歌一首
原文 天地与 共久 住波牟等 念而有師 家之庭羽裳
訓読 天地とともに久しく住まはむと思ひてありし家の庭はも
仮名 あめつちと ともにひさしく すまはむと おもひてありし いへのにははも
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 相聞 作者:大伴三依 大伴旅人 挽歌発想
訓異  
   
  04/0579
題詞 <余>明軍與大伴宿祢家持歌二首 [明軍者大納言卿之資人也]
題訓 金明軍こむのみやうぐむが大伴宿禰家持に与たてまつれる歌二首
原文 奉見而 未時太尓 不更者 如年月 所念君
訓読 見まつりていまだ時だに変らねば年月のごと思ほゆる君
仮名 みまつりて いまだときだに かはらねば としつきのごと おもほゆるきみ
左注 なし
校異 金→余 [桂][元][古][紀]
事項 相聞 作者:余明軍 大伴家持
訓異 いまだときだに;いまたときたに, かはらねば;かはらねは, としつきのごと;としつきのこと, 
   
  04/0580
題詞 (<余>明軍與大伴宿祢家持歌二首 [明軍者大納言卿之資人也])
原文 足引乃 山尓生有 菅根乃 懃見巻 欲君可聞
訓読 あしひきの山に生ひたる菅の根のねもころ見まく欲しき君かも
仮名 あしひきの やまにおひたる すがのねの ねもころみまく ほしききみかも
左注 なし
校異 なし
事項 相聞 作者:余明軍 大伴家持 植物 序詞
訓異 すがのねの;すかのねの, 
   
  04/0581
題詞 大伴坂上家之大娘報<贈>大伴宿祢家持歌四首
題訓 大伴坂上おほとものさかのへの家の大娘おほいらつめが大伴宿禰家持に報こたへ贈れる歌四首
原文 生而有者 見巻毛不知 何如毛 将死与妹常 夢所見鶴
訓読 生きてあらば見まくも知らず何しかも死なむよ妹と夢に見えつる
仮名 いきてあらば みまくもしらず なにしかも しなむよいもと いめにみえつる
左注 なし
校異 賜→贈 [桂][元][紀] / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 相聞 作者:坂上大嬢 大伴家持 夢 恋情 贈答
訓異 いきてあらば;いきてあれは, みまくもしらず;みまくもしらす, いめにみえつる;ゆめにみえつる, 
   
  04/0582
題詞 (大伴坂上家之大娘報<贈>大伴宿祢家持歌四首)
原文 大夫毛 如此戀家流乎 幼婦之 戀情尓 比有目八方
訓読 ますらをもかく恋ひけるをたわやめの恋ふる心にたぐひあらめやも
仮名 ますらをも かくこひけるを たわやめの こふるこころに たぐひあらめやも
左注 なし
校異 なし
事項 相聞 作者:坂上大嬢 大伴家持 贈答
訓異 たわやめの;たをやめの, たぐひあらめやも;ならへらめやも, 
   
  04/0583
題詞 (大伴坂上家之大娘報<贈>大伴宿祢家持歌四首)
原文 月草之 徙安久 念可母 我念人之 事毛告不来
訓読 月草のうつろひやすく思へかも我が思ふ人の言も告げ来ぬ
仮名 つきくさの うつろひやすく おもへかも わがおもふひとの こともつげこぬ
左注 なし
校異 なし
事項 相聞 作者:坂上大嬢 大伴家持 植物 枕詞 贈答
訓異 わがおもふひとの;わかおもふひとの, こともつげこぬ;こともつけこぬ, 
   
  04/0584
題詞 (大伴坂上家之大娘報<贈>大伴宿祢家持歌四首)
原文 春日山 朝立雲之 不居日無 見巻之欲寸 君毛有鴨
訓読 春日山朝立つ雲の居ぬ日なく見まくの欲しき君にもあるかも
仮名 かすがやま あさたつくもの ゐぬひなく みまくのほしき きみにもあるかも
左注 なし
校異 なし
事項 相聞 作者:坂上大嬢 大伴家持 恋情 奈良 地名 序詞 贈答
訓異 かすがやま;かすかやま, 
   
  04/0585
題詞 大伴坂上郎女歌一首
題訓 大伴坂上郎女が歌一首
原文 出而将去 時之波将有乎 故 妻戀為乍 立而可去哉
訓読 出でていなむ時しはあらむをことさらに妻恋しつつ立ちていぬべしや
仮名 いでていなむ ときしはあらむを ことさらに つまごひしつつ たちていぬべしや
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 相聞 作者:坂上郎女 恋愛
訓異 いでていなむ;いてていなむ, つまごひしつつ;つまこひしつつ, たちていぬべしや;たちてゆくへしや, 
   
  04/0586
題詞 大伴宿祢稲公贈田村大嬢歌一首 [大伴<宿>奈麻呂卿<之>女也]
題訓 大伴宿禰稲公が田村大嬢に贈れる歌一首
原文 不相見者 不戀有益乎 妹乎見而 本名如此耳 戀者奈何将為
訓読 相見ずは恋ひずあらましを妹を見てもとなかくのみ恋ひばいかにせむ
仮名 あひみずは こひずあらましを いもをみて もとなかくのみ こひばいかにせむ
左注 右一首姉坂上郎女作
左注訓 右、一云あるはいふ、姉坂上郎女がよめる。
校異 宿祢→宿 [西(訂正)][温][矢] / <>→之 [元][紀] / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 相聞 作者:大伴稲公 坂上郎女 田村大嬢 代作 恋情 贈答
訓異 あひみずは;あひみすは, こひずあらましを;こひさらましを, こひばいかにせむ;こひはいかにせむ, 
   
  04/0587
題詞 笠女郎贈大伴宿祢家持歌廿四首
題訓 笠女郎が大伴宿禰家持に贈れる歌廿四首はたちまりよつ
原文 吾形見 々管之努波世 荒珠 年之緒長 吾毛将思
訓読 我が形見見つつ偲はせあらたまの年の緒長く我れも偲はむ
仮名 わがかたみ みつつしのはせ あらたまの としのをながく われもしのはむ
左注 なし
校異 歌 [西] 謌
事項 相聞 作者:笠女郎 大伴家持 恋情 贈答 枕詞
訓異 わがかたみ;わかかたみ, としのをながく;としのをなかく, われもしのはむ;われもおもはむ, 
   
  04/0588
題詞 (笠女郎贈大伴宿祢家持歌廿四首)
原文 白鳥能 飛羽山松之 待乍曽 吾戀度 此月比乎
訓読 白鳥の飛羽山松の待ちつつぞ我が恋ひわたるこの月ごろを
仮名 しらとりの とばやままつの まちつつぞ あがこひわたる このつきごろを
左注 なし
校異 なし
事項 相聞 作者:笠女郎 大伴家持 恋情 贈答 枕詞 奈良 地名 序詞
訓異 しらとりの;しろとりの, とばやままつの;とはやままつの, まちつつぞ;まちつつそ, あがこひわたる;わかこひわたる, このつきごろを;このつきころを, 
   
  04/0589
題詞 (笠女郎贈大伴宿祢家持歌廿四首)
原文 衣手乎 打廻乃里尓 有吾乎 不知曽人者 待跡不来家留
訓読 衣手を打廻の里にある我れを知らにぞ人は待てど来ずける
仮名 ころもでを うちみのさとに あるわれを しらにぞひとは まてどこずける
左注 なし
校異 なし
事項 相聞 作者:笠女郎 大伴家持 待攦 恋情 枕詞 奈良 地名 贈答
訓異 ころもでを;ころもてを, うちみのさとに;うちわのさとに, しらにぞひとは;しらてそひとは, まてどこずける;まてそこすける, 
   
  04/0590
題詞 (笠女郎贈大伴宿祢家持歌廿四首)
原文 荒玉 年之經去者 今師波登 勤与吾背子 吾<名>告為莫
訓読 あらたまの年の経ぬれば今しはとゆめよ我が背子我が名告らすな
仮名 あらたまの としのへぬれば いましはと ゆめよわがせこ わがなのらすな
左注 なし
校異 <>→名 [西(右書)][元][紀]
事項 相聞 作者:笠女郎 大伴家持 名 尫柜蹋 贈答 枕詞
訓異 としのへぬれば;としのへゆけは, ゆめよわがせこ;ゆめよわかせこ, わがなのらすな;わかなつけすな, 
   
  04/0591
題詞 (笠女郎贈大伴宿祢家持歌廿四首)
原文 吾念乎 人尓令知哉 玉匣 開阿氣津跡 夢西所見
訓読 我が思ひを人に知るれか玉櫛笥開きあけつと夢にし見ゆる
仮名 わがおもひを ひとにしるれか たまくしげ ひらきあけつと いめにしみゆる
左注 なし
校異 なし
事項 相聞 作者:笠女郎 大伴家持 尫柜蹋 贈答 枕詞
訓異 わがおもひを;わかおもひを, ひとにしるれか;ひとにしらすや, たまくしげ;たまくしけ, いめにしみゆる;ゆめにしみゆる, 
   
  04/0592
題詞 (笠女郎贈大伴宿祢家持歌廿四首)
原文 闇夜尓 鳴奈流鶴之 外耳 聞乍可将有 相跡羽奈之尓
訓読 闇の夜に鳴くなる鶴の外のみに聞きつつかあらむ逢ふとはなしに
仮名 やみのよに なくなるたづの よそのみに ききつつかあらむ あふとはなしに
左注 なし
校異 なし
事項 相聞 作者:笠女郎 大伴家持 恨牫 贈答 動物 序詞
訓異 やみのよに;くらきよに, なくなるたづの;なくなるたつの, よそのみに;よそにのみ, 
   
  04/0593
題詞 (笠女郎贈大伴宿祢家持歌廿四首)
原文 君尓戀 痛毛為便無見 楢山之 小松之下尓 立嘆鴨
訓読 君に恋ひいたもすべなみ奈良山の小松が下に立ち嘆くかも
仮名 きみにこひ いたもすべなみ ならやまの こまつがしたに たちなげくかも
左注 なし
校異 なし
事項 相聞 作者:笠女郎 大伴家持 恋情 待攦 奈良 地名 植物 贈答
訓異 いたもすべなみ;いともすへなみ, こまつがしたに;こまつかしたに, たちなげくかも;たちなけくかも, 
   
  04/0594
題詞 (笠女郎贈大伴宿祢家持歌廿四首)
原文 吾屋戸之 暮陰草乃 白露之 消蟹本名 所念鴨
訓読 我がやどの夕蔭草の白露の消ぬがにもとな思ほゆるかも
仮名 わがやどの ゆふかげくさの しらつゆの けぬがにもとな おもほゆるかも
左注 なし
校異 なし
事項 相聞 作者:笠女郎 大伴家持 恋情 植物 序詞 贈答
訓異 わがやどの;わかやとの, ゆふかげくさの;ゆふかけくさの, けぬがにもとな;けぬかにもとな, 
   
  04/0595
題詞 (笠女郎贈大伴宿祢家持歌廿四首)
原文 吾命之 将全<牟>限 忘目八 弥日異者 念益十方
訓読 我が命の全けむ限り忘れめやいや日に異には思ひ増すとも
仮名 わがいのちの またけむかぎり わすれめや いやひにけには おもひますとも
左注 なし
校異 幸→牟 [元]
事項 相聞 作者:笠女郎 大伴家持 恋情 贈答
訓異 わがいのちの;わかいのちの, またけむかぎり;またけむかきり, 
   
  04/0596
題詞 (笠女郎贈大伴宿祢家持歌廿四首)
原文 八百日徃 濱之沙毛 吾戀二 豈不益歟 奥嶋守
訓読 八百日行く浜の真砂も我が恋にあにまさらじか沖つ島守
仮名 やほかゆく はまのまなごも あがこひに あにまさらじか おきつしまもり
左注 なし
校異 なし
事項 相聞 作者:笠女郎 大伴家持 恋情 贈答 掛詞
訓異 はまのまなごも;はまのまさこも, あがこひに;わかこひに, あにまさらじか;あにまさらめや, 
   
  04/0597
題詞 (笠女郎贈大伴宿祢家持歌廿四首)
原文 宇都蝉之 人目乎繁見 石走 間近<君>尓 戀度可聞
訓読 うつせみの人目を繁み石橋の間近き君に恋ひわたるかも
仮名 うつせみの ひとめをしげみ いしはしの まちかききみに こひわたるかも
左注 なし
校異 <>→君 [西(左書)][元][紀]
事項 相聞 作者:笠女郎 大伴家持 恋情 枕詞 贈答
訓異 ひとめをしげみ;ひとめをしけみ, 
   
  04/0598
題詞 (笠女郎贈大伴宿祢家持歌廿四首)
原文 戀尓毛曽 人者死為 水<無>瀬河 下従吾痩 月日異
訓読 恋にもぞ人は死にする水無瀬川下ゆ我れ痩す月に日に異に
仮名 こひにもぞ ひとはしにする みなせがは したゆわれやす つきにひにけに
左注 なし
校異 <>→無 [桂][元][紀]
事項 相聞 作者:笠女郎 大伴家持 恋病 恋情 贈答
訓異 こひにもぞ;こひにもそ, みなせがは;みなせかは, したゆわれやす;したにわれやす, 
   
  04/0599
題詞 (笠女郎贈大伴宿祢家持歌廿四首)
原文 朝霧之 欝相見之 人故尓 命可死 戀渡鴨
訓読 朝霧のおほに相見し人故に命死ぬべく恋ひわたるかも
仮名 あさぎりの おほにあひみし ひとゆゑに いのちしぬべく こひわたるかも
左注 なし
校異 なし
事項 相聞 作者:笠女郎 大伴家持 恋情 贈答
訓異 あさぎりの;あさきりの, おほにあひみし;ほのにあひみし, ひとゆゑに;ひとゆへに, いのちしぬべく;いのちしぬへく, 
   
  04/0600
題詞 (笠女郎贈大伴宿祢家持歌廿四首)
原文 伊勢海之 礒毛動尓 因流波 恐人尓 戀渡鴨
訓読 伊勢の海の礒もとどろに寄する波畏き人に恋ひわたるかも
仮名 いせのうみの いそもとどろに よするなみ かしこきひとに こひわたるかも
左注 なし
校異 なし
事項 相聞 作者:笠女郎 大伴家持 恋情 三重 地名 序詞 贈答
訓異 いそもとどろに;いそもととろに, 
   
  04/0601
題詞 (笠女郎贈大伴宿祢家持歌廿四首)
原文 従情毛 吾者不念寸 山河毛 隔莫國 如是戀常羽
訓読 心ゆも我は思はずき山川も隔たらなくにかく恋ひむとは
仮名 こころゆも わはおもはずき やまかはも へだたらなくに かくこひむとは
左注 なし
校異 なし
事項 相聞 作者:笠女郎 大伴家持 恋情 贈答
訓異 こころゆも;こころにも, わはおもはずき;われはおもはす, へだたらなくに;へたたらなくに, 
   
  04/0602
題詞 (笠女郎贈大伴宿祢家持歌廿四首)
原文 暮去者 物念益 見之人乃 言問為形 面景尓而
訓読 夕されば物思ひまさる見し人の言とふ姿面影にして
仮名 ゆふされば ものもひまさる みしひとの こととふすがた おもかげにして
左注 なし
校異 なし
事項 相聞 作者:笠女郎 大伴家持 恋情 贈答
訓異 ゆふされば;ゆふされは, ものもひまさる;ものおもひまさる, こととふすがた;こととひしさま, おもかげにして;おもかけにして, 
   
  04/0603
題詞 (笠女郎贈大伴宿祢家持歌廿四首)
原文 念西 死為物尓 有麻世波 千遍曽吾者 死變益
訓読 思ふにし死にするものにあらませば千たびぞ我れは死にかへらまし
仮名 おもひにし しにするものに あらませば ちたびぞわれは しにかへらまし
左注 なし
校異 なし
事項 相聞 作者:笠女郎 大伴家持 恋情 贈答
訓異 あらませば;あらませは, ちたびぞわれは;ちたひそわれは, [左注]
   
  04/0604
題詞 (笠女郎贈大伴宿祢家持歌廿四首)
原文 劔大刀 身尓取副常 夢見津 何如之恠曽毛 君尓相為
訓読 剣大刀身に取り添ふと夢に見つ何のさがぞも君に逢はむため
仮名 つるぎたち みにとりそふと いめにみつ なにのさがぞも きみにあはむため
左注 なし
校異 なし
事項 相聞 作者:笠女郎 大伴家持 夢 恋情 贈答
訓異 つるぎたち;つるきたち, いめにみつ;ゆめにみつ, なにのさがぞも;なにのさとしそも, 
   
  04/0605
題詞 (笠女郎贈大伴宿祢家持歌廿四首)
原文 天地之 神理 無者社 吾念君尓 不相死為目
訓読 天地の神の理なくはこそ我が思ふ君に逢はず死にせめ
仮名 あめつちの かみのことわり なくはこそ あがおもふきみに あはずしにせめ
左注 なし
校異 なし
事項 相聞 作者:笠女郎 大伴家持 恋情 贈答
訓異 かみのことわり;かみもことはり, あがおもふきみに;わかおもふきみに, あはずしにせめ;あはすしにせめ, 
   
  04/0606
題詞 (笠女郎贈大伴宿祢家持歌廿四首)
原文 吾毛念 人毛莫忘 多奈和丹 浦吹風之 止時無有
訓読 我れも思ふ人もな忘れおほなわに浦吹く風のやむ時もなし
仮名 われもおもふ ひともなわすれ おほなわに うらふくかぜの やむときもなし
左注 なし
校異 なし
事項 相聞 作者:笠女郎 大伴家持 恋情 贈答
訓異 ひともなわすれ;ひともわするな, うらふくかぜの;うらふくかせの, やむときもなし;やむときなかれ, 
   
