徒然草2段 いにしへの聖の御代の:完全対訳解説

いでやこの世に 徒然草
第一部
2段
いにしへの聖
よろづに

 

原文 現代語訳 解釈上の問題点
 いにしへの聖の御代の  いにしえの聖人・聖帝の代の ●聖=古来渡来概念。孔子など世と国を超え模範となる人物。
△徳の高い+天子(旧大系):
 天子=渡来概念。天皇は「聖」の語義とは異なる。
×天皇(醍醐・村上:900年代前半)とする説もあるが、それは各人の価値観。
 著者は藤原と天皇をあげ、両者の300年の幅からすると奈良以前もある。
政をも忘れ、 政治も忘れ、  
民の愁、 民の憂いや、 ・愁【しゅう・うれい】
国のそこなはるるをも知らず、 国が損なわれることも知らず、  
よろづにきよらをつくして 全てに美麗を尽くして ・きよら【清ら】
いみじと思ひ、 凄いと思い、 〇いみじ:甚だしいの口語調で凄い。
所せきさましたる人こそ、 これ見よがしの人こそ、 〇所せし【所狭し】:これ見よがし(独自)
△あたりせましとえらそうにふるまっている(旧大系・全注釈)、
△ぎょうさんな・傍若無人(全注釈の注)、
△財宝をぎっしり溜め込んだ様子(角ソ)
 相手側:でかい態度、大袈裟、沢山の金・権力・能力・物を持ってる直接間接のアピール
 例:服や袋等の目につくでかいロゴ、地位資格肩書の羅列等
 受手側:大袈裟・面倒・目につく・下品(上記の状態に対する各人の印象)
うたて、 ひどく不快で、 ・うたて【転】:ひどい・不快
思ふ所なく見ゆれ。 考えなしに見える。  無思慮とせず語調に合わせた
     
「衣冠より馬、車にいたるまで、 衣服・冠から馬・車に至るまで、  
あるにしたがひて用ゐよ。 あるに従って用いよ。  
美麗を求るなかれ」とぞ、 美麗を求めるでない」と、  
九条殿の遺誡 九条殿の『遺誡』 ・九条殿:右大臣・藤原師輔(~960)
にも侍る。 にもあられる。 ●はべり:あり+謙譲丁寧。自分を下げて相手を上げる。
     基本の訳は「ございます」(①敬意対象に、②私・誰々はございます)。
 しかし断定調の徒然草で突然「ございます」は不自然なので、かしこまって相手を上げる意味にした。
順徳院の、 順徳院が、 順徳天皇(~1242)
禁中の事ども 宮中の事などを ・『禁秘抄
書かせ給へるにも、 お書きなされたのにも、 ・たまふ:下さる、お~なさる ・せたまふ:最高敬語
「おほやけの奉り物は、 「公への奉納物は、 ・「天位着御物以疎為美」を引いたとされるが、表現が異なる(これ見よがしではなくなっている)。
おろそかなるもの 粗末な(=派手でない)もの ・おろそかなり:粗略な。
 ただし天皇のおろそか(粗末・適当)は、普通の人の粗末・適当と基本異なる
をもてよしとす」 をもって良しとする」 ・よし:禁秘抄では「美」。先行する「美麗」と対にして理解する。
とこそ侍れ。 とあられることだ。 ●はべり:上記九条部分参照。
 ここでは謙譲を係り結びで強調しているので、裏返して強めの敬語とした。
 謙譲丁寧は尊敬の特別概念で当然尊敬