徒然草109段 高名の木登り:完全対訳解説

寸陰惜しむ人 徒然草
第三部
109段
高名の木登り
双六の上手

 

原文 現代語訳 解釈上の注意点
 高名の木登りといひし男、  名高い木登りといった男が、  
人をおきてて、 人に命じて、 ・おきつ
高き木に登せて梢を切らせしに、 高い木に登らせて枝先を切らせたところ、 ・梢
いと危ふく見えしほどは言ふこともなくて、 とても危なく見えた所は言うこともなくて、 ・ほど
降るるときに、軒たけばかりになりて、 降りる時に、軒の高さほどになって ・ばかり
「あやまちすな。心して降りよ」 「過ちをするな、心して降りよ」  
とことばをかけ侍りしを、 と言葉をかけましたので、 ・はべり:~ます ・を(格助or接助)
「かばかりになりては、 「これくらいになったら、  
飛び降るとも降りなん。 飛び降りても降りれるだろう。  
いかにかく言ふぞ」 なぜにこのように言うのか」 ・かく(斯く)
と申し侍りしかば、 と申しましたらば、 ・ば
「そのことにさうらふ。 「そのことでございます。 ・さうらふ:ございます
目くるめき、枝危ふきほどは、 目がくらむように危ない間は、  
己が恐れはべれば申さず。 自分で恐れますので申しません。  
あやまちは、やすき所になりて、 過ちは、簡単な所になって(安心して油断すると)、 ・やすし:後述「やすく思へば」を補う
必ずつかまつることにさうらふ」 必ず致してしまうことでございます」 〇つかまつる:致す・します
と言ふ。 と言う。  
     
 あやしき下臈なれども、  賤しい低い身分の男ではあるが、  ・高低上下の対比
聖人の戒めにかなへり。 聖人の戒めにかなっている(いた)。 ・り(存続or完了)
まりも、かたき所を蹴いだしてのち、 鞠も、難しい所を蹴り出した後で、  
やすく思へば、必ず落つと侍るやらん。 簡単と思うと、必ず落ちるといいますような。 〇やらん:感嘆伝聞婉曲 ×疑問