原文 |
書き下し 漢文叢書 |
現代語訳 下村湖人 要検討 |
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子曰 | 子曰く、 | 先師がいわれた。 |
「私の子供のころには、 まだ人間が正直で、いいことが行われていた。 たとえば、 |
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吾猶 及 史之闕文 也 |
吾われ猶なほ 史しの闕文けつぶんに 及およぶ、 |
史官が疑わしい点があると、 調査研究がすむまでは、 そこを空白にしておくとか、 |
有馬者 | 馬うま有ある者ものは、 | 馬の所有者は |
借人乘之 | 人ひとに借かして之これに乗のらしむ、 | 気持よく人に貸して乗らせるとかいうことだ。ところが、 |
今亡矣夫 | 今いまは亡なきかな。 | 今はそういうことがまるでなくなってしまった。」 |
○ この章の原文は、極めて難解で、ほとんど意味が通らない。古来の通説に従つて、いろいろ言葉を補つて一応訳しては見たが、その通説が果して正しいかどうか疑問である。「吾猶及」の三字を「私の幼時にはこんなことを聞いたこともある」と解するのに第一無理があるし、「史之闕文」と「有馬者云々」とを並べるのも変である。一説には、「闕文」は本章の文章に闕文があつたので、誰かがその二字を書いておいたのが、いつの間にか本文になつてしまつたといわれている。あるいはそれが最も真実に近いかも知れぬ。もしそうだとすれば、本章は意義不明として訳などしない方が賢明であろう。