  04/0607
題詞 (笠女郎贈大伴宿祢家持歌廿四首)
原文 皆人乎 宿与殿金者 打礼杼 君乎之念者 寐不勝鴨
訓読 皆人を寝よとの鐘は打つなれど君をし思へば寐ねかてぬかも
仮名 みなひとを ねよとのかねは うつなれど きみをしおもへば いねかてぬかも
左注 なし
校異 なし
事項 相聞 作者:笠女郎 大伴家持 恋情 贈答
訓異 うつなれど;うつなれと, きみをしおもへば;きみをしおもへは, いねかてぬかも;いねかかてにかも, 
   
  04/0608
題詞 (笠女郎贈大伴宿祢家持歌廿四首)
原文 不相念 人乎思者 大寺之 餓鬼之後尓 額衝如
訓読 相思はぬ人を思ふは大寺の餓鬼の後方に額つくごとし
仮名 あひおもはぬ ひとをおもふは おほてらの がきのしりへに ぬかつくごとし
左注 なし
校異 なし
事項 相聞 作者:笠女郎 大伴家持 恨牫 贈答
訓異 がきのしりへに;かきのしりへに, ぬかつくごとし;ぬかつくかこと, 
   
  04/0609
題詞 (笠女郎贈大伴宿祢家持歌廿四首)
原文 従情毛 我者不念寸 又更 吾故郷尓 将還来者
訓読 心ゆも我は思はずきまたさらに我が故郷に帰り来むとは
仮名 こころゆも わはおもはずき またさらに わがふるさとに かへりこむとは
左注 (右二首相別後更来贈)
校異 なし
事項 相聞 作者:笠女郎 大伴家持 恨牫 贈答
訓異 こころゆも;こころにも, わはおもはずき;われはおもはす, わがふるさとに;わかふるさとに, 
   
  04/0610
題詞 (笠女郎贈大伴宿祢家持歌廿四首)
原文 近有者 雖不見在乎 弥遠 君之伊座者 有不勝<自>
訓読 近くあれば見ねどもあるをいや遠く君がいまさば有りかつましじ
仮名 ちかくあれば みねどもあるを いやとほく きみがいまさば ありかつましじ
左注 右二首相別後更来贈
左注訓 右の二首は、相別わかれて後また来贈おくれるなり。
校異 目→自 [西(訂正)][元][紀]
事項 相聞 作者:笠女郎 大伴家持 恋情 贈答
訓異 ちかくあれば;ちかくあれは, みねどもあるを;みねともあるを, いやとほく;いやとほに, きみがいまさば;きみかいまれなは, ありかつましじ;ありてもたへし, 
   
  04/0611
題詞 (笠女郎贈大伴宿祢家持歌廿四首)大伴宿祢家持和<歌>二首
題訓 大伴宿禰家持が和ふる歌二首
原文 今更 妹尓将相八跡 念可聞 幾許吾胸 欝悒将有
訓読 今さらに妹に逢はめやと思へかもここだ我が胸いぶせくあるらむ
仮名 いまさらに いもにあはめやと おもへかも ここだあがむね いぶせくあるらむ
左注 なし
校異 <>→歌 [西(右書)][元][金]
事項 相聞 作者:大伴家持 笠女郎 贈答
訓異 ここだあがむね;ここたわかむね, いぶせくあるらむ;いふかしからむ, 
   
  04/0612
題詞 ((笠女郎贈大伴宿祢家持歌廿四首)大伴宿祢家持和<歌>二首)
原文 中々者 黙毛有益<乎> 何為跡香 相見始兼 不遂尓
訓読 なかなかに黙もあらましを何すとか相見そめけむ遂げざらまくに
仮名 なかなかに もだもあらましを なにすとか あひみそめけむ とげざらまくに
左注 なし
校異 呼→乎 [金][紀]
事項 相聞 作者:大伴家持 笠女郎 悔恨 恨牫 贈答
訓異 もだもあらましを;もたもあらましを, とげざらまくに;とけさらなくに, 
   
  04/0613
題詞 山口女王贈大伴宿祢家持歌五首
題訓 山口女王の大伴宿禰家持に贈りたまへる歌五首
原文 物念跡 人尓不<所>見常 奈麻強<尓> 常念弊利 在曽金津流
訓読 もの思ふと人に見えじとなまじひに常に思へりありぞかねつる
仮名 ものもふと ひとにみえじと なまじひに つねにおもへり ありぞかねつる
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / <>→所 [元][金][紀] / <>→尓 [元][金][紀]
事項 相聞 作者:山口女王 大伴家持 恋情 贈答
訓異 ものもふと;ものおもふと, ひとにみえじと;ひとにみせしと, なまじひに;なましひに, ありぞかねつる;ありそかねつる, 
   
  04/0614
題詞 (山口女王贈大伴宿祢家持歌五首)
原文 不相念 人乎也本名 白細之 袖漬左右二 哭耳四泣裳
訓読 相思はぬ人をやもとな白栲の袖漬つまでに音のみし泣くも
仮名 あひおもはぬ ひとをやもとな しろたへの そでひつまでに ねのみしなくも
左注 なし
校異 なし
事項 相聞 作者:山口女王 大伴家持 贈答 怨恨
訓異 そでひつまでに;そてひつまてに, 
   
  04/0615
題詞 (山口女王贈大伴宿祢家持歌五首)
原文 吾背子者 不相念跡裳 敷細乃 君之枕者 夢<所>見乞
訓読 我が背子は相思はずとも敷栲の君が枕は夢に見えこそ
仮名 わがせこは あひおもはずとも しきたへの きみがまくらは いめにみえこそ
左注 なし
校異 尓→所 [元][金][紀]
事項 相聞 作者:山口女王 大伴家持 恋情 贈答 枕詞 夢
訓異 わがせこは;わかせこは, あひおもはずとも;あひをもはすとも, きみがまくらは;きみかまくらは, いめにみえこそ;ゆめにみえこそ, 
   
  04/0616
題詞 (山口女王贈大伴宿祢家持歌五首)
原文 劔大刀 名惜雲 吾者無 君尓不相而 年之經去礼者
訓読 剣太刀名の惜しけくも我れはなし君に逢はずて年の経ぬれば
仮名 つるぎたち なのをしけくも われはなし きみにあはずて としのへぬれば
左注 なし
校異 なし
事項 相聞 作者:山口女王 大伴家持 尫柜蹋 名 恋情 贈答
訓異 つるぎたち;つるきたち, きみにあはずて;きみにあはすて, としのへぬれば;としのへぬれは, 
   
  04/0617
題詞 (山口女王贈大伴宿祢家持歌五首)
原文 従蘆邊 満来塩乃 弥益荷 念歟君之 忘金鶴
訓読 葦辺より満ち来る潮のいや増しに思へか君が忘れかねつる
仮名 あしへより みちくるしほの いやましに おもへかきみが わすれかねつる
左注 なし
校異 なし
事項 相聞 作者:山口女王 大伴家持 恋情 贈答 序詞
訓異 おもへかきみが;おもへかきみか, 
   
  04/0618
題詞 大神女郎贈大伴宿祢家持歌一首
題訓 大神郎女おほみわのいらつめが大伴宿禰家持に贈れる歌一首
原文 狭夜中尓 友喚千鳥 物念跡 和備居時二 鳴乍本名
訓読 さ夜中に友呼ぶ千鳥物思ふとわびをる時に鳴きつつもとな
仮名 さよなかに ともよぶちとり ものもふと わびをるときに なきつつもとな
左注 なし
校異 歌 [西] 謌
事項 相聞 作者:大神女郎 大伴家持 恋情 動物 贈答
訓異 ともよぶちとり;ともよふちとり, ものもふと;ものおもふと, わびをるときに;わひたるときに, 
   
  04/0619
題詞 大伴坂上郎女怨恨歌一首[并短歌]
題訓 大伴坂上郎女が怨恨うらみの歌一首、また短歌
原文 押照 難波乃菅之 根毛許呂尓 君之聞四<手> 年深 長四云者 真十鏡 磨師情乎 縦手師 其日之極 浪之共 靡珠藻乃 云々 意者不持 大船乃 憑有時丹 千磐破 神哉将離 空蝉乃 人歟禁良武 通為 君毛不来座 玉梓之 使母不所見 成奴礼婆 痛毛為便無三 夜干玉乃 夜者須我良尓 赤羅引 日母至闇 雖嘆 知師乎無三 雖念 田付乎白二 幼婦常 言雲知久 手小童之 哭耳泣管 俳徊 君之使乎 待八兼手六
訓読 おしてる 難波の菅の ねもころに 君が聞こして 年深く 長くし言へば まそ鏡 磨ぎし心を ゆるしてし その日の極み 波の共 靡く玉藻の かにかくに 心は持たず 大船の 頼める時に ちはやぶる 神か離くらむ うつせみの 人か障ふらむ 通はしし 君も来まさず 玉梓の 使も見えず なりぬれば いたもすべなみ ぬばたまの 夜はすがらに 赤らひく 日も暮るるまで 嘆けども 験をなみ 思へども たづきを知らに たわや女と 言はくもしるく たわらはの 音のみ泣きつつ た廻り 君が使を 待ちやかねてむ
仮名 おしてる なにはのすげの ねもころに きみがきこして としふかく ながくしいへば まそかがみ とぎしこころを ゆるしてし そのひのきはみ なみのむた なびくたまもの かにかくに こころはもたず おほぶねの たのめるときに ちはやぶる かみかさくらむ うつせみの ひとかさふらむ かよはしし きみもきまさず たまづさの つかひもみえず なりぬれば いたもすべなみ ぬばたまの よるはすがらに あからひく ひもくるるまで なげけども しるしをなみ おもへども たづきをしらに たわやめと いはくもしるく たわらはの ねのみなきつつ たもとほり きみがつかひを まちやかねてむ
左注 なし
校異 歌 [西] / 乎→手 [金]
事項 相聞 作者:坂上郎女 怨恨 恋情 挽歌的手法 枕詞
訓異 なにはのすげの;なにはのすけの, きみがきこして;きみかききしを, ながくしいへば;なかくしいへは, まそかがみ;まそかかみ, とぎしこころを;ときしこころを, なびくたまもの;なひくたまもの, かにかくに;とにかくに, こころはもたず;こころはもたす, おほぶねの;おほふねの, ちはやぶる;ちはやふる, かみかさくらむ;かみやかれなむ, ひとかさふらむ;ひとかいむらむ, かよはしし;かよひせし, きみもきまさず;きみもきまさす, たまづさの;たまつさの, つかひもみえず;つかひもみえす, なりぬれば;なりぬれは, いたもすべなみ;いともすへなみ, ぬばたまの;ぬはたまの, よるはすがらに;よるはすからに, ひもくるるまで;ひもくるるまて, なげけども;なけけとも, しるしをなみ;しるしをなしみ, おもへども;おもへとも, たづきをしらに;たつきをしらに, たわやめと;たをやめと, たわらはの;わらはの, ねのみなきつつ;ねのみなくつつ, たもとほり;たちとまり, きみがつかひを;きみかつかひを, 
   
  04/0620
題詞 (大伴坂上郎女怨恨歌一首[并短歌])反歌
題訓 反し歌
原文 従元 長謂管 不<令>恃者 如是念二 相益物歟
訓読 初めより長く言ひつつ頼めずはかかる思ひに逢はましものか
仮名 はじめより ながくいひつつ たのめずは かかるおもひに あはましものか
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 / 念→令 [紀]
事項 相聞 作者:坂上郎女 悔恨 怨恨
訓異 はじめより;はしめより, ながくいひつつ;なかくいひつつ, たのめずは;たのめすは, 
   
  04/0621
題詞 西海道節度使判官佐伯宿祢東人妻贈夫君歌一首
題訓 西海道にしのうみつぢの節度使せどしの判官まつりごとひと佐伯宿禰東人あづまひとの妻めが夫せの君に贈れる歌一首
原文 無間 戀尓可有牟 草枕 客有公之 夢尓之所見
訓読 間なく恋ふれにかあらむ草枕旅なる君が夢にし見ゆる
仮名 あひだなく こふれにかあらむ くさまくら たびなるきみが いめにしみゆる
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 相聞 作者:佐伯東人妻 羈旅 恋情 別離 贈答 枕詞
訓異 あひだなく;ひまもなく, こふれにかあらむ;こふるにかあらむ, たびなるきみが;たひなるきみか, いめにしみゆる;ゆめにしみゆる, 
   
  04/0622
題詞 (西海道節度使判官佐伯宿祢東人妻贈夫君歌一首)佐伯宿祢東人和歌一首
題訓 佐伯宿禰東人が和ふる歌一首
原文 草枕 客尓久 成宿者 汝乎社念 莫戀吾妹
訓読 草枕旅に久しくなりぬれば汝をこそ思へな恋ひそ我妹
仮名 くさまくら たびにひさしく なりぬれば なをこそおもへ なこひそわぎも
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 相聞 作者:佐伯東人 和歌 羈旅 別離 慰姤 恋情 贈答 枕詞
訓異 たびにひさしく;たひにひさしく, なりぬれば;なりぬれは, なをこそおもへ;なれをこそおもへ, なこひそわぎも;なこひそわきも, 
   
  04/0623
題詞 池邊王宴誦歌一首
題訓 池邊王いけべのおほきみの宴に誦うたひたまへる歌一首
原文 松之葉尓 月者由移去 黄葉乃 過哉君之 不相夜多焉
訓読 松の葉に月はゆつりぬ黄葉の過ぐれや君が逢はぬ夜ぞ多き
仮名 まつのはに つきはゆつりぬ もみちばの すぐれやきみが あはぬよぞおほき
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 相聞 作者:池邊王 伝誦 転用 怨恨 宴席 枕詞 植物 誦詠
訓異 もみちばの;もみちはの, すぐれやきみが;すきぬやきみか, あはぬよぞおほき;あはぬよおほく, 
   
  04/0624
題詞 天皇思酒人女王御製歌一首 [女王者穂積皇子之孫女也]
題訓 天皇すめらみことの酒人女王さかひとのおほきみを思しぬはしてみよみませる御製歌おほみうた一首
原文 道相而 咲之柄尓 零雪乃 消者消香二 戀云君妹
訓読 道に逢ひて笑まししからに降る雪の消なば消ぬがに恋ふといふ我妹
仮名 みちにあひて ゑまししからに ふるゆきの けなばけぬがに こふといふわぎも
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 / 咲 [元][金][紀] 嘆
事項 相聞 作者:聖武天皇 酒人女王 難解
訓異 ゑまししからに;ゑみせしからに, けなばけぬがに;けなはけぬかに, こふといふわぎも;こふてふわきも, 
   
  04/0625
題詞 高安王褁鮒贈娘子歌一首 [高安王者後賜姓大原真人氏]
題訓 高安王の、裹つつめる鮒を娘子に贈りたまへる歌一首
原文 奥弊徃 邊去伊麻夜 為妹 吾漁有 藻臥束鮒
訓読 沖辺行き辺を行き今や妹がため我が漁れる藻臥束鮒
仮名 おきへゆき へをゆきいまや いもがため わがすなどれる もふしつかふな
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 弊 [元][紀] 幣
事項 相聞 作者:高安王 贈り物 動物
訓異 へをゆきいまや;へにゆきいまや, いもがため;いもかため, わがすなどれる;わかすなとれる, 
   
  04/0626
題詞 八代女王獻天皇歌一首
題訓 八代女王やしろのおほきみの天皇に献らせる歌一首
原文 君尓因 言之繁乎 古郷之 明日香乃河尓 潔身為尓去 [一尾云龍田超 三津之濱邊尓 潔身四二由久]
訓読 君により言の繁きを故郷の明日香の川にみそぎしに行く [一尾云龍田越え御津の浜辺にみそぎしに行く]
仮名 きみにより ことのしげきを ふるさとの あすかのかはに みそぎしにゆく [たつたこえ みつのはまべに みそぎしにゆく]
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 相聞 作者:八代女王 聖武天皇 尫柜蹋 飛鳥 地名
訓異 ことのしげきを;ことのしけきを, みそぎしにゆく;みそきにしゆく, みつのはまべに;みつのはまへに, みそぎしにゆく];みそきにしゆく, 
   
  04/0627
題詞 娘子報贈佐伯宿祢赤麻呂歌一首
題訓 娘子が佐伯宿禰赤麻呂に報贈こたふる歌一首
原文 吾手本 将巻跡念牟 大夫者 <變>水<f> 白髪生二有
訓読 我がたもとまかむと思はむ大夫は変若水求め白髪生ひにけり
仮名 わがたもと まかむとおもはむ ますらをは をちみづもとめ しらかおひにけり
左注 なし
校異 戀→變 [元] / 定→f [岩波大系]
事項 相聞 作者:娘子 佐伯赤麻呂 諧謔 贈答 戯笑
訓異 わがたもと;わかたもと, をちみづもとめ;なみたにしつみ, しらかおひにけり;しらかおひにたり, 
   
  04/0628
題詞 (娘子報贈佐伯宿祢赤麻呂歌一首)佐伯宿祢赤麻呂和歌一首
題訓 佐伯宿禰赤麻呂が和ふる歌一首
原文 白髪生流 事者不念 <變>水者 鹿煮藻闕二毛 求而将行
訓読 白髪生ふることは思はず変若水はかにもかくにも求めて行かむ
仮名 しらかおふる ことはおもはず をちみづは かにもかくにも もとめてゆかむ
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 / 戀→變 [新訓]
事項 相聞 作者:佐伯赤麻呂 娘子 和歌
訓異 ことはおもはず;ことはおもはす, をちみづは;なみたをは, もとめてゆかむ;さためてゆかむ, 
   
