徒然草189段 今日はそのことをなさむと思へど:完全対訳解説

ある者子を法師になして 徒然草
第五部
189段
今日はそのことをなさむと

 

原文 現代語訳 解釈上の問題点
 今日はそのことをなさむと思へど、  今日はそのことをしようと思っても、  
あらぬ急ぎまづ出で来て、 思いもしない急用がまず出て来て、  
まぎれ暮らし、 それにまぎれて暮らし、  
待つ人は障りありて、 待つ人は支障があって(来ず)、  
頼めぬ人は来り、 頼んでもない当てにできない人は来たり、  
頼みたる方のことは違ひて、 頼んでいた方のことは当てが外れて、 〇方=方向+人
思ひよらぬ道ばかりはかなひぬ。 思いも寄らない方向ばかりが叶ってしまう。  
     
わづらはしかりつることは 煩わしかったことは  
ことなくて、 何事もなくて、  
やすかるべきことは 容易であるはずのことは  
いと心苦し。 とても心を悩ませる。 〇心苦し:心苦しい・わずらわしい
→心労(角川)、めんどうになる(旧大系)
△つらい(全集・全注釈)
→この文脈(わずらわしさ)とは違う。
 解釈は対となる文言に則り、何となくでしない
     
日々に過ぎゆくさま、 日々において過ぎていく有様は、  
かねて思ひつるには似ず。 かねて思っていたのとは異なる。  
一年のうちもかくのごとし。 一年の間もこのようなものだ。  
一生の間もまたしかりなり。 一生の間もまたそうである。  
     
 かねてのあらまし、  かねて思い描いた筋書きは、 〇あらまし:願望・期待・あらすじ
→あり+まし=あってほしい
みな違ひゆくかと思ふに、 みな違っていくかと思うと、  
おのづから違はぬこともあれば、 自然とその通りになることもあるので、  
いよいよものは定めがたし。 ますます物事は定めがたい。 ●定め:決定・確定・はっきりさせる
→一概に決めること+はむずかしい(全注釈)
△予定すること+がむずかしい(全集。限定解釈)
×当てに+ならない(角川。「がたし」が異なる)
     
不定と心得ぬるのみ、 定まらないと理解することのみ、  
まことにて違はず。 真実であるに違いない。 ●にて違わず:…に違いない(確信。非断定)
※いたずらに分解せず一連のフレーズで見る
×はずれっこない(旧大系)
×はずれることがないのだ(全注釈)
×狂わないのだ(全集)
※不定の文脈で断定訳はおかしい
    参考:定めし・定めて:恐らく・きっと