徒然草92段 ある人弓射ることを習ふに:完全対訳解説

赤舌日 徒然草
第三部
92段
ある人弓射る
牛を売る者

 

原文 現代語訳 解釈上の注意点
 ある人、弓射ることを習ふに、  ある人が、弓を射ることを習う時に、  
諸矢をたばさみて的に向かふ。 諸矢を手に挟んで的に向かう。 ・諸矢=甲と乙の矢
     
師のいはく、「初心の人、二つの矢を持つことなかれ。  師がいわく、「初心の人は、二つの矢をもたないように。 〇なかれ:願望希望
のちの矢を頼みて、初めの矢になほざりの心あり。 後の矢を当てにして、初めの矢をなおざりにする心がある。  
毎度ただ得失なく、 毎回ただもう一心に、当たる当たらないではなく、 ・得失=分別(75段)
この一矢に定むべしと思へ」と言ふ。 この一矢で決めようと思え」と言う。 〇定む
     
わづかに二つの矢、師の前にて一つをおろかにせんと思はんや。  わずかに二つの矢を、師の前で一つをおろそかにしようと思うだろうか(自分では思わないだろう)。 ●反語解釈
懈怠の心、みづから知らずといへども、師これを知る。  怠ける心は、自分では分からないと(そんなことないと)いっても、師はこれが分かる。  
このいましめ、万事にわたるべし。  この戒めは、万事に通じるだろう。  
     
 道を学する人、夕には朝あらんことを思ひ、朝には夕あらんことを思ひて、重ねてねんごろに修せんことを期す。  道を修める人は、夕には明日の朝があることを思い、朝には夕があることを思って、その度に念入りに学ぼうと決意する。 ●道:仏道非限定
いはんや一刹那の内において、懈怠の心あることを知らんや。  いわんや、今この瞬間において、怠け心があることを知るだろうか。 ●一刹那=今この瞬間
何ぞ、ただ今の一念において、ただちにすることのはなはだ難き。  何と(なぜ)、ただ今この時において、すぐに(〇おろそかにせず ×単に実行)することが甚だ難しいのか。 〇何ぞ:感嘆+疑問・問い掛け
●ただちにする:単なる実行では前段の趣旨を没却