  04/0629
題詞 大伴四綱宴席歌一首
題訓 大伴四綱が宴席うたげの歌一首
原文 奈何鹿 使之来流 君乎社 左右裳 待難為礼
訓読 何すとか使の来つる君をこそかにもかくにも待ちかてにすれ
仮名 なにすとか つかひのきつる きみをこそ かにもかくにも まちかてにすれ
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 相聞 作者:大伴四綱 遅参 怨恨 宴席
訓異 なにすとか;なにしにか, かにもかくにも;とにもかくにも, 
   
  04/0630
題詞 佐伯宿祢赤麻呂歌一首
題訓 佐伯宿禰赤麻呂が娘子に贈れる歌一首
原文 初花之 可散物乎 人事乃 繁尓因而 止息比者鴨
訓読 初花の散るべきものを人言の繁きによりてよどむころかも
仮名 はつはなの ちるべきものを ひとごとの しげきによりて よどむころかも
左注 なし
校異 なし
事項 相聞 作者:佐伯赤麻呂 比喩 尫柜蹋 恋愛
訓異 ちるべきものを;ちるへきものを, ひとごとの;ひとことの, しげきによりて;しけきによりて, よどむころかも;とまるころかも, 
   
  04/0631
題詞 湯原王贈娘子歌二首 [志貴皇子之子也]
題訓 湯原王の娘子に贈りたまへる歌二首
原文 宇波弊無 物可聞人者 然許 遠家路乎 令還念者
訓読 うはへなきものかも人はしかばかり遠き家路を帰さく思へば
仮名 うはへなき ものかもひとは しかばかり とほきいへぢを かへさくおもへば
左注 なし
校異 歌 [西] 謌
事項 相聞 作者:湯原王 娘子 怨恨 贈答
訓異 しかばかり;しかはかり, とほきいへぢを;とほきいへちを, かへさくおもへば;かへすとおもへは, 
   
  04/0632
題詞 (湯原王贈娘子歌二首 [志貴皇子之子也])
原文 目二破見而 手二破不所取 月内之 楓如 妹乎奈何責
訓読 目には見て手には取らえぬ月の内の楓のごとき妹をいかにせむ
仮名 めにはみて てにはとらえぬ つきのうちの かつらのごとき いもをいかにせむ
左注 なし
校異 なし
事項 相聞 作者:湯原王 娘子 贈答 植物 恋情
訓異 てにはとらえぬ;てにはとられぬ, かつらのごとき;かつらのことき, 
   
  04/0633
題詞 (湯原王贈娘子歌二首 [志貴皇子之子也])娘子報贈歌二首
題訓 娘子が報贈こたふる歌二首
原文 幾許 思異目鴨 敷細之 枕片去 夢所見来之
訓読 ここだくも思ひけめかも敷栲の枕片さる夢に見え来し
仮名 ここだくも おもひけめかも しきたへの まくらかたさる いめにみえこし
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 相聞 娘子 作者:湯原王 恋情 贈答 枕詞 恋情
訓異 ここだくも;いくそはく, まくらかたさる;まくらかたさり, いめにみえこし;ゆめにみえこし, 
   
  04/0634
題詞 ((湯原王贈娘子歌二首 [志貴皇子之子也])娘子報贈歌二首)
原文 家二四手 雖見不飽乎 草枕 客毛妻与 有之乏左
訓読 家にして見れど飽かぬを草枕旅にも妻とあるが羨しさ
仮名 いへにして みれどあかぬを くさまくら たびにもつまと あるがともしさ
左注 なし
校異 なし
事項 相聞 作者:娘子 湯原王 揶揄 恋情 枕詞 贈答
訓異 みれどあかぬを;みれとあかぬを, たびにもつまと;たひにもつまと, あるがともしさ;あるかともしさ, 
   
  04/0635
題詞 湯原王亦贈歌二首
題訓 湯原王のまた贈たまへる歌二首
原文 草枕 客者嬬者 雖率有 匣内之 珠社所念
訓読 草枕旅には妻は率たれども櫛笥のうちの玉をこそ思へ
仮名 くさまくら たびにはつまは ゐたれども くしげのうちの たまをこそおもへ
左注 なし
校異 念 [紀] 見
事項 相聞 作者:湯原王 娘子 二重 曖昧 枕詞 贈答
訓異 たびにはつまは;たひにはいもは, ゐたれども;いたれとも, くしげのうちの;はこのうちなる, たまをこそおもへ;たまとこそおもへ, 
   
  04/0636
題詞 (湯原王亦贈歌二首)
原文 余衣 形見尓奉 布細之 枕不離 巻而左宿座
訓読 我が衣形見に奉る敷栲の枕を放けずまきてさ寝ませ
仮名 あがころも かたみにまつる しきたへの まくらをさけず まきてさねませ
左注 なし
校異 なし
事項 相聞 作者:湯原王 娘子 形見 枕詞 贈答
訓異 あがころも;わかきぬを, かたみにまつる;かたみにまたす, まくらをさけず;まくらからさす, 
   
  04/0637
題詞 娘子復報贈歌一首
題訓 娘子がまた報贈ふる歌一首
原文 吾背子之 形見之衣 嬬問尓 <余>身者不離 事不問友
訓読 我が背子が形見の衣妻どひに我が身は離けじ言とはずとも
仮名 わがせこが かたみのころも つまどひに あがみはさけじ こととはずとも
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / <>→余 [西(右書)][元][金][紀]
事項 相聞 作者:娘子 湯原王 形見 贈答
訓異 わがせこが;わかせこか, つまどひに;つまとひに, あがみはさけじ;わかみはさけし, こととはずとも;こととはすとも, 
   
  04/0638
題詞 湯原王亦贈歌一首
題訓 湯原王のまた贈へる歌一首
原文 直一夜 隔之可良尓 荒玉乃 月歟經去跡 心遮
訓読 ただ一夜隔てしからにあらたまの月か経ぬると心惑ひぬ
仮名 ただひとよ へだてしからに あらたまの つきかへぬると こころまどひぬ
左注 なし
校異 歌 [西] 謌
事項 相聞 作者:湯原王 娘子 恋情 枕詞 贈答
訓異 ただひとよ;たたひとよ, へだてしからに;へたてしからに, こころまどひぬ;おもほゆるかも, 
   
  04/0639
題詞 娘子復報贈歌一首
題訓 娘子がまた報贈ふる歌一首
原文 吾背子我 如是戀礼許曽 夜干玉能 夢所見管 寐不所宿家礼
訓読 我が背子がかく恋ふれこそぬばたまの夢に見えつつ寐ねらえずけれ
仮名 わがせこが かくこふれこそ ぬばたまの いめにみえつつ いねらえずけれ
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 相聞 作者:娘子 湯原王 夢 恋情 枕詞 贈答
訓異 わがせこが;わかせこか, ぬばたまの;ぬはたまの, いめにみえつつ;ゆめにみえつつ, いねらえずけれ;いねらえすけれ, 
   
  04/0640
題詞 湯原王亦贈歌一首
題訓 湯原王のまた贈へる歌一首
原文 波之家也思 不遠里乎 雲<居>尓也 戀管将居 月毛不經國
訓読 はしけやし間近き里を雲居にや恋ひつつ居らむ月も経なくに
仮名 はしけやし まちかきさとを くもゐにや こひつつをらむ つきもへなくに
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 / 井→居 [元][金][紀]
事項 相聞 作者:湯原王 娘子 恋情 贈答
訓異  
   
  04/0641
題詞 娘子復報贈<歌>一首
題訓 娘子がまた報贈ふる和歌うた一首
原文 絶常云者 和備染責跡 焼大刀乃 隔付經事者 幸也吾君
訓読 絶ゆと言はばわびしみせむと焼大刀のへつかふことは幸くや我が君
仮名 たゆといはば わびしみせむと やきたちの へつかふことは さきくやあがきみ
左注 なし
校異 和歌→歌 [元][金][紀] / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 相聞 作者:娘子 湯原王 怨恨 離別 枕詞
訓異 たゆといはば;たゆといへは, わびしみせむと;わひしみせむと, さきくやあがきみ;よしやわかきみ, 
   
  04/0642
題詞 湯原王歌一首
題訓 湯原王の歌一首
原文 吾妹兒尓 戀而乱<者> 久流部寸二 懸而縁与 余戀始
訓読 我妹子に恋ひて乱ればくるべきに懸けて寄せむと我が恋ひそめし
仮名 わぎもこに こひてみだれば くるべきに かけてよせむと あがこひそめし
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 在→者 [略解]
事項 相聞 作者:湯原王 娘子 恋情 枕詞
訓異 わぎもこに;わきもこに, こひてみだれば;こひてみたるる, くるべきに;くるへきに, かけてよせむと;かけてしよしと, あがこひそめし;わかこひそめし, 
   
  04/0643
題詞 紀郎女怨恨歌三首 [鹿人大夫之女名曰小鹿也安貴王之妻也]
題訓 紀郎女が怨恨うらみの歌三首
原文 世間之 女尓思有者 吾渡 痛背乃河乎 渡金目八
訓読 世の中の女にしあらば我が渡る痛背の川を渡りかねめや
仮名 よのなかの をみなにしあらば わがわたる あなせのかはを わたりかねめや
左注 なし
校異 歌 [西] 謌
事項 相聞 作者:紀郎女 河渡り 怨恨
訓異 をみなにしあらば;をとめにしあらは, わがわたる;わかわたる, 
   
  04/0644
題詞 (紀郎女怨恨歌三首 [鹿人大夫之女名曰小鹿也安貴王之妻也])
原文 今者吾羽 和備曽四二結類 氣乃緒尓 念師君乎 縦左<久>思者
訓読 今は我はわびぞしにける息の緒に思ひし君をゆるさく思へば
仮名 いまはわは わびぞしにける いきのをに おもひしきみを ゆるさくおもへば
左注 なし
校異 <>→久 [元][金][紀]
事項 相聞 作者:紀郎女 怨恨 離別
訓異 いまはわは;いまはわれは, わびぞしにける;わひそしにける, ゆるさくおもへば;ゆるさくおもへは, 
   
  04/0645
題詞 (紀郎女怨恨歌三首 [鹿人大夫之女名曰小鹿也安貴王之妻也])
原文 白<細乃> 袖可別 日乎近見 心尓咽飯 哭耳四所泣
訓読 白栲の袖別るべき日を近み心にむせひ音のみし泣かゆ
仮名 しろたへの そでわかるべき ひをちかみ こころにむせひ ねのみしなかゆ
左注 なし
校異 妙之→細乃 [元][金][紀]
事項 相聞 作者:紀郎女 離別 枕詞
訓異 そでわかるべき;そてわかるへき, ねのみしなかゆ;ねのみしなかる, 
   
  04/0646
題詞 大伴宿祢駿河麻呂歌一首
題訓 大伴宿禰駿河麻呂が歌一首
原文 大夫之 思和備乍 遍多 嘆久嘆乎 不負物可聞
訓読 ますらをの思ひわびつつたびまねく嘆く嘆きを負はぬものかも
仮名 ますらをの おもひわびつつ たびまねく なげくなげきを おはぬものかも
左注 なし
校異 なし
事項 相聞 作者:大伴駿河麻呂 恋情
訓異 おもひわびつつ;おもひわひつつ, たびまねく;あまたたひ, なげくなげきを;なけくなけきを, 
   
  04/0647
題詞 大伴坂上郎女歌一首
題訓 大伴坂上郎女が歌一首
原文 心者 忘日無久 雖念 人之事社 繁君尓阿礼
訓読 心には忘るる日なく思へども人の言こそ繁き君にあれ
仮名 こころには わするるひなく おもへども ひとのことこそ しげききみにあれ
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正復旧)] 歌
事項 相聞 作者:坂上郎女 遊戯的 尫柜蹋
訓異 おもへども;おもへとも, しげききみにあれ;しけききみにあれ, 
   
  04/0648
題詞 大伴宿祢駿河麻呂歌一首
題訓 大伴宿禰駿河麻呂が歌一首
原文 不相見而 氣長久成奴 比日者 奈何好去哉 言借吾妹
訓読 相見ずて日長くなりぬこの頃はいかに幸くやいふかし我妹
仮名 あひみずて けながくなりぬ このころは いかにさきくや いふかしわぎも
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正復旧)] 歌
事項 相聞 作者:大伴駿河麻呂
訓異 あひみずて;あひみすて, けながくなりぬ;けなかくなりぬ, いかにさきくや;いかによしゆきや, いふかしわぎも;いふかかしわきも, 
   
  04/0649
題詞 大伴坂上郎女歌一首
題訓 大伴坂上郎女が歌一首
原文 夏葛之 不絶使乃 不通<有>者 言下有如 念鶴鴨
訓読 夏葛の絶えぬ使のよどめれば事しもあるごと思ひつるかも
仮名 なつくずの たえぬつかひの よどめれば ことしもあるごと おもひつるかも
左注 右坂上郎女者佐保大納言卿之女也 駿河麻呂此高市大卿之孫也 兩卿兄弟之家 女孫姑姪之族 是以題歌送答相問起居
左注訓 右、坂上郎女ハ、佐保大納言卿ノ女ナリ。 駿河麻呂ハ、此ノ高市大卿ノ孫ナリ。両卿 ハ兄弟ノ家、女孫姑姪ノ族ナリ。是ヲ以テ 歌ヲ題シ送リ答ヘ、起居ヲ相問フ。
校異 歌 [西] 謌 / <>→有 [元][金][紀] / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 相聞 作者:坂上郎女 停滞 使媿 不安 枕詞 植物
訓異 なつくずの;なつくすの, よどめれば;かよはねは, ことしもあるごと;ことしもあること, 
   
  04/0650
題詞 大伴宿祢三依離復相歡歌一首
題訓 大伴宿禰三依が離わかれてまた相あへるを歓ぶ歌一首
原文 吾妹兒者 常世國尓 住家<良>思 昔見従 變若益尓家利
訓読 我妹子は常世の国に住みけらし昔見しより変若ましにけり
仮名 わぎもこは とこよのくにに すみけらし むかしみしより をちましにけり
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正復旧)] 歌 / 郎→良 [元][金][紀]
事項 相聞 作者:大伴三依 恋愛
訓異 わぎもこは;わきもこは, をちましにけり;わかへましにけり, 
   
  04/0651
題詞 大伴坂上郎女歌二首
題訓 大伴坂上郎女が歌二首
原文 久堅乃 天露霜 置二家里 宅有人毛 待戀奴濫
訓読 ひさかたの天の露霜置きにけり家なる人も待ち恋ひぬらむ
仮名 ひさかたの あめのつゆしも おきにけり いへなるひとも まちこひぬらむ
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 相聞 作者:坂上郎女 枕詞
訓異 あめのつゆしも;あまのつゆしも, いへなるひとも;いへにあるひとも, 
   
  04/0652
題詞 (大伴坂上郎女歌二首)
原文 玉主尓 珠者授而 勝且毛 枕与吾者 率二将宿
訓読 玉守に玉は授けてかつがつも枕と我れはいざふたり寝む
仮名 たまもりに たまはさづけて かつがつも まくらとわれは いざふたりねむ
左注 なし
校異 なし
事項 相聞 作者:坂上郎女 比喩 諦念
訓異 たまはさづけて;たまはさつけて, かつがつも;かつかつも, いざふたりねむ;いさふたりねむ, 
   
  04/0653
題詞 大伴宿祢駿河麻呂歌三首
題訓 大伴宿禰駿河麻呂が歌三首
原文 情者 不忘物乎 <儻> 不見日數多 月曽經去来
訓読 心には忘れぬものをたまさかに見ぬ日さまねく月ぞ経にける
仮名 こころには わすれぬものを たまさかに みぬひさまねく つきぞへにける
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 儻 [西(訂正)][元][紀]
事項 相聞 作者:大伴駿河麻呂 弁解
訓異 たまさかに;たまたまも, みぬひさまねく;みぬひかすおほく, つきぞへにける;つきそへにける, 
   
  04/0654
題詞 (大伴宿祢駿河麻呂歌三首)
原文 相見者 月毛不經尓 戀云者 乎曽呂登吾乎 於毛保寒毳
訓読 相見ては月も経なくに恋ふと言はばをそろと我れを思ほさむかも
仮名 あひみては つきもへなくに こふといはば をそろとわれを おもほさむかも
左注 なし
校異 なし
事項 相聞 作者:大伴駿河麻呂 恋愛
訓異 こふといはば;こふといへは, 
   
  04/0655
題詞 (大伴宿祢駿河麻呂歌三首)
原文 不念乎 思常云者 天地之 神祇毛知寒 邑礼左變
訓読 思はぬを思ふと言はば天地の神も知らさむ邑礼左変
仮名 おもはぬを おもふといはば あめつちの かみもしらさむ ****
左注 なし
校異 なし
事項 相聞 作者:大伴駿河麻呂 難訓 恋愛
訓異 おもふといはば;おもふといはは, かみもしらさむ;かみもしるかに, ;さとれてかはり, 
   
  04/0656
題詞 大伴坂上郎女歌六首
題訓 大伴坂上郎女が歌六首
原文 吾耳曽 君尓者戀流 吾背子之 戀云事波 言乃名具左曽
訓読 我れのみぞ君には恋ふる我が背子が恋ふといふことは言のなぐさぞ
仮名 あれのみぞ きみにはこふる わがせこが こふといふことは ことのなぐさぞ
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正復旧)] 歌
事項 相聞 作者:坂上郎女 恋情
訓異 あれのみぞ;われのみそ, わがせこが;わかせこか, ことのなぐさぞ;ことのなくせそ, 
   
