♪季縄の少将
近江守・公忠の君
季蝿の少将、
病にいといたうわづらひて、
すこしおこたりて、内にまゐりたりけり。
近江守・公忠の君、
掃部のすけにて蔵人なりけるころなりけり。
その掃部のすけにあひて、いひけるやう、
「みだり心地は、まだおこたりはてねど、
いとむつかしう、心もとなくはべればなむ、まゐりつる。
のちは知らねど、かくまで侍ること、まかりいでて、明後日ばかりまゐり来む。
よきに奏したまへ」
などいひおきて、まかでぬ。
三日ばかりありて、
少将のもとより文をなむ、おこせたりけるを見れば、
♪149
くやしくぞ のちにあはむと 契りける
今日をかぎりと いはましものを
とのみ書きたり。
いとあさましくて、涙をこぼして使に問ふ。
「いかがものしたまふ」
と問へば、
使も、
「いと弱くなりたまひにたり」
といひて泣くを聞くに、
さらにえ聞こえず。
「みづからただいま、まゐりて」
といひて、
里に車とりにやりて待つほど、いと心もとなし。
近衛の御門にいでたちて、待ちつけて乗りてはせゆく。
五条にぞ少将の家あるにいきつけて見れば、
いといみじうののしりて、門さしつ。
死ぬるなりけり。
消息いひ入るれど、なにのかひなし。
いみじう悲しくて、泣く泣くかへりにけり。
かくてありけることを、上の件、奏しければ、
帝もかぎりなくあはれがりたまひける。