大和物語160段:同じ内侍に、在中将すみける時

染殿の内侍 大和物語
第六部
160段
在中将
ひじき物

登場人物

 
 ♪♪♀おなじ内侍
 ♪♪×在中将(著者誤認定。染殿との対比で縫殿で二条の后に仕えた文屋の物語が、業平で上書きされた(独自)。伊勢物語にはない貴重なエピソード)

原文

 
 
 おなじ内侍に、
 在中将すみける時、中将のもとによみてやりける。
 

♪266
  秋萩を 色どる風の 吹きぬれば
  人の心も うたがはれけり

 
 とありければ、
 

♪267
  秋の野を 色どる風は 吹きぬとも
  心はかれじ 草葉ならねば

 
 となむいへりける。
 

 かくてすまずなりてのち、
 中将のもとより、衣をなむ、しにおこせたりける。
 それに、
 「あらはひなどする人なくて、いとわびしくなむある。
 なほかならずして給へ」
 となむありければ、
 
 内侍、
 「御心もてあることにこそはあなれ。
 

♪268
  大幣に なりぬ人の 悲しきは
  よるせともなく しかぞなくなる

 
 」となむ、いひやりける。
 
 中将、
 

♪269
  なかるとも なにとか見えむ 手にとりて
  ひきけむ人ぞ 幣と知るらむ

 
 となむいひける。
 
 

染殿の内侍 大和物語
第六部
160段
在中将
ひじき物