  04/0657
題詞 (大伴坂上郎女歌六首)
原文 不念常 日手師物乎 翼酢色之 變安寸 吾意可聞
訓読 思はじと言ひてしものをはねず色のうつろひやすき我が心かも
仮名 おもはじと いひてしものを はねずいろの うつろひやすき あがこころかも
左注 なし
校異 なし
事項 相聞 作者:坂上郎女 煩悶 植物 枕詞
訓異 おもはじと;おもはしと, はねずいろの;はねすいろの, あがこころかも;わかこころかも, 
   
  04/0658
題詞 (大伴坂上郎女歌六首)
原文 雖念 知僧裳無跡 知物乎 奈何幾許 吾戀渡
訓読 思へども験もなしと知るものを何かここだく我が恋ひわたる
仮名 おもへども しるしもなしと しるものを なにかここだく あがこひわたる
左注 なし
校異 なし
事項 相聞 作者:坂上郎女 恋情
訓異 おもへども;おもへとも, なにかここだく;なそかくはかり, あがこひわたる;わかこひわたる, 
   
  04/0659
題詞 (大伴坂上郎女歌六首)
原文 豫 人事繁 如是有者 四恵也吾背子 奥裳何如荒海藻
訓読 あらかじめ人言繁しかくしあらばしゑや我が背子奥もいかにあらめ
仮名 あらかじめ ひとごとしげし かくしあらば しゑやわがせこ おくもいかにあらめ
左注 なし
校異 なし
事項 相聞 作者:坂上郎女 尫柜蹋
訓異 あらかじめ;かねてより, ひとごとしげし;ひとことしけく, かくしあらば;かくしあらは, しゑやわがせこ;しゑやわかせこ, おくもいかにあらめ;おきもいかかあらも, 
   
  04/0660
題詞 (大伴坂上郎女歌六首)
原文 汝乎与吾乎 人曽離奈流 乞吾君 人之中言 聞起名湯目
訓読 汝をと我を人ぞ離くなるいで我が君人の中言聞きこすなゆめ
仮名 なをとあを ひとぞさくなる いであがきみ ひとのなかごと ききこすなゆめ
左注 なし
校異 なし
事項 相聞 作者:坂上郎女 尫柜蹋
訓異 なをとあを;なをとわを, ひとぞさくなる;ひとそさくなる, いであがきみ;いてわきみ, ひとのなかごと;ひとのなかこと, ききこすなゆめ;ききたつなゆめ, 
   
  04/0661
題詞 (大伴坂上郎女歌六首)
原文 戀々而 相有時谷 愛寸 事盡手四 長常念者
訓読 恋ひ恋ひて逢へる時だにうるはしき言尽してよ長くと思はば
仮名 こひこひて あへるときだに うるはしき ことつくしてよ ながくとおもはば
左注 なし
校異 なし
事項 相聞 作者:坂上郎女 恋情
訓異 あへるときだに;あへるときたに, うるはしき;うつくしき, ながくとおもはば;なかくとおもはは, 
   
  04/0662
題詞 市原王歌一首
題訓 市原王の歌一首
原文 網兒之山 五百重隠有 佐堤乃埼 左手蝿師子之 夢二四所見
訓読 網児の山五百重隠せる佐堤の崎さで延へし子が夢にし見ゆる
仮名 あごのやま いほへかくせる さでのさき さではへしこが いめにしみゆる
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 相聞 作者:市原王 恋情 地名 三重県 夢
訓異 あごのやま;あこのやま, さでのさき;さてのさき, さではへしこが;さてはへしこの, いめにしみゆる;ゆめにしみゆる, 
   
  04/0663
題詞 安<都>宿祢年足歌一首
題訓 安都宿禰年足あとのすくねとしたりが歌一首
原文 佐穂度 吾家之上二 鳴鳥之 音夏可思吉 愛妻之兒
訓読 佐保渡り我家の上に鳴く鳥の声なつかしきはしき妻の子
仮名 さほわたり わぎへのうへに なくとりの こゑなつかしき はしきつまのこ
左注 なし
校異 部→都 [元] / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 相聞 作者:安都年足 恋情 奈良 地名 動物 序詞
訓異 わぎへのうへに;わきへのうへに, はしきつまのこ;おもひつまのこ, 
   
  04/0664
題詞 大伴宿祢像見歌一首
題訓 大伴宿禰像見かたみが歌一首
原文 石上 零十方雨二 将關哉 妹似相武登 言義之鬼尾
訓読 石上降るとも雨につつまめや妹に逢はむと言ひてしものを
仮名 いそのかみ ふるともあめに つつまめや いもにあはむと いひてしものを
左注 なし
校異 なし
事項 相聞 作者:大伴像見 枕詞 恋情
訓異 つつまめや;さはらめや, いひてしものを;ちきりしものを, 
   
  04/0665
題詞 安倍朝臣蟲麻呂歌一首
題訓 安倍朝臣蟲麻呂が歌一首
原文 向座而 雖見不飽 吾妹子二 立離徃六 田付不知毛
訓読 向ひ居て見れども飽かぬ我妹子に立ち別れ行かむたづき知らずも
仮名 むかひゐて みれどもあかぬ わぎもこに たちわかれゆかむ たづきしらずも
左注 なし
校異 倍 [元] 陪 / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 相聞 作者:安倍蟲麻呂
訓異 みれどもあかぬ;みれともあかぬ, わぎもこに;わきもこに, たづきしらずも;たつきしらすも, 
   
  04/0666
題詞 大伴坂上郎女歌二首
題訓 大伴坂上郎女が歌二首
原文 不相見者 幾久毛 不有國 幾許吾者 戀乍裳荒鹿
訓読 相見ぬは幾久さにもあらなくにここだく我れは恋ひつつもあるか
仮名 あひみぬは いくひささにも あらなくに ここだくあれは こひつつもあるか
左注 (右大伴坂上郎女之母石川内命婦与安<陪>朝臣蟲満之母安曇外命婦同居姉妹 同氣之親焉 縁此郎女蟲満相見不踈相談既密 聊作戯歌以為問答也)
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 相聞 作者:坂上郎女 恋情
訓異 あひみぬは;あひみては, いくひささにも;いくひさしさも, ここだくあれは;ここはくわれは, 
   
  04/0667
題詞 (大伴坂上郎女歌二首)
原文 戀々而 相有物乎 月四有者 夜波隠良武 須臾羽蟻待
訓読 恋ひ恋ひて逢ひたるものを月しあれば夜は隠るらむしましはあり待て
仮名 こひこひて あひたるものを つきしあれば よはこもるらむ しましはありまて
左注 右大伴坂上郎女之母石川内命婦与安<陪>朝臣蟲満之母安曇外命婦同居姉妹 同氣之親焉 縁此郎女蟲満相見不踈相談既密 聊作戯歌以為問答也
左注訓 右、大伴坂上郎女ガ母石川内命婦ト、安倍朝臣 蟲滿ガ母安曇外命婦トハ、同居ノ姉妹、同気ノ 親ハラカラナリ。此ニ縁テ郎女ト蟲滿ト、相見ルコト 踈カラズ、相談ラフコト既ニ密ナリ。聊カ戯歌 ヲ作ミテ以テ問答ヲ為ス。
校異 部→陪 [元][類] 部 [紀][温][矢]
事項 相聞 作者:坂上郎女 引翮留姤
訓異 つきしあれば;つきしあれは, しましはありまて;しはしはありまて, 
   
  04/0668
題詞 厚見王歌一首
題訓 厚見王の歌一首
原文 朝尓日尓 色付山乃 白雲之 可思過 君尓不有國
訓読 朝に日に色づく山の白雲の思ひ過ぐべき君にあらなくに
仮名 あさにけに いろづくやまの しらくもの おもひすぐべき きみにあらなくに
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正復旧)] 歌
事項 相聞 作者:厚見王 恋情
訓異 あさにけに;あさにひに, いろづくやまの;いろつくやまの, おもひすぐべき;おもひすくへき, 
   
  04/0669
題詞 春日王歌一首 [志貴皇子之子母曰多紀皇女也]
題訓 春日王の歌一首
原文 足引之 山橘乃 色丹出<与> 語言継而 相事毛将有
訓読 あしひきの山橘の色に出でよ語らひ継ぎて逢ふこともあらむ
仮名 あしひきの やまたちばなの いろにいでよ かたらひつぎて あふこともあらむ
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 / 而→与 [元][類][紀]
事項 相聞 作者:春日王 植物 序詞 尫柜蹋
訓異 やまたちばなの;やまたちはなの, いろにいでよ;いろにいてて, かたらひつぎて;かたらひつきて, 
   
  04/0670
題詞 湯原王歌一首
題訓 娘子が湯原王に贈れる歌一首(原文ママ)
原文 月讀之 光二来益 足疾乃 山<寸>隔而 不遠國
訓読 月読の光りに来ませあしひきの山きへなりて遠からなくに
仮名 つくよみの ひかりにきませ あしひきの やまきへなりて とほからなくに
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 乎→寸 [元][類][紀]
事項 相聞 作者:湯原王 勧誘
訓異 つくよみの;つきよみの, やまきへなりて;やまをへたてて, 
   
  04/0671
題詞 (湯原王歌一首)和歌一首 [不審作者]
題訓 湯原王の和へたまへる歌一首(原文ママ)
原文 月讀之 光者清 雖照有 惑情 不堪念
訓読 月読の光りは清く照らせれど惑へる心思ひあへなくに
仮名 つくよみの ひかりはきよく てらせれど まとへるこころ おもひあへなくに
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 惑 [紀] 或
事項 相聞 湯原王
訓異 つくよみの;つきよみの, てらせれど;てらせとも, まとへるこころ;まとふこころは, おもひあへなくに;たへすおもほゆ, 
   
  04/0672
題詞 安倍朝臣蟲麻呂歌一首
題訓 安倍朝臣蟲麻呂が歌一首
原文 倭文手纒 數二毛不有 壽持 奈何幾許 吾戀渡
訓読 しつたまき数にもあらぬ命もて何かここだく我が恋ひわたる
仮名 しつたまき かずにもあらぬ いのちもて なにかここだく あがこひわたる
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 相聞 作者:安倍蟲麻呂 恋情 枕詞
訓異 かずにもあらぬ;かすにもあらぬ, なにかここだく;なそかくはかり, あがこひわたる;わかこひわたる, 
   
  04/0673
題詞 大伴坂上郎女歌二首
題訓 大伴坂上郎女が歌二首
原文 真十鏡 磨師心乎 縦者 後尓雖云 驗将在八方
訓読 まそ鏡磨ぎし心をゆるしてば後に言ふとも験あらめやも
仮名 まそかがみ とぎしこころを ゆるしてば のちにいふとも しるしあらめやも
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 相聞 作者:坂上郎女 枕詞 後悔
訓異 まそかがみ;まそかかみ, とぎしこころを;ときしこころを, ゆるしてば;ゆるしては, 
   
  04/0674
題詞 (大伴坂上郎女歌二首)
原文 真玉付 彼此兼手 言齒五十戸<常> 相而後社 悔二破有跡五十戸
訓読 真玉つくをちこち兼ねて言は言へど逢ひて後こそ悔にはありといへ
仮名 またまつく をちこちかねて ことはいへど あひてのちこそ くいにはありといへ
左注 なし
校異 當→常 [桂][元][類][紀]
事項 相聞 作者:坂上郎女 後悔 枕詞
訓異 ことはいへど;いひはいへと, 
   
  04/0675
題詞 中臣女郎贈大伴宿祢家持歌五首
題訓 中臣女郎が大伴宿禰家持に贈れる歌五首
原文 娘子部四 咲澤二生流 花勝見 都毛不知 戀裳摺可聞
訓読 をみなへし佐紀沢に生ふる花かつみかつても知らぬ恋もするかも
仮名 をみなへし さきさはにおふる はなかつみ かつてもしらぬ こひもするかも
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 / 摺 [桂][類](塙) 揩 / 可 [元][類][紀] 香
事項 相聞 作者:中臣女郎 大伴家持 恋情 植物 奈良 地名 序詞 贈答
訓異 さきさはにおふる;さくさはにおふる, 
   
  04/0676
題詞 (中臣女郎贈大伴宿祢家持歌五首)
原文 海底 奥乎深目手 吾念有 君二波将相 年者經十方
訓読 海の底奥を深めて我が思へる君には逢はむ年は経ぬとも
仮名 わたのそこ おくをふかめて あがおもへる きみにはあはむ としはへぬとも
左注 なし
校異 なし
事項 相聞 作者:中臣女郎 大伴家持 恋情 枕詞 贈答
訓異 わたのそこ;わたつみの, おくをふかめて;おきをふかめて, あがおもへる;わかおもへる, 
   
  04/0677
題詞 (中臣女郎贈大伴宿祢家持歌五首)
原文 春日山 朝居雲乃 欝 不知人尓毛 戀物香聞
訓読 春日山朝居る雲のおほほしく知らぬ人にも恋ふるものかも
仮名 かすがやま あさゐるくもの おほほしく しらぬひとにも こふるものかも
左注 なし
校異 なし
事項 相聞 作者:中臣女郎 大伴家持 恨牫 奈良 地名 序詞 贈答
訓異 かすがやま;かすかやま, 
   
  04/0678
題詞 (中臣女郎贈大伴宿祢家持歌五首)
原文 直相而 見而者耳社 霊剋 命向 吾戀止眼
訓読 直に逢ひて見てばのみこそたまきはる命に向ふ我が恋やまめ
仮名 ただにあひて みてばのみこそ たまきはる いのちにむかふ あがこひやまめ
左注 なし
校異 なし
事項 相聞 作者:中臣女郎 大伴家持 枕詞 贈答
訓異 ただにあひて;たたにあひて, みてばのみこそ;みてはのみこそ, あがこひやまめ;わかこひやまめ, 
   
  04/0679
題詞 (中臣女郎贈大伴宿祢家持歌五首)
原文 不欲常云者 将強哉吾背 菅根之 念乱而 戀管母将有
訓読 いなと言はば強ひめや我が背菅の根の思ひ乱れて恋ひつつもあらむ
仮名 いなといはば しひめやわがせ すがのねの おもひみだれて こひつつもあらむ
左注 なし
校異 なし
事項 相聞 作者:中臣女郎 大伴家持 恋情 枕詞 植物 贈答
訓異 いなといはば;いなといはは, しひめやわがせ;しひむやわかせ, すがのねの;すかのねの, おもひみだれて;おもひみたれて, 
   
  04/0680
題詞 大伴宿祢家持与交遊別歌三首
題訓 大伴宿禰家持が交遊ともと久しく別るる歌三首
原文 盖毛 人之中言 聞可毛 幾許雖待 君之不来益
訓読 けだしくも人の中言聞かせかもここだく待てど君が来まさぬ
仮名 けだしくも ひとのなかごと きかせかも ここだくまてど きみがきまさぬ
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 相聞 作者:大伴家持 交遊 怨恨 尫柜蹋
訓異 けだしくも;けたしくも, ひとのなかごと;ひとのなかこと, きかせかも;きけるかも, ここだくまてど;ここたくまてと, きみがきまさぬ;きみかきまさぬ, 
   
  04/0681
題詞 (大伴宿祢家持与交遊別歌三首)
原文 中々尓 絶年云者 如此許 氣緒尓四而 吾将戀八方
訓読 なかなかに絶ゆとし言はばかくばかり息の緒にして我れ恋ひめやも
仮名 なかなかに たゆとしいはば かくばかり いきのをにして あれこひめやも
左注 なし
校異 なし
事項 相聞 作者:大伴家持 交遊 恋情
訓異 たゆとしいはば;たへてとしいはは, かくばかり;かくはかり, あれこひめやも;わかこひめやも, 
   
  04/0682
題詞 (大伴宿祢家持与交遊別歌三首)
原文 将念 人尓有莫國 懃 情盡而 戀流吾毳
訓読 思ふらむ人にあらなくにねもころに心尽して恋ふる我れかも
仮名 おもふらむ ひとにあらなくに ねもころに こころつくして こふるあれかも
左注 なし
校異 なし
事項 相聞 作者:大伴家持 交遊 恋情
訓異 おもふらむ;おもひなむ, こふるあれかも;こふるわれかも, 
   
  04/0683
題詞 大伴坂上郎女歌七首
題訓 大伴坂上郎女が歌七首
原文 謂言之 恐國曽 紅之 色莫出曽 念死友
訓読 言ふ言の畏き国ぞ紅の色にな出でそ思ひ死ぬとも
仮名 いふことの かしこきくにぞ くれなゐの いろにないでそ おもひしぬとも
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 相聞 作者:坂上郎女 尫柜蹋 枕詞
訓異 かしこきくにぞ;さかなきくにそ, いろにないでそ;いろにないてそ, 
   
  04/0684
題詞 (大伴坂上郎女歌七首)
原文 今者吾波 将死与吾背 生十方 吾二可縁跡 言跡云莫苦荷
訓読 今は我は死なむよ我が背生けりとも我れに依るべしと言ふといはなくに
仮名 いまはわは しなむよわがせ いけりとも われによるべしと いふといはなくに
左注 なし
校異 なし
事項 相聞 作者:坂上郎女 怨恨
訓異 いまはわは;いまはわれは, しなむよわがせ;しなむよわかせ, われによるべしと;われによるへしと, 
   
