徒然草11段:神無月のころ 完全対訳解説

家居 徒然草
第一部
11段
神無月のころ
同じ心

 

原文 現代語訳
     
 神無月
のころ、
栗栖野
といふ所を
過ぎて、
十月
のころ、
栗栖野
という所を
過ぎて、
 
ある山里に
たづね入る
こと
侍りしに、
ある山里に
尋ね入る
ことが
あった時に、
〇侍りし=仕った(予定) 
△ありました(丁寧は不自然)
はるかなる
苔の細道を
踏み分けて、
心細く
住みなしたる
庵あり。
はるかなる
苔の細道を
踏み分けて、
心細く
住みなしている
庵があった。
●苔の細道:
奥の細道の由来と解する(独自)
根拠は風流と見せかけて滑稽な所
滑稽が俳諧第一の特徴
     
木の葉に
うづもるる
懸樋の
しづく
ならでは、
つゆ
おとなふもの
なし。
 木の葉に
うずもれている
架け樋の
しずく
以外には、
つゆほども
音を立てるものが
ない。
・ならでは=でなければ
●つゆ=副詞(cf.露知らず)
縁語ではなく掛詞的用法(独自)
     
閼枷棚に
菊、紅葉など
折り散らしたる、
さすがに
住む人の
あれば
なるべし。
小さな棚に
菊や紅葉など
折って散らしてるのは、
さすがに
住む人が
いるからに
違いない。
 
     
かくても
あられけるよと、
あはれに
見るほどに、
 こんな所にも
人はいたんだなぁと、
しみじみと
見るほどに、
・かくてもあられけるよ
かなたの庭に、
大きなる
柑子の木の、
枝もたわわに
なりたるが、
遠くの庭に、
大きな蜜柑の木が、
枝の実もたわわに
なっていたのだが、
 
まはりを
きびしく
囲ひたりし
こそ、
少し
ことさめて、
その周りを
厳しく
囲っていた
ことが、
少し
興ざめで、
 
この木
なからまし
かば
と覚えしか。
この木が
なければよかった
のに
と思われたような。
・覚えしか