  04/0685
題詞 (大伴坂上郎女歌七首)
原文 人事 繁哉君<之> 二鞘之 家乎隔而 戀乍将座
訓読 人言を繁みか君が二鞘の家を隔てて恋ひつつまさむ
仮名 ひとごとを しげみかきみが ふたさやの いへをへだてて こひつつまさむ
左注 なし
校異 乎→之 [元]
事項 相聞 作者:坂上郎女 尫柜蹋 恋情
訓異 ひとごとを;ひとことを, しげみかきみが;しけみやきみを, いへをへだてて;いへをへたてて, こひつつまさむ;こひつつをらむ, 
   
  04/0686
題詞 (大伴坂上郎女歌七首)
原文 比者 千歳八徃裳 過与 吾哉然念 欲見鴨
訓読 このころは千年や行きも過ぎぬると我れやしか思ふ見まく欲りかも
仮名 このころは ちとせやゆきも すぎぬると われかしかおもふ みまくほりかも
左注 なし
校異 なし
事項 相聞 作者:坂上郎女 恋情
訓異 このころは;このころに, すぎぬると;すきぬると, われかしかおもふ;われやしかおもふ, 
   
  04/0687
題詞 (大伴坂上郎女歌七首)
原文 愛常 吾念情 速河之 雖塞々友 猶哉将崩
訓読 うるはしと我が思ふ心速川の塞きに塞くともなほや崩えなむ
仮名 うるはしと あがもふこころ はやかはの せきにせくとも なほやくえなむ
左注 なし
校異 なし
事項 相聞 作者:坂上郎女 恋情
訓異 うるはしと;うつくしと, あがもふこころ;わかおもふこころ, せきにせくとも;せくとせくとも, なほやくえなむ;なほやくつれむ, 
   
  04/0688
題詞 (大伴坂上郎女歌七首)
原文 青山乎 横g雲之 灼然 吾共咲為而 人二所知名
訓読 青山を横ぎる雲のいちしろく我れと笑まして人に知らゆな
仮名 あをやまを よこぎるくもの いちしろく われとゑまして ひとにしらゆな
左注 なし
校異 なし
事項 相聞 作者:坂上郎女 尫柜蹋 序詞
訓異 よこぎるくもの;よこきるくもの, われとゑまして;われとゑみして, ひとにしらゆな;ひとにしらるな, 
   
  04/0689
題詞 (大伴坂上郎女歌七首)
原文 海山毛 隔莫國 奈何鴨 目言乎谷裳 幾許乏寸
訓読 海山も隔たらなくに何しかも目言をだにもここだ乏しき
仮名 うみやまも へだたらなくに なにしかも めごとをだにも ここだともしき
左注 なし
校異 なし
事項 相聞 作者:坂上郎女 恋情
訓異 へだたらなくに;へたたらなくに, めごとをだにも;みることをたにも, ここだともしき;ここたともしき, 
   
  04/0690
題詞 大伴宿祢三依悲別歌一首
題訓 大伴宿禰三依が悲別わかれの歌一首
原文 照<月>乎 闇尓見成而 哭涙 衣<沾>津 干人無二
訓読 照る月を闇に見なして泣く涙衣濡らしつ干す人なしに
仮名 てるつきを やみにみなして なくなみだ ころもぬらしつ ほすひとなしに
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 日→月 [略解(宣長説)] / 沽→沾 [紀][温][京]
事項 相聞 作者:大伴三依 離別 悲別
訓異 てるつきを;てれるひを, なくなみだ;なくなみた, 
   
  04/0691
題詞 大伴宿祢家持贈娘子歌二首
題訓 大伴宿禰家持が娘子に贈れる歌二首
原文 百礒城之 大宮人者 雖多有 情尓乗而 所念妹
訓読 ももしきの大宮人は多かれど心に乗りて思ほゆる妹
仮名 ももしきの おほみやひとは おほかれど こころにのりて おもほゆるいも
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 相聞 作者:大伴家持 娘子 恋情 枕詞 贈答
訓異 おほかれど;おほかれと, 
   
  04/0692
題詞 (大伴宿祢家持贈娘子歌二首)
原文 得羽重無 妹二毛有鴨 如此許 人情乎 令盡念者
訓読 うはへなき妹にもあるかもかくばかり人の心を尽さく思へば
仮名 うはへなき いもにもあるかも かくばかり ひとのこころを つくさくおもへば
左注 なし
校異 なし
事項 相聞 作者:大伴家持 娘子 怨恨 贈答
訓異 かくばかり;かくはかり, つくさくおもへば;つくすとおもへは, 
   
  04/0693
題詞 大伴宿祢千室歌一首 [未詳]
題訓 大伴宿禰千室ちむろが歌一首
原文 如此耳 戀哉将度 秋津野尓 多奈引雲能 過跡者無二
訓読 かくのみし恋ひやわたらむ秋津野にたなびく雲の過ぐとはなしに
仮名 かくのみし こひやわたらむ あきづのに たなびくくもの すぐとはなしに
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 相聞 作者:大伴千室 和歌山 吉野 地名 序詞 恋情
訓異 かくのみし;かくしのみ, あきづのに;あきつのに, たなびくくもの;たなひくくもの, すぐとはなしに;すくとはなしに, 
   
  04/0694
題詞 廣河女王歌二首 [穂積皇子之孫女上道王之女也]
題訓 廣河女王の歌二首
原文 戀草呼 力車二 七車 積而戀良苦 吾心柄
訓読 恋草を力車に七車積みて恋ふらく我が心から
仮名 こひくさを ちからくるまに ななくるま つみてこふらく わがこころから
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 相聞 作者:廣河女王 恋情 比喩
訓異 わがこころから;わかこころから, 
   
  04/0695
題詞 (廣河女王歌二首 [穂積皇子之孫女上道王之女也])
原文 戀者今葉 不有常吾羽 念乎 何處戀其 附見繋有
訓読 恋は今はあらじと我れは思へるをいづくの恋ぞつかみかかれる
仮名 こひはいまは あらじとわれは おもへるを いづくのこひぞ つかみかかれる
左注 なし
校異 なし
事項 相聞 作者:廣河女王 自嘲
訓異 あらじとわれは;あらしとわれは, おもへるを;おもひしを, いづくのこひぞ;いつこのこひそ, 
   
  04/0696
題詞 石川朝臣廣成歌一首 [後賜<姓>高圓朝臣氏也]
題訓 石川朝臣廣成が歌一首
原文 家人尓 戀過目八方 川津鳴 泉之里尓 年之歴去者
訓読 家人に恋過ぎめやもかはづ鳴く泉の里に年の経ぬれば
仮名 いへびとに こひすぎめやも かはづなく いづみのさとに としのへぬれば
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / <>→姓 [西(右書)][紀][古]
事項 相聞 作者:石川廣成 京都 地名 恋情
訓異 いへびとに;いへひとに, こひすぎめやも;こひすきめやも, かはづなく;かはつなく, いづみのさとに;いつみのさとに, としのへぬれば;としのへゆけは, 
   
  04/0697
題詞 大伴宿祢像見歌三首
題訓 大伴宿禰像見が歌三首
原文 吾聞尓 繋莫言 苅薦之 乱而念 君之直香曽
訓読 我が聞きに懸けてな言ひそ刈り薦の乱れて思ふ君が直香ぞ
仮名 わがききに かけてないひそ かりこもの みだれておもふ きみがただかぞ
左注 なし
校異 歌 [西] 謌
事項 相聞 作者:大伴像見 恋情 枕詞
訓異 わがききに;わかきに, みだれておもふ;みたれておもふ, きみがただかぞ;きみかたたかそ, 
   
  04/0698
題詞 (大伴宿祢像見歌三首)
原文 春日野尓 朝居雲之 敷布二 吾者戀益 月二日二異二
訓読 春日野に朝居る雲のしくしくに我れは恋ひ増す月に日に異に
仮名 かすがのに あさゐるくもの しくしくに あれはこひます つきにひにけに
左注 なし
校異 なし
事項 相聞 作者:大伴像見 恋情 奈良 地名 序詞
訓異 かすがのに;かすかのに, あれはこひます;われはこひます, 
   
  04/0699
題詞 (大伴宿祢像見歌三首)
原文 一瀬二波 千遍障良比 逝水之 後毛将相 今尓不有十方
訓読 一瀬には千たび障らひ行く水の後にも逢はむ今にあらずとも
仮名 ひとせには ちたびさはらひ ゆくみづの のちにもあはむ いまにあらずとも
左注 なし
校異 なし
事項 相聞 作者:大伴像見 序詞 恋愛
訓異 ちたびさはらひ;ちたひさはらひ, ゆくみづの;ゆくみつの, のちにもあはむ;のちもあはなむ, いまにあらずとも;いまにあらすとも, 
   
  04/0700
題詞 大伴宿祢家持到娘子之門作歌一首
題訓 大伴宿禰家持が娘子の門に到りてよめる歌一首
原文 如此為而哉 猶八将退 不近 道之間乎 煩参来而
訓読 かくしてやなほや罷らむ近からぬ道の間をなづみ参ゐ来て
仮名 かくしてや なほやまからむ ちかからぬ みちのあひだを なづみまゐきて
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 相聞 作者:大伴家持 娘子 怨恨
訓異 なほやまからむ;なほやかへらむ, みちのあひだを;みちのあひたを, なづみまゐきて;なつみまいりて, 
   
  04/0701
題詞 河内百枝娘子贈大伴宿祢家持歌二首
題訓 河内百枝娘子かふちのももえをとめが大伴宿禰家持に贈れる歌二首
原文 波都波都尓 人乎相見而 何将有 何日二箇 又外二将見
訓読 はつはつに人を相見ていかにあらむいづれの日にかまた外に見む
仮名 はつはつに ひとをあひみて いかにあらむ いづれのひにか またよそにみむ
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 相聞 作者:河内百枝娘子 大伴家持 恋情
訓異 いかにあらむ;いかならむ, いづれのひにか;いつれのひにか, 
   
  04/0702
題詞 (河内百枝娘子贈大伴宿祢家持歌二首)
原文 夜干玉之 其夜乃月夜 至于今日 吾者不忘 無間苦思念者
訓読 ぬばたまのその夜の月夜今日までに我れは忘れず間なくし思へば
仮名 ぬばたまの そのよのつくよ けふまでに われはわすれず まなくしおもへば
左注 なし
校異 なし
事項 相聞 作者:河内百枝娘子 大伴家持 恋情 枕詞
訓異 ぬばたまの;ぬはたまの, そのよのつくよ;そのよのつきよ, けふまでに;けふまてに, われはわすれず;われはわすれす, まなくしおもへば;まなくしおもへは, 
   
  04/0703
題詞 巫部麻蘇娘子歌二首
題訓 巫部麻蘇娘子かむこべのまそをとめが歌二首
原文 吾背子乎 相見之其日 至于今日 吾衣手者 乾時毛奈志
訓読 我が背子を相見しその日今日までに我が衣手は干る時もなし
仮名 わがせこを あひみしそのひ けふまでに わがころもでは ふるときもなし
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 相聞 作者:巫部麻蘇娘子 恋情 涙
訓異 わがせこを;わかせこを, けふまでに;けふまてに, わがころもでは;わかころもては, ふるときもなし;ひるときもなし, 
   
  04/0704
題詞 (巫部麻蘇娘子歌二首)
原文 栲縄之 永命乎 欲苦波 不絶而人乎 欲見社
訓読 栲縄の長き命を欲りしくは絶えずて人を見まく欲りこそ
仮名 たくなはの ながきいのちを ほりしくは たえずてひとを みまくほりこそ
左注 なし
校異 なし
事項 相聞 作者:巫部麻蘇娘子 恋情 枕詞
訓異 ながきいのちを;なかきいのちを, ほりしくは;ほしけくは, たえずてひとを;たへすてひとを, 
   
  04/0705
題詞 大伴宿祢家持贈童女歌一首
題訓 大伴宿禰家持が童女をとめに贈れる歌一首
原文 葉根蘰 今為妹乎 夢見而 情内二 戀<渡>鴨
訓読 はねかづら今する妹を夢に見て心のうちに恋ひわたるかも
仮名 はねかづら いまするいもを いめにみて こころのうちに こひわたるかも
左注 なし
校異 度→渡 [類][紀][京]
事項 相聞 作者:大伴家持 童女 恋情 夢 贈答
訓異 はねかづら;はねかつら, いめにみて;ゆめにみて, 
   
  04/0706
題詞 童女来報歌一首
題訓 童女が来報こたふる歌一首
原文 葉根蘰 今為妹者 無四呼 何妹其 幾許戀多類
訓読 はねかづら今する妹はなかりしをいづれの妹ぞここだ恋ひたる
仮名 はねかづら いまするいもは なかりしを いづれのいもぞ ここだこひたる
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 相聞 作者:童女 大伴家持 掛醎合媿 贈答
訓異 はねかづら;はねかつら, いづれのいもぞ;いかなるいもそ, ここだこひたる;ここたこひたる, 
   
  04/0707
題詞 粟田<女>娘子贈大伴宿祢家持歌二首
題訓 粟田娘子あはたのをとめが大伴宿禰家持に贈れる歌二首
原文 思遣 為便乃不知者 片垸之 底曽吾者 戀成尓家類 <[注土垸之中]>
訓読 思ひ遣るすべの知らねば片もひの底にぞ我れは恋ひ成りにける <[注土h之中]>
仮名 おもひやる すべのしらねば かたもひの そこにぞあれは こひなりにける
左注 なし
校異 <>→女 [元][紀][古] / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / <>→注土垸之中 [桂][元]
事項 相聞 作者:粟田女娘子 大伴家持 恋情 枕詞 贈答
訓異 すべのしらねば;すへのしらねは, そこにぞあれは;そこにそあれは, 
   
  04/0708
題詞 (粟田<女>娘子贈大伴宿祢家持歌二首)
原文 復毛将相 因毛有奴可 白細之 我衣手二 齋留目六
訓読 またも逢はむよしもあらぬか白栲の我が衣手にいはひ留めむ
仮名 またもあはむ よしもあらぬか しろたへの わがころもでに いはひとどめむ
左注 なし
校異 なし
事項 相聞 作者:粟田女娘子 大伴家持 恋情 再会 枕詞 贈答
訓異 わがころもでに;わかころもてに, いはひとどめむ;いはひととめむ, 
   
  04/0709
題詞 豊前國娘子大宅女嬥歌一首 [未審姓氏]
題訓 豊前国とよくにのみちのくちの娘子大宅女おほやけめが歌一首
原文 夕闇者 路多豆<多>頭四 待月而 行吾背子 其間尓母将見
訓読 夕闇は道たづたづし月待ちて行ませ我が背子その間にも見む
仮名 ゆふやみは みちたづたづし つきまちて いませわがせこ そのまにもみむ
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / <>→多 [西(右書)][元][紀][温]
事項 相聞 作者:豊前國娘子大宅女 後朝
訓異 みちたづたづし;みちたつたつし, いませわがせこ;ゆかむわかせこ, 
   
  04/0710
題詞 安都扉娘子歌一首
題訓 安都扉娘子あとのとびらのをとめが歌一首
原文 三空去 月之光二 直一目 相三師人<之> 夢西所見
訓読 み空行く月の光にただ一目相見し人の夢にし見ゆる
仮名 みそらゆく つきのひかりに ただひとめ あひみしひとの いめにしみゆる
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / <>→之 [西(右書)][元][紀][温]
事項 相聞 作者:安都扉娘子 夢
訓異 ただひとめ;たたひとめ, いめにしみゆる;ゆめにしみゆる, 
   
  04/0711
題詞 丹波大女娘子歌三首
題訓 丹波大女娘子たにはのおほめをとめが歌三首
原文 鴨鳥之 遊此池尓 木葉落而 浮心 吾不念國
訓読 鴨鳥の遊ぶこの池に木の葉落ちて浮きたる心我が思はなくに
仮名 かもどりの あそぶこのいけに このはおちて うきたるこころ わがおもはなくに
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 相聞 作者:丹波大女娘子 動物 恋情 序詞
訓異 かもどりの;かもとりの, あそぶこのいけに;あそふこのいけに, うきたるこころ;うかへるこころ, わがおもはなくに;わかおもはなくに, 
   
  04/0712
題詞 (丹波大女娘子歌三首)
原文 味酒呼 三輪之祝我 忌杉 手觸之罪歟 君二遇難寸
訓読 味酒を三輪の祝がいはふ杉手触れし罪か君に逢ひかたき
仮名 うまさけを みわのはふりが いはふすぎ てふれしつみか きみにあひかたき
左注 なし
校異 なし
事項 相聞 作者:丹波大女娘子 枕詞 恋情
訓異 うまさけを;うまさかを, みわのはふりが;みわのはふりか, いはふすぎ;いはふすき, 
   
  04/0713
題詞 (丹波大女娘子歌三首)
原文 垣穂成 人辞聞而 吾背子之 情多由多比 不合頃者
訓読 垣ほなす人言聞きて我が背子が心たゆたひ逢はぬこのころ
仮名 かきほなす ひとごとききて わがせこが こころたゆたひ あはぬこのころ
左注 なし
校異 なし
事項 相聞 作者:丹波大女娘子 尫柜蹋
訓異 ひとごとききて;ひとことききて, わがせこが;わかせこか, 
   
  04/0714
題詞 大伴宿祢家持贈娘子歌七首
題訓 大伴宿禰家持が娘子に贈れる歌七首
原文 情尓者 思渡跡 縁乎無三 外耳為而 嘆曽吾為
訓読 心には思ひわたれどよしをなみ外のみにして嘆きぞ我がする
仮名 こころには おもひわたれど よしをなみ よそのみにして なげきぞわがする
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 相聞 作者:大伴家持 娘子 贈答
訓異 おもひわたれど;おもひわたれと, よそのみにして;よそにのみして, なげきぞわがする;なけきそわかする, 
   
  04/0715
題詞 (大伴宿祢家持贈娘子歌七首)
原文 千鳥鳴 佐保乃河門之 清瀬乎 馬打和多思 何時将通
訓読 千鳥鳴く佐保の川門の清き瀬を馬うち渡しいつか通はむ
仮名 ちどりなく さほのかはとの きよきせを うまうちわたし いつかかよはむ
左注 なし
校異 なし
事項 相聞 作者:大伴家持 娘子 川渡り 奈良 地名 動物 贈答
訓異 ちどりなく;ちとりなく, いつかかよはむ;いかにかよはむ, 
   
  04/0716
題詞 (大伴宿祢家持贈娘子歌七首)
原文 夜晝 云別不知 吾戀 情盖 夢所見寸八
訓読 夜昼といふ別き知らず我が恋ふる心はけだし夢に見えきや
仮名 よるひると いふわきしらず あがこふる こころはけだし いめにみえきや
左注 なし
校異 なし
事項 相聞 作者:大伴家持 娘子 恋情 夢 恋情 贈答
訓異 いふわきしらず;いふわきしらす, あがこふる;わかこふる, こころはけだし;こころはけたし, いめにみえきや;ゆめにみえきや, 
   
  04/0717
題詞 (大伴宿祢家持贈娘子歌七首)
原文 都礼毛無 将有人乎 獨念尓 吾念者 惑毛安流香
訓読 つれもなくあるらむ人を片思に我れは思へばわびしくもあるか
仮名 つれもなく あるらむひとを かたもひに われはおもへば わびしくもあるか
左注 なし
校異 なし
事項 相聞 作者:大伴家持 娘子 恨牫 贈答
訓異 かたもひに;かたおもひに, われはおもへば;われしおもへは, わびしくもあるか;まとひもあるか, 
   
  04/0718
題詞 (大伴宿祢家持贈娘子歌七首)
原文 不念尓 妹之咲儛乎 夢見而 心中二 燎管曽呼留
訓読 思はぬに妹が笑ひを夢に見て心のうちに燃えつつぞ居る
仮名 おもはぬに いもがゑまひを いめにみて こころのうちに もえつつぞをる
左注 なし
校異 呼 [元] 乎
事項 相聞 作者:大伴家持 娘子 夢 恋情 贈答
訓異 いもがゑまひを;いもかゑまひを, いめにみて;ゆめにみて, もえつつぞをる;もえつつそをる, 
   
  04/0719
題詞 (大伴宿祢家持贈娘子歌七首)
原文 大夫跡 念流吾乎 如此許 三礼二見津礼 片<念>男責
訓読 ますらをと思へる我れをかくばかりみつれにみつれ片思をせむ
仮名 ますらをと おもへるわれを かくばかり みつれにみつれ かたもひをせむ
左注 なし
校異 思→念 [元][紀]
事項 相聞 作者:大伴家持 娘子 怨恨 贈答
訓異 かくばかり;かくはかり, かたもひをせむ;かたおもひをせむ, 
   
  04/0720
題詞 (大伴宿祢家持贈娘子歌七首)
原文 村肝之 情揣而 如此許 余戀良<苦>乎 不知香安類良武
訓読 むらきもの心砕けてかくばかり我が恋ふらくを知らずかあるらむ
仮名 むらきもの こころくだけて かくばかり あがこふらくを しらずかあるらむ
左注 なし
校異 久→苦 [元][紀][温]
事項 相聞 作者:大伴家持 娘子 枕詞 恋情 贈答
訓異 こころくだけて;こころくたけて, かくばかり;かくはかり, あがこふらくを;わかこふらくを, しらずかあるらむ;しらすかあるらむ, 
   
  04/0721
題詞 獻天皇歌一首 [大伴坂上郎女在佐保宅作也]
題訓 天皇すめらみことに献れる歌一首
原文 足引乃 山二四居者 風流無三 吾為類和射乎 害目賜名
訓読 あしひきの山にしをれば風流なみ我がするわざをとがめたまふな
仮名 あしひきの やまにしをれば みやびなみ わがするわざを とがめたまふな
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 相聞 作者:坂上郎女 聖武天皇 佐保 枕詞 地名 贈答
訓異 やまにしをれば;やまにしをれは, みやびなみ;よしをなみ, わがするわざを;わかするわさを, とがめたまふな;とかめたまふな, 
   
  04/0722
題詞 大伴宿祢家持歌一首
題訓 大伴宿禰家持が歌一首
原文 如是許 戀乍不有者 石木二毛 成益物乎 物不思四手
訓読 かくばかり恋ひつつあらずは石木にもならましものを物思はずして
仮名 かくばかり こひつつあらずは いはきにも ならましものを ものもはずして
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 相聞 作者:大伴家持 恋情
訓異 かくばかり;かくはかり, こひつつあらずは;こひつつあらすは, ものもはずして;ものおもはすして, 
   
  04/0723
題詞 大伴坂上郎女従跡見庄<賜>留宅女子大嬢歌一首[并短歌]
題訓 大伴坂上郎女が跡見とみの庄たどころより、宅に留まれる女子むすめの大嬢おほいらつめに贈れる歌一首、また短歌
原文 常呼二跡 吾行莫國 小金門尓 物悲良尓 念有之 吾兒乃刀自緒 野干玉之 夜晝跡不言 念二思 吾身者痩奴 嘆丹師 袖左倍<沾>奴 如是許 本名四戀者 古郷尓 此月期呂毛 有勝益土
訓読 常世にと 我が行かなくに 小金門に もの悲しらに 思へりし 我が子の刀自を ぬばたまの 夜昼といはず 思ふにし 我が身は痩せぬ 嘆くにし 袖さへ濡れぬ かくばかり もとなし恋ひば 故郷に この月ごろも 有りかつましじ
仮名 とこよにと わがゆかなくに をかなどに ものかなしらに おもへりし あがこのとじを ぬばたまの よるひるといはず おもふにし あがみはやせぬ なげくにし そでさへぬれぬ かくばかり もとなしこひば ふるさとに このつきごろも ありかつましじ
左注 (右歌報賜大嬢進歌也)
校異 贈賜→賜 [元][類][紀] / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 沽→沾 [紀]
事項 相聞 作者:坂上郎女 坂上大嬢 愛情 枕詞 桜井
訓異 わがゆかなくに;わかゆかなくに, をかなどに;こかなとに, あがこのとじを;わかこのとしの, ぬばたまの;ぬはたまの, よるひるといはず;よるひるといはす, あがみはやせぬ;わかみはやせぬ, なげくにし;なけくにし, そでさへぬれぬ;そてさへぬれぬ, かくばかり;かくはかり, もとなしこひば;もとなしこひは, このつきごろも;このつきころも, ありかつましじ;ありかてましを, 
   
  04/0724
題詞 (大伴坂上郎女従跡見庄<賜>留宅女子大嬢歌一首[并短歌])反歌
題訓 反し歌
原文 朝髪之 念乱而 如是許 名姉之戀曽 夢尓所見家留
訓読 朝髪の思ひ乱れてかくばかり汝姉が恋ふれぞ夢に見えける
仮名 あさかみの おもひみだれて かくばかり なねがこふれぞ いめにみえける
左注 右歌報賜大嬢進歌也
左注訓
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 右歌 [西] 右謌 [西(訂正)] 右歌 / 進歌 [西] 進謌 [西(訂正)] 進歌
事項 相聞 作者:坂上郎女 坂上大嬢 愛情 夢 枕詞 桜井
訓異 おもひみだれて;おもひみたれて, かくばかり;かくはかり, なねがこふれぞ;なにのこひそも, いめにみえける;ゆめにみえける, 
   
  04/0725
題詞 獻天皇歌二首 [大伴坂上郎女在春日里作也]
題訓 天皇に献れる歌二首
原文 二寶鳥乃 潜池水 情有者 君尓吾戀 情示左祢
訓読 にほ鳥の潜く池水心あらば君に我が恋ふる心示さね
仮名 にほどりの かづくいけみづ こころあらば きみにあがこふる こころしめさね
左注 なし
校異 なし
事項 相聞 作者:坂上郎女 聖武天皇 動物 恋情 奈良
訓異 にほどりの;にほとりの, かづくいけみづ;かつくいけみつ, こころあらば;こころあらは, きみにあがこふる;きみにわかこひ, 
   
  04/0726
題詞 (獻天皇歌二首 [大伴坂上郎女在春日里作也])
原文 外居而 戀乍不有者 君之家乃 池尓住云 鴨二有益雄
訓読 外に居て恋ひつつあらずは君が家の池に住むといふ鴨にあらましを
仮名 よそにゐて こひつつあらずは きみがいへの いけにすむといふ かもにあらましを
左注 なし
校異 なし
事項 相聞 作者:坂上郎女 聖武天皇 動物 恋情 奈良
訓異 こひつつあらずは;こひつつあらすは, きみがいへの;きみかいへの, 
   
  04/0727
題詞 大伴宿祢家持贈坂上家大嬢歌二首 [<離>絶數年復會相聞徃来]
題訓 大伴宿禰家持が坂上の家の大嬢に贈れる歌二首 離リ絶エタルコト数年、復会ヒテ相聞往来ス。
原文 萱草 吾下紐尓 著有跡 鬼乃志許草 事二思安利家理
訓読 忘れ草我が下紐に付けたれど醜の醜草言にしありけり
仮名 わすれくさ わがしたひもに つけたれど しこのしこくさ ことにしありけり
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 雖→離 [桂][元][紀] / 復 [元][類] 後
事項 相聞 作者:大伴家持 坂上大嬢 植物
訓異 わがしたひもに;わかしたひもに, つけたれど;つけたれと, しこのしこくさ;おにのしこくさ, ことにしありけり;ことにしありなり, 
   
  04/0728
題詞 (大伴宿祢家持贈坂上家大嬢歌二首 [<離>絶數年復會相聞徃来])
原文 人毛無 國母有粳 吾妹子与 携行而 副而将座
訓読 人もなき国もあらぬか我妹子とたづさはり行きて副ひて居らむ
仮名 ひともなき くにもあらぬか わぎもこと たづさはりゆきて たぐひてをらむ
左注 なし
校異 なし
事項 相聞 作者:大伴家持 坂上大嬢 贈答
訓異 わぎもこと;わきもこと, たづさはりゆきて;たつさひゆきて, たぐひてをらむ;たくひてをらむ, 
   
  04/0729
題詞 大伴坂上大嬢贈大伴宿祢家持歌三首
題訓 大伴坂上大嬢が大伴宿禰家持に贈れる歌三首
原文 玉有者 手二母将巻乎 欝瞻乃 世人有者 手二巻難石
訓読 玉ならば手にも巻かむをうつせみの世の人なれば手に巻きかたし
仮名 たまならば てにもまかむを うつせみの よのひとなれば てにまきかたし
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 相聞 作者:坂上大嬢 大伴家持 枕詞 贈答
訓異 たまならば;たまならは, よのひとなれば;よのひとあれは, 
   
  04/0730
題詞 (大伴坂上大嬢贈大伴宿祢家持歌三首)
原文 将相夜者 何時将有乎 何如為常香 彼夕相而 事之繁裳
訓読 逢はむ夜はいつもあらむを何すとかその宵逢ひて言の繁きも
仮名 あはむよは いつもあらむを なにすとか そのよひあひて ことのしげきも
左注 なし
校異 なし
事項 相聞 作者:坂上大嬢 大伴家持 尫柜蹋 贈答
訓異 いつもあらむを;いつしかあらむを, そのよひあひて;かのよにあひて, ことのしげきも;ことのしけきも, 
   
  04/0731
題詞 (大伴坂上大嬢贈大伴宿祢家持歌三首)
原文 吾名者毛 千名之五百名尓 雖立 君之名立者 惜社泣
訓読 我が名はも千名の五百名に立ちぬとも君が名立たば惜しみこそ泣け
仮名 わがなはも ちなのいほなに たちぬとも きみがなたたば をしみこそなけ
左注 なし
校異 なし
事項 相聞 作者:坂上大嬢 大伴家持 尫柜蹋 名前 贈答
訓異 わがなはも;わかなはも, きみがなたたば;きみかなたたは, 
   
  04/0732
題詞 又大伴宿祢家持和歌三首
題訓 また大伴宿禰家持が和ふる歌三首
原文 今時者四 名之惜雲 吾者無 妹丹因者 千遍立十方
訓読 今しはし名の惜しけくも我れはなし妹によりては千たび立つとも
仮名 いましはし なのをしけくも われはなし いもによりては ちたびたつとも
左注 なし
校異 歌 [西] 謌
事項 相聞 作者:大伴家持 坂上大嬢 和歌 名前 尫柜蹋 贈答
訓異 ちたびたつとも;ちへにたつとも, 
   
  04/0733
題詞 (又大伴宿祢家持和歌三首)
原文 空蝉乃 代也毛二行 何為跡鹿 妹尓不相而 吾獨将宿
訓読 うつせみの世やも二行く何すとか妹に逢はずて我がひとり寝む
仮名 うつせみの よやもふたゆく なにすとか いもにあはずて わがひとりねむ
左注 なし
校異 なし
事項 相聞 作者:大伴家持 坂上大嬢 和歌 枕詞 贈答
訓異 いもにあはずて;いもにあはすて, わがひとりねむ;わかひとりねむ, 
   
  04/0734
題詞 (又大伴宿祢家持和歌三首)
原文 吾念 如此而不有者 玉二毛我 真毛妹之 手二所纒<乎>
訓読 我が思ひかくてあらずは玉にもがまことも妹が手に巻かれなむ
仮名 わがおもひ かくてあらずは たまにもが まこともいもが てにまかれなむ
左注 なし
校異 牟→乎 [元][類][紀]
事項 相聞 作者:大伴家持 坂上大嬢 贈答
訓異 わがおもひ;わかおもひ, かくてあらずは;かくしてあらすは, たまにもが;たまにもか, まこともいもが;まこともいもか, 
   
  04/0735
題詞 同坂上大嬢贈家持歌一首
題訓 同おやじ坂上大嬢が家持に贈れる歌一首
原文 春日山 霞多奈引 情具久 照月夜尓 獨鴨念
訓読 春日山霞たなびき心ぐく照れる月夜にひとりかも寝む
仮名 かすがやま かすみたなびき こころぐく てれるつくよに ひとりかもねむ
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 相聞 作者:坂上大嬢 大伴家持 奈良 地名 鬱屈 恋情 贈答
訓異 かすがやま;かすかやま, かすみたなびき;かすみたなひき, こころぐく;こころくく, てれるつくよに;てれるつきよに, 
   
  04/0736
題詞 又家持和坂上大嬢歌一首
題訓 また家持が坂上大嬢に和ふる歌一首
原文 月夜尓波 門尓出立 夕占問 足卜乎曽為之 行乎欲焉
訓読 月夜には門に出で立ち夕占問ひ足占をぞせし行かまくを欲り
仮名 つくよには かどにいでたち ゆふけとひ あしうらをぞせし ゆかまくをほり
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 相聞 作者:大伴家持 大伴坂上大嬢 贈答
訓異 つくよには;つきよには, かどにいでたち;かとにいてたち, あしうらをぞせし;あしうらをそせし, 
   
  04/0737
題詞 同大嬢贈家持歌二首
題訓 同じ大嬢が家持に贈れる歌二首
原文 云々 人者雖云 若狭道乃 後瀬山之 後毛将<會>君
訓読 かにかくに人は言ふとも若狭道の後瀬の山の後も逢はむ君
仮名 かにかくに ひとはいふとも わかさぢの のちせのやまの のちもあはむきみ
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 念→會 [万葉考]
事項 相聞 作者:坂上大嬢 大伴家持 福井 地名 歌枕 贈答
訓異 わかさぢの;わかさちの, 
   
  04/0738
題詞 (同大嬢贈家持歌二首)
原文 世間之 苦物尓 有家良<之> 戀尓不勝而 可死念者
訓読 世の中の苦しきものにありけらし恋にあへずて死ぬべき思へば
仮名 よのなかの くるしきものに ありけらし こひにあへずて しぬべきおもへば
左注 なし
校異 久→之 [元]
事項 相聞 作者:坂上大嬢 大伴家持 恋情 贈答
訓異 ありけらし;ありけらく, こひにあへずて;こひにたへすて, しぬべきおもへば;しぬへくおもへは, 
   
  04/0739
題詞 又家持和坂上大嬢歌二首
題訓 また家持が坂上大嬢に和ふる歌二首
原文 後湍山 後毛将相常 念社 可死物乎 至今日<毛>生有
訓読 後瀬山後も逢はむと思へこそ死ぬべきものを今日までも生けれ
仮名 のちせやま のちもあはむと おもへこそ しぬべきものを けふまでもいけれ
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / <>→毛 [西(右書)][桂][元][紀]
事項 相聞 作者:大伴家持 坂上大嬢 和歌 枕詞 福井 地名 歌枕 恋情 贈答
訓異 おもへこそ;おもふこそ, しぬべきものを;しぬへきものを, けふまでもいけれ;けふまてもあれ, 
   
  04/0740
題詞 (又家持和坂上大嬢歌二首)
原文 事耳乎 後毛相跡 懃 吾乎令憑而 不相可聞
訓読 言のみを後も逢はむとねもころに我れを頼めて逢はざらむかも
仮名 ことのみを のちもあはむと ねもころに われをたのめて あはざらむかも
左注 なし
校異 なし
事項 相聞 作者:大伴家持 坂上大嬢 怨恨 贈答
訓異 あはざらむかも;あへさらめかも, 
   
  04/0741
題詞 更大伴宿祢家持贈坂上大嬢歌十五首
題訓 また大伴宿禰家持が坂上大嬢に贈れる歌十五首とをあまりいつつ
原文 夢之相者 苦有家里 覺而 掻探友 手二毛不所觸者
訓読 夢の逢ひは苦しかりけりおどろきて掻き探れども手にも触れねば
仮名 いめのあひは くるしかりけり おどろきて かきさぐれども てにもふれねば
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 相聞 作者:大伴家持 坂上大嬢 遊仙窟 夢 贈答
訓異 いめのあひは;ゆめのあひは, おどろきて;おとろきて, かきさぐれども;かきさくれとも, てにもふれねば;てにもふれねは, 
   
  04/0742
題詞 (更大伴宿祢家持贈坂上大嬢歌十五首)
原文 一重耳 妹之将結 帶乎尚 三重可結 吾身者成
訓読 一重のみ妹が結ばむ帯をすら三重結ぶべく我が身はなりぬ
仮名 ひとへのみ いもがむすばむ おびをすら みへむすぶべく わがみはなりぬ
左注 なし
校異 なし
事項 相聞 作者:大伴家持 坂上大嬢 遊仙窟 贈答
訓異 いもがむすばむ;いもかむすひし, おびをすら;おひをすら, みへむすぶべく;みへむすふへく, わがみはなりぬ;わかみはなりぬ, 
   
  04/0743
題詞 (更大伴宿祢家持贈坂上大嬢歌十五首)
原文 吾戀者 千引乃石乎 七許 頚二将繋母 神之諸伏
訓読 我が恋は千引の石を七ばかり首に懸けむも神のまにまに
仮名 あがこひは ちびきのいはを ななばかり くびにかけむも かみのまにまに
左注 なし
校異 なし
事項 相聞 作者:大伴家持 坂上大嬢 比喩 贈答
訓異 あがこひは;わかこひは, ちびきのいはを;ちひきのいしを, ななばかり;ななはかり, くびにかけむも;くひにかけても, かみのまにまに;かみのもろふし, 
   
  04/0744
題詞 (更大伴宿祢家持贈坂上大嬢歌十五首)
原文 暮去者 屋戸開設而 吾将待 夢尓相見二 将来云比登乎
訓読 夕さらば屋戸開け設けて我れ待たむ夢に相見に来むといふ人を
仮名 ゆふさらば やとあけまけて われまたむ いめにあひみに こむといふひとを
左注 なし
校異 なし
事項 相聞 作者:大伴家持 坂上大嬢 遊仙窟 夢 贈答
訓異 ゆふさらば;ゆふされは, いめにあひみに;ゆめにあひみに, 
   
  04/0745
題詞 (更大伴宿祢家持贈坂上大嬢歌十五首)
原文 朝夕二 将見時左倍也 吾妹之 雖見如不見 由戀四家武
訓読 朝夕に見む時さへや我妹子が見れど見ぬごとなほ恋しけむ
仮名 あさよひに みむときさへや わぎもこが みれどみぬごと なほこほしけむ
左注 なし
校異 なし
事項 相聞 作者:大伴家持 坂上大嬢 贈答 恋情
訓異 あさよひに;あさゆふに, わぎもこが;わきもこか, みれどみぬごと;みれとみぬこと, なほこほしけむ;なをこひしけむ, 
   
  04/0746
題詞 (更大伴宿祢家持贈坂上大嬢歌十五首)
原文 生有代尓 吾者未見 事絶而 如是A怜 縫流嚢者
訓読 生ける世に我はいまだ見ず言絶えてかくおもしろく縫へる袋は
仮名 いけるよに われはいまだみず ことたえて かくおもしろく ぬへるふくろは
左注 なし
校異 なし
事項 相聞 作者:大伴家持 坂上大嬢 贈答
訓異 われはいまだみず;われはまたみす, かくおもしろく;かくあはれけに, 
   
  04/0747
題詞 (更大伴宿祢家持贈坂上大嬢歌十五首)
原文 吾妹兒之 形見乃服 下著而 直相左右者 吾将脱八方
訓読 我妹子が形見の衣下に着て直に逢ふまでは我れ脱かめやも
仮名 わぎもこが かたみのころも したにきて ただにあふまでは われぬかめやも
左注 なし
校異 なし
事項 相聞 作者:大伴家持 坂上大嬢 贈答
訓異 わぎもこが;わきもこか, ただにあふまでは;たたにあふまては, 
   
  04/0748
題詞 (更大伴宿祢家持贈坂上大嬢歌十五首)
原文 戀死六 其毛同曽 奈何為二 人目他言 辞痛吾将為
訓読 恋ひ死なむそこも同じぞ何せむに人目人言言痛み我がせむ
仮名 こひしなむ そこもおやじぞ なにせむに ひとめひとごと こちたみわがせむ
左注 なし
校異 なし
事項 相聞 作者:大伴家持 坂上大嬢 尫柜蹋 贈答
訓異 そこもおやじぞ;それもおなしそ, ひとめひとごと;ひとめひとこと, こちたみわがせむ;こちたくわれせむ, 
   
  04/0749
題詞 (更大伴宿祢家持贈坂上大嬢歌十五首)
原文 夢二谷 所見者社有 如此許 不所見有者 戀而死跡香
訓読 夢にだに見えばこそあらめかくばかり見えずしあるは恋ひて死ねとか
仮名 いめにだに みえばこそあれ かくばかり みえずてあるは こひてしねとか
左注 なし
校異 なし
事項 相聞 作者:大伴家持 坂上大嬢 夢 贈答
訓異 いめにだに;ゆめにたに, みえばこそあれ;みえはこそあらめ, かくばかり;かくはかり, みえずてあるは;みえすてあるは, 
   
  04/0750
題詞 (更大伴宿祢家持贈坂上大嬢歌十五首)
原文 念絶 和備西物尾 中々<荷> 奈何辛苦 相見始兼
訓読 思ひ絶えわびにしものを中々に何か苦しく相見そめけむ
仮名 おもひたえ わびにしものを なかなかに なにかくるしく あひみそめけむ
左注 なし
校異 尓→荷 [桂][紀]
事項 相聞 作者:大伴家持 坂上大嬢 怨恨 後悔 恋情
訓異 わびにしものを;わひにしものを, 
   
  04/0751
題詞 (更大伴宿祢家持贈坂上大嬢歌十五首)
原文 相見而者 幾日毛不經乎 幾許久毛 <久>流比尓久流必 所念鴨
訓読 相見ては幾日も経ぬをここだくもくるひにくるひ思ほゆるかも
仮名 あひみては いくかもへぬを ここだくも くるひにくるひ おもほゆるかも
左注 なし
校異 <>→久 [西(右書)][桂][紀][温]
事項 相聞 作者:大伴家持 坂上大嬢 贈答
訓異 ここだくも;ここはくも, 
   
  04/0752
題詞 (更大伴宿祢家持贈坂上大嬢歌十五首)
原文 如是許 面影耳 所念者 何如将為 人目繁而
訓読 かくばかり面影にのみ思ほえばいかにかもせむ人目繁くて
仮名 かくばかり おもかげにのみ おもほえば いかにかもせむ ひとめしげくて
左注 なし
校異 なし
事項 相聞 作者:大伴家持 坂上大嬢 尫柜蹋 贈答
訓異 かくばかり;かくはかり, おもかげにのみ;おもかけにのみ, おもほえば;おもほへは, ひとめしげくて;ひとめしけくて, 
   
  04/0753
題詞 (更大伴宿祢家持贈坂上大嬢歌十五首)
原文 相見者 須臾戀者 奈木六香登 雖念弥 戀益来
訓読 相見てはしましも恋はなぎむかと思へどいよよ恋ひまさりけり
仮名 あひみては しましもこひは なぎむかと おもへどいよよ こひまさりけり
左注 なし
校異 なし
事項 相聞 作者:大伴家持 坂上大嬢 恋情 贈答
訓異 しましもこひは;しはしもこひは, なぎむかと;なきむかと, おもへどいよよ;おもへといとと, 
   
  04/0754
題詞 (更大伴宿祢家持贈坂上大嬢歌十五首)
原文 夜之穂杼呂 吾出而来者 吾妹子之 念有四九四 面影二三湯
訓読 夜のほどろ我が出でて来れば我妹子が思へりしくし面影に見ゆ
仮名 よのほどろ わがいでてくれば わぎもこが おもへりしくし おもかげにみゆ
左注 なし
校異 なし
事項 相聞 作者:大伴家持 坂上大嬢 贈答 恋情
訓異 よのほどろ;よのほとろ, わがいでてくれば;わかいててくれは, わぎもこが;わきもこか, おもへりしくし;おもへりしくよ, おもかげにみゆ;おもかけにみゆ, 
   
  04/0755
題詞 (更大伴宿祢家持贈坂上大嬢歌十五首)
原文 夜之穂杼呂 出都追来良久 遍多數 成者吾胸 截焼如
訓読 夜のほどろ出でつつ来らくたび数多くなれば我が胸断ち焼くごとし
仮名 よのほどろ いでつつくらく たびまねく なればあがむね たちやくごとし
左注 なし
校異 なし
事項 相聞 作者:大伴家持 坂上大嬢 遊仙窟 恋情
訓異 よのほどろ;よのほとろ, いでつつくらく;いてつつくらく, たびまねく;あまたたひ, なればあがむね;なれはわかむね, たちやくごとし;きりやくかこと, 
   
  04/0756
題詞 大伴田村家之大嬢贈妹坂上大嬢歌四首
題訓 大伴の田村の家の大嬢が妹坂上大嬢に贈れる歌四首
原文 外居而 戀者苦 吾妹子乎 次相見六 事計為与
訓読 外に居て恋ふれば苦し我妹子を継ぎて相見む事計りせよ
仮名 よそにゐて こふればくるし わぎもこを つぎてあひみむ ことはかりせよ
左注 (右田村大嬢坂上大嬢並是右大辨大伴宿奈麻呂卿之女也 卿居田村里号曰田村大嬢 但妹坂上<大>嬢者母居坂上里 仍曰坂上大嬢 于時姉妹諮問以歌贈答)
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 相聞 作者:大伴田村大嬢 坂上大嬢 贈答
訓異 こふればくるし;こふれはくるし, わぎもこを;わきもこを, つぎてあひみむ;つきてあひみむ, ことはかりせよ;ことはかりもよ, 
   
  04/0757
題詞 (大伴田村家之大嬢贈妹坂上大嬢歌四首)
原文 遠有者 和備而毛有乎 里近 有常聞乍 不見之為便奈沙
訓読 遠くあらばわびてもあらむを里近くありと聞きつつ見ぬがすべなさ
仮名 とほくあらば わびてもあらむを さとちかく ありとききつつ みぬがすべなさ
左注 (右田村大嬢坂上大嬢並是右大辨大伴宿奈麻呂卿之女也 卿居田村里号曰田村大嬢 但妹坂上<大>嬢者母居坂上里 仍曰坂上大嬢 于時姉妹諮問以歌贈答)
校異 なし
事項 相聞 作者:大伴田村大嬢 坂上大嬢 贈答
訓異 とほくあらば;とほくあれは, わびてもあらむを;わひてもあるを, みぬがすべなさ;みぬかすへなさ, 
   
  04/0758
題詞 (大伴田村家之大嬢贈妹坂上大嬢歌四首)
原文 白雲之 多奈引山之 高々二 吾念妹乎 将見因毛我母
訓読 白雲のたなびく山の高々に我が思ふ妹を見むよしもがも
仮名 しらくもの たなびくやまの たかだかに あがおもふいもを みむよしもがも
左注 (右田村大嬢坂上大嬢並是右大辨大伴宿奈麻呂卿之女也 卿居田村里号曰田村大嬢 但妹坂上<大>嬢者母居坂上里 仍曰坂上大嬢 于時姉妹諮問以歌贈答)
校異 なし
事項 相聞 作者:大伴田村大嬢 坂上大嬢 贈答
訓異 たなびくやまの;たなひくやまの, たかだかに;たかたかに, あがおもふいもを;わかおもふいもを, みむよしもがも;みむよしもかも, 
   
  04/0759
題詞 (大伴田村家之大嬢贈妹坂上大嬢歌四首)
原文 何 時尓加妹乎 牟具良布能 穢屋戸尓 入将座
訓読 いかならむ時にか妹を葎生の汚なきやどに入りいませてむ
仮名 いかならむ ときにかいもを むぐらふの きたなきやどに いりいませてむ
左注 右田村大嬢坂上大嬢並是右大辨大伴宿奈麻呂卿之女也 卿居田村里号曰田村大嬢 但妹坂上<大>嬢者母居坂上里 仍曰坂上大嬢 于時姉妹諮問以歌贈答
左注訓 右、田村大嬢ト坂上大嬢ト、并ニ右大弁大伴 宿奈麻呂卿ノ女ナリ。卿田村ノ里ニ居レバ、 田村大嬢ト号曰ク。但シ妹坂上大嬢ハ、母坂 上ノ里ニ居ル、仍テ坂上大嬢ト曰フ。時ニ姉 妹、諮問トブラヒテ歌ヲ以テ贈答ス。
校異 <>→大 [西(右書)][桂][元][紀] / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 相聞 作者:田村大嬢 大伴坂上大嬢 植物 贈答
訓異 むぐらふの;むくらふの, きたなきやどに;けかしきやとに, いりいませてむ;いりまさしめむ, 
   
  04/0760
題詞 大伴坂上郎女従竹田庄<贈>女子大嬢歌二首
題訓 大伴坂上郎女が竹田の庄たどころより女子むすめの大嬢に贈れる歌二首
原文 打渡 竹田之原尓 鳴鶴之 間無時無 吾戀良久波
訓読 うち渡す武田の原に鳴く鶴の間なく時なし我が恋ふらくは
仮名 うちわたす たけたのはらに なくたづの まなくときなし あがこふらくは
左注 なし
校異 贈賜→贈 [桂][元][古] / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 相聞 作者:坂上郎女 大伴坂上大嬢 桜井 地名 動物 恋情 贈答
訓異 なくたづの;なくたつの, あがこふらくは;わかこふらくは, 
   
  04/0761
題詞 (大伴坂上郎女従竹田庄<贈>女子大嬢歌二首)
原文 早河之 湍尓居鳥之 縁乎奈弥 念而有師 吾兒羽裳A怜
訓読 早川の瀬に居る鳥のよしをなみ思ひてありし我が子はもあはれ
仮名 はやかはの せにゐるとりの よしをなみ おもひてありし あがこはもあはれ
左注 なし
校異 なし
事項 相聞 作者:坂上郎女 大伴坂上大嬢 序詞 恋情 贈答
訓異 あがこはもあはれ;わかこはもあはれ, 
   
  04/0762
題詞 紀女郎贈大伴宿祢家持歌二首 [女郎名曰小鹿也]
題訓 紀女郎が大伴宿禰家持に贈れる歌二首 女郎、名ヲ小鹿ヲシカト曰フ
原文 神左夫跡 不欲者不有 八<多也八多> 如是為而後二 佐夫之家牟可聞
訓読 神さぶといなにはあらずはたやはたかくして後に寂しけむかも
仮名 かむさぶと いなにはあらず はたやはた かくしてのちに さぶしけむかも
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 也多八→多也八多 [略解]
事項 相聞 作者:紀女郎 大伴家持 贈答 恋愛
訓異 かむさぶと;かみさふと, いなにはあらず;いなにはあらす, はたやはた;ややおほは, さぶしけむかも;さふしけむかも, 
   
  04/0763
題詞 (紀女郎贈大伴宿祢家持歌二首 [女郎名曰小鹿也])
原文 玉緒乎 沫緒二搓而 結有者 在手後二毛 不相在目八方
訓読 玉の緒を沫緒に搓りて結べらばありて後にも逢はざらめやも
仮名 たまのをを あわをによりて むすべらば ありてのちにも あはざらめやも
左注 なし
校異 なし
事項 相聞 作者:紀女郎 大伴家持 恋愛
訓異 あわをによりて;あはをによりて, むすべらば;むすへらは, あはざらめやも;あはさらめやも, 
   
  04/0764
題詞 (紀女郎贈大伴宿祢家持歌二首 [女郎名曰小鹿也])大伴宿祢家持和歌一首
題訓 大伴宿禰家持が和ふる歌一首
原文 百年尓 老舌出而 与余牟友 吾者不猒 戀者益友
訓読 百年に老舌出でてよよむとも我れはいとはじ恋ひは増すとも
仮名 ももとせに おいしたいでて よよむとも われはいとはじ こひはますとも
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 相聞 紀女郎 作者:大伴家持 老 恋情
訓異 おいしたいでて;おいしたいてて, われはいとはじ;われはいとはし, 
   
  04/0765
題詞 在久邇京思留寧樂宅坂上大嬢大伴宿祢家持作歌一首
題訓 久迩くにの京みやこに在りて、寧樂の宅いへに留まれる坂上大嬢を思しぬひて、大伴宿禰家持がよめる歌一首
原文 一隔山 重成物乎 月夜好見 門尓出立 妹可将待
訓読 一重山へなれるものを月夜よみ門に出で立ち妹か待つらむ
仮名 ひとへやま へなれるものを つくよよみ かどにいでたち いもかまつらむ
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 相聞 作者:大伴家持 坂上大嬢 恋愛
訓異 つくよよみ;つきよよみ, かどにいでたち;かとにいてたち, 
   
  04/0766
題詞 (在久邇京思留寧樂宅坂上大嬢大伴宿祢家持作歌一首)藤原郎女聞之即和歌一首
題訓 藤原郎女がこの歌を聞き、即和こたふる歌一首
原文 路遠 不来常波知有 物可良尓 然曽将待 君之目乎保利
訓読 道遠み来じとは知れるものからにしかぞ待つらむ君が目を欲り
仮名 みちとほみ こじとはしれる ものからに しかぞまつらむ きみがめをほり
左注 なし
校異 なし
事項 相聞 大伴家持 坂上大嬢 久邇京 作者:藤原郎女
訓異 みちとほみ;みちともみ, こじとはしれる;こしとはしれる, しかぞまつらむ;しかそまつらむ, きみがめをほり;きみかめをほり, 
   
  04/0767
題詞 大伴宿祢家持更贈大嬢歌二首
題訓 大伴宿禰家持がまた大嬢に贈れる歌二首
原文 都路乎 遠哉妹之 比来者 得飼飯而雖宿 夢尓不所見来
訓読 都路を遠みか妹がこのころはうけひて寝れど夢に見え来ぬ
仮名 みやこぢを とほみかいもが このころは うけひてぬれど いめにみえこぬ
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 相聞 作者:大伴家持 坂上大嬢 夢 贈答
訓異 みやこぢを;みやこちを, とほみかいもが;とほくやいもか, うけひてぬれど;うけひてぬれと, いめにみえこぬ;ゆめにみえこぬ, 
   
  04/0768
題詞 (大伴宿祢家持更贈大嬢歌二首)
原文 今所知 久邇乃京尓 妹二不相 久成 行而早見奈
訓読 今知らす久迩の都に妹に逢はず久しくなりぬ行きて早見な
仮名 いましらす くにのみやこに いもにあはず ひさしくなりぬ ゆきてはやみな
左注 なし
校異 なし
事項 相聞 作者:大伴家持 坂上大嬢 久邇京 地名 贈答
訓異 いましらす;いまそしる, いもにあはず;いもにあはす, 
   
  04/0769
題詞 大伴宿祢家持報贈紀女郎歌一首
題訓 大伴宿禰家持が紀女郎に報贈こたふる歌一首
原文 久堅之 雨之落日乎 直獨 山邊尓居者 欝有来
訓読 ひさかたの雨の降る日をただ独り山辺に居ればいぶせかりけり
仮名 ひさかたの あめのふるひを ただひとり やまへにをれば いぶせかりけり
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 相聞 作者:大伴家持 紀女郎 久邇京 鬱屈 贈答
訓異 ただひとり;たたひとり, やまへにをれば;やまへにをれは, いぶせかりけり;いふせかりけり, 
   
  04/0770
題詞 大伴宿祢家持従久邇京贈坂上大嬢歌五首
題訓 大伴宿禰家持が久迩の京より坂上大嬢に贈れる歌五首
原文 人眼多見 不相耳曽 情左倍 妹乎忘而 吾念莫國
訓読 人目多み逢はなくのみぞ心さへ妹を忘れて我が思はなくに
仮名 ひとめおほみ あはなくのみぞ こころさへ いもをわすれて わがおもはなくに
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 相聞 作者:大伴家持 坂上大嬢 久邇京 贈答
訓異 あはなくのみぞ;あはさるのみそ, わがおもはなくに;わかおもはなくに, 
   
  04/0771
題詞 (大伴宿祢家持従久邇京贈坂上大嬢歌五首)
原文 偽毛 似付而曽為流 打布裳 真吾妹兒 吾尓戀目八
訓読 偽りも似つきてぞするうつしくもまこと我妹子我れに恋ひめや
仮名 いつはりも につきてぞする うつしくも まことわぎもこ われにこひめや
左注 なし
校異 なし
事項 相聞 作者:大伴家持 坂上大嬢 久邇京 怨恨 贈答
訓異 につきてぞする;につきてそする, うつしくも;たちしきも, まことわぎもこ;まことわきもこ, 
   
  04/0772
題詞 (大伴宿祢家持従久邇京贈坂上大嬢歌五首)
原文 夢尓谷 将所見常吾者 保杼毛友 不相志思<者> 諾不所見<有>武
訓読 夢にだに見えむと我れはほどけども相し思はねばうべ見えずあらむ
仮名 いめにだに みえむとわれは ほどけども あひしおもはねば うべみえずあらむ
左注 なし
校異 <>→者 [桂][元][紀] / <>→有 [桂][元][紀]
事項 相聞 作者:大伴家持 坂上大嬢 久邇京 夢 怨恨 贈答
訓異 いめにだに;ゆめにたに, ほどけども;ほとけとも, あひしおもはねば;あひしおもはねは, うべみえずあらむ;たへみえさらむ, 
   
  04/0773
題詞 (大伴宿祢家持従久邇京贈坂上大嬢歌五首)
原文 事不問 木尚味狭藍 諸<弟>等之 練乃村戸二 所詐来
訓読 言とはぬ木すらあじさゐ諸弟らが練りのむらとにあざむかえけり
仮名 こととはぬ きすらあじさゐ もろとらが ねりのむらとに あざむかえけり
左注 なし
校異 茅→弟 [桂][古][紀]
事項 相聞 作者:大伴家持 坂上大嬢 久邇京 難解 植物 贈答 怨恨
訓異 きすらあじさゐ;きすらあちさゐ, もろとらが;もろちらか, あざむかえけり;あさむかれけり, 
   
  04/0774
題詞 (大伴宿祢家持従久邇京贈坂上大嬢歌五首)
原文 百千遍 戀跡云友 諸<弟>等之 練乃言羽<者> 吾波不信
訓読 百千たび恋ふと言ふとも諸弟らが練りのことばは我れは頼まじ
仮名 ももちたび こふといふとも もろとらが ねりのことばは われはたのまじ
左注 なし
校異 茅→弟 [桂] / 志→者 [桂][元][紀]
事項 相聞 作者:大伴家持 坂上大嬢 久邇京 怨恨
訓異 ももちたび;ももちたひ, もろとらが;もろちらか, ねりのことばは;ねりのことはし, われはたのまじ;われはたのます, 
   
  04/0775
題詞 大伴宿祢家持贈紀女郎歌一首
題訓 大伴宿禰家持が紀女郎に贈れる歌一首
原文 鶉鳴 故郷従 念友 何如裳妹尓 相縁毛無寸
訓読 鶉鳴く古りにし里ゆ思へども何ぞも妹に逢ふよしもなき
仮名 うづらなく ふりにしさとゆ おもへども なにぞもいもに あふよしもなき
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 相聞 作者:大伴家持 紀女郎 動物 枕詞 贈答
訓異 うづらなく;うつらなく, ふりにしさとゆ;ふるきさとより, おもへども;おもへとも, なにぞもいもに;なにそもいもに, 
   
  04/0776
題詞 紀女郎報贈家持歌一首
題訓 紀女郎が家持に報贈ふる歌一首
原文 事出之者 誰言尓有鹿 小山田之 苗代水乃 中与杼尓四手
訓読 言出しは誰が言にあるか小山田の苗代水の中淀にして
仮名 ことでしは たがことにあるか をやまだの なはしろみづの なかよどにして
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 相聞 作者:紀女郎 大伴家持 贈答
訓異 ことでしは;ことてしは, たがことにあるか;たかことにあるか, をやまだの;をやまたの, なはしろみづの;なはしろみつの, なかよどにして;なかよとにして, 
   
  04/0777
題詞 大伴宿祢家持更贈紀女郎歌五首
題訓 大伴宿禰家持がまた紀女郎に贈れる歌五首
原文 吾妹子之 屋戸乃籬乎 見尓徃者 盖従門 将返却可聞
訓読 我妹子がやどの籬を見に行かばけだし門より帰してむかも
仮名 わぎもこが やどのまがきを みにゆかば けだしかどより かへしてむかも
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 相聞 作者:大伴家持 紀女郎 怨恨
訓異 わぎもこが;わきもこか, やどのまがきを;やとのまかきを, みにゆかば;みにゆかは, けだしかどより;けたしかとより, かへしてむかも;かへしてむかも, 
   
  04/0778
題詞 (大伴宿祢家持更贈紀女郎歌五首)
原文 打妙尓 前垣乃酢堅 欲見 将行常云哉 君乎見尓許曽
訓読 うつたへに籬の姿見まく欲り行かむと言へや君を見にこそ
仮名 うつたへに まがきのすがた みまくほり ゆかむといへや きみをみにこそ
左注 なし
校異 なし
事項 相聞 作者:大伴家持 紀女郎 恋情
訓異 まがきのすがた;まかきのすかた, 
   
  04/0779
題詞 (大伴宿祢家持更贈紀女郎歌五首)
原文 板盖之 黒木乃屋根者 山近之 明日取而 持将参来
訓読 板葺の黒木の屋根は山近し明日の日取りて持ちて参ゐ来む
仮名 いたぶきの くろきのやねは やまちかし あすのひとりて もちてまゐこむ
左注 なし
校異 なし
事項 相聞 作者:大伴家持 紀女郎 恋愛
訓異 いたぶきの;いたふきの, あすのひとりて;あすもとりては, もちてまゐこむ;もてまゐりこむ, 
   
  04/0780
題詞 (大伴宿祢家持更贈紀女郎歌五首)
原文 黒樹取 草毛苅乍 仕目利 勤<和>氣登 将譽十方不有 [一云仕登母]
訓読 黒木取り草も刈りつつ仕へめどいそしきわけとほめむともあらず [一云仕ふとも]
仮名 くろきとり かやもかりつつ つかへめど いそしきわけと ほめむともあらず [つかふとも]
左注 なし
校異 知→和 [万葉考] / 母 [元][類] 毛
事項 相聞 作者:大伴家持 紀女郎 恋愛 戯笑
訓異 つかへめど;つかへめと, いそしきわけと;ゆめしりゆきと, ほめむともあらず;ほめむともあらす, [つかふとも]
   
  04/0781
題詞 (大伴宿祢家持更贈紀女郎歌五首)
原文 野干玉能 昨夜者令還 今夜左倍 吾乎還莫 路之長手<呼>
訓読 ぬばたまの昨夜は帰しつ今夜さへ我れを帰すな道の長手を
仮名 ぬばたまの きぞはかへしつ こよひさへ われをかへすな みちのながてを
左注 なし
校異 乎→呼 [桂][元][紀]
事項 相聞 作者:大伴家持 紀女郎 枕詞 恋愛
訓異 ぬばたまの;ぬはたまの, きぞはかへしつ;よふへはかへる, みちのながてを;みちのなかてを, 
   
  04/0782
題詞 紀女郎褁物贈友歌一首 [女郎名曰小鹿也]
題訓 紀女郎が裹物つとを友に贈れる歌一首 女郎、名ヲ小鹿ト曰フ
原文 風高 邊者雖吹 為妹 袖左倍所<沾>而 苅流玉藻焉
訓読 風高く辺には吹けども妹がため袖さへ濡れて刈れる玉藻ぞ
仮名 かぜたかく へにはふけども いもがため そでさへぬれて かれるたまもぞ
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 沽→沾 [元][紀]
事項 相聞 作者:紀女郎 贈り物 植物
訓異 かぜたかく;かせたかみ, へにはふけども;へにはふけとも, いもがため;いもかため, そでさへぬれて;そてさへぬれて, かれるたまもぞ;かれるたまもを, 
   
  04/0783
題詞 大伴宿祢家持贈娘子歌三首
題訓 大伴宿禰家持が娘子に贈れる歌三首
原文 前年之 先年従 至今年 戀跡奈何毛 妹尓相難
訓読 をととしの先つ年より今年まで恋ふれどなぞも妹に逢ひかたき
仮名 をととしの さきつとしより ことしまで こふれどなぞも いもにあひかたき
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 相聞 作者:大伴家持 娘子 贈答 恋情
訓異 ことしまで;ことしまて, こふれどなぞも;こふれとなそも, 
   
  04/0784
題詞 (大伴宿祢家持贈娘子歌三首)
原文 打乍二波 更毛不得言 夢谷 妹之<手>本乎 纒宿常思見者
訓読 うつつにはさらにもえ言はず夢にだに妹が手本を卷き寝とし見ば
仮名 うつつには さらにもえいはず いめにだに いもがたもとを まきぬとしみば
左注 なし
校異 牟→手 [西(右書)][桂][元][紀]
事項 相聞 作者:大伴家持 娘子 夢 恋情
訓異 さらにもえいはず;さらにもいはす, いめにだに;ゆめにたに, いもがたもとを;いもかたもとを, まきぬとしみば;まきぬとしみは, 
   
  04/0785
題詞 (大伴宿祢家持贈娘子歌三首)
原文 吾屋戸之 草上白久 置露乃 壽母不有惜 妹尓不相有者
訓読 我がやどの草の上白く置く露の身も惜しからず妹に逢はずあれば
仮名 わがやどの くさのうへしろく おくつゆの みもをしくあらず いもにあはずあれば
左注 なし
校異 なし
事項 相聞 作者:大伴家持 娘子 恋情
訓異 わがやどの;わかやとの, みもをしくあらず;いのちもをしからす, いもにあはずあれば;いもにあはされは, 
   
  04/0786
題詞 大伴宿祢家持報贈藤原朝臣久須麻呂歌三首
題訓 大伴宿禰家持が藤原朝臣久須麻呂に報贈おくれる歌三首
原文 春之雨者 弥布落尓 梅花 未咲久 伊等若美可聞
訓読 春の雨はいやしき降るに梅の花いまだ咲かなくいと若みかも
仮名 はるのあめは いやしきふるに うめのはな いまださかなく いとわかみかも
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 相聞 作者:大伴家持 藤原久須麻呂 比喩 求婚 植物 贈答
訓異 いまださかなく;いまたさかなく, 
   
  04/0787
題詞 (大伴宿祢家持報贈藤原朝臣久須麻呂歌三首)
原文 如夢 所念鴨 愛八師 君之使乃 麻祢久通者
訓読 夢のごと思ほゆるかもはしきやし君が使の数多く通へば
仮名 いめのごと おもほゆるかも はしきやし きみがつかひの まねくかよへば
左注 なし
校異 なし
事項 相聞 作者:大伴家持 藤原久須麻呂 贈答
訓異 いめのごと;ゆめのこと, はしきやし;よしゑやし, きみがつかひの;きみかつかひの, まねくかよへば;まねくかよへは, 
   
  04/0788
題詞 (大伴宿祢家持報贈藤原朝臣久須麻呂歌三首)
原文 浦若見 花咲難寸 梅乎殖而 人之事重三 念曽吾為類
訓読 うら若み花咲きかたき梅を植ゑて人の言繁み思ひぞ我がする
仮名 うらわかみ はなさきかたき うめをうゑて ひとのことしげみ おもひぞわがする
左注 なし
校異 なし
事項 相聞 作者:大伴家持 藤原久須麻呂 比喩 尫柜蹋 植物 贈答
訓異 ひとのことしげみ;ひとのことしけみ, おもひぞわがする;おもひそわかする, 
   
  04/0789
題詞 又家持贈藤原朝臣久須麻呂歌二首
題訓 また家持が藤原朝臣久須麻呂に贈れる歌二首
原文 情八十一 所念可聞 春霞 軽引時二 事之通者
訓読 心ぐく思ほゆるかも春霞たなびく時に言の通へば
仮名 こころぐく おもほゆるかも はるかすみ たなびくときに ことのかよへば
左注 なし
校異 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
事項 相聞 作者:大伴家持 藤原久須麻呂 贈答
訓異 こころぐく;こころくく, たなびくときに;たなひくときに, ことのかよへば;ことのかよへは, 
   
  04/0790
題詞 (又家持贈藤原朝臣久須麻呂歌二首)
原文 春風之 聲尓四出名者 有去而 不有今友 君之随意
訓読 春風の音にし出なばありさりて今ならずとも君がまにまに
仮名 はるかぜの おとにしいでなば ありさりて いまならずとも きみがまにまに
左注 なし
校異 なし
事項 相聞 作者:大伴家持 藤原久須麻呂 贈答
訓異 はるかぜの;はるかせの, おとにしいでなば;おとにしいてなは, ありさりて;ありゆきて, いまならずとも;いまならすとも, きみがまにまに;きみかまにまに, 
   
  04/0791
題詞 藤原朝臣久須麻呂来報歌二首
題訓 藤原朝臣久須麻呂が来報こたふる歌二首
原文 奥山之 磐影尓生流 菅根乃 懃吾毛 不相念有哉
訓読 奥山の岩蔭に生ふる菅の根のねもころ我れも相思はざれや
仮名 おくやまの いはかげにおふる すがのねの ねもころわれも あひおもはざれや
左注 なし
校異 歌 [西] 謌
事項 相聞 作者:藤原久須麻呂 大伴家持 植物 序詞 贈答
訓異 いはかげにおふる;いはかけにおふる, すがのねの;すかのねの, あひおもはざれや;あひおもはされや, 
   
  04/0792
題詞 (藤原朝臣久須麻呂来報歌二首)
原文 春雨乎 待<常>二師有四 吾屋戸之 若木乃梅毛 未含有
訓読 春雨を待つとにしあらし我がやどの若木の梅もいまだふふめり
仮名 はるさめを まつとにしあらし わがやどの わかきのうめも いまだふふめり
左注 なし
校異 <>→常 [西(右書)][元][類][紀]
事項 相聞 作者:藤原久須麻呂 大伴家持 比喩 植物 贈答
訓異 わがやどの;わかやとの, いまだふふめり;いまそくくめり,