原文 |
書き下し 漢文叢書 |
現代語訳 下村湖人 要検討 |
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子路 從而後 |
子路しろ 從したがひて後おくる。 |
子路が 先師の随行をしていて、道におくれた。 |
遇丈人 以杖 荷蓧 |
丈人じやうじんの 杖つゑを以もつて 蓧でうを荷になふに遇あふ。 |
たまたま一老人が 杖に 草籠をひっかけてかついでいるのに出あったので、 |
子路問曰 | 子路しろ問とふて曰いはく、 | 彼はたずねた。 |
子見夫子乎 | 子し夫子ふうしを見みたるか。 | 「あなたは私の先生をお見かけではありませんでしたか。」 |
丈人曰 | 丈人じやうじん曰いはく、 | 老人がこたえた。 |
×「なに? 先生だって? お見かけするところ、 | ||
四體不勤 | 四体したい勤つとめず、 | その手足では百姓仕事をなさるようにも見えず、 |
五穀不分 | 五穀ごこく分わかたず、 | 五穀の見分けもつかない方のようじゃが、 |
孰爲夫子 | 孰たれをか夫子ふうしと為なすと。 | それでいったいお前さんの先生というのはどんな人じゃな。」 |
植其杖而芸 | 其杖そのつゑを植たてて芸くさぎる。 | 老人はそれだけいって杖を地につき立てて、草をかりはじめた。 |
子路拱而立 | 子路しろ拱きようして立たつ。 | 子路は手を胸に組んで敬意を表し、そのそばにじっと立っていた。 |
止子路宿 | 子路しろを留とゞめて宿しゆくせしめ、 | すると老人は何と思ったか、子路を自分の家に案内して一泊させ、 |
殺雞 爲黍而 食之 |
雞にはとりを殺ころし 黍しよを為つくりて 之これに食くらはしめ、 |
鶏をしめたり、 黍飯きびめしをたいたりして 彼をもてなしたうえに、 |
見其二子焉 | 其その二子しを見まみえしむ。 | 自分の二人の息子を彼にひきあわせ、ていねいにあいさつさせた。 |
明日 | 明日みやうにち、 | 翌日、 |
子路行以吿 | 子路しろ行ゆきて以もつて告つぐ。 | 子路は先師に追いついて、その話をした。 |
子曰 | 子曰く、 | すると先師はいわれた。 |
隱者也 | 隱者いんじやなりと。 | 「隠者だろう。」 |
使子路 反見之 |
子路しろをして 反かへつて之これを見みしむ。 |
そして、子路に、 もう一度引きかえして会って来るように命じられた。 |
至則行矣 | 至いたれば則すなはち行されり。 | 子路が行って見ると、老人はもういなかつた。 |
子路曰 | 子路しろ曰いはく、 | 子路は仕方なしに、二人の息子にこういって先師の心をつたえた。 |
不仕無義 | 仕つかへざれば義ぎ無なし、 | 「出でて仕える心がないのは義とはいえませぬ。 |
長幼之節 | 長幼ちやうえうの節せつは | もし、長幼の序が |
不可廢也 | 廃はいす可べからざるなり、 | 大切でありますなら、 |
君臣之義 | 君臣くんしんの義ぎは、 | 君臣の義を |
如之何 其廢之 |
之これを如何いかにして 其それ之これを廃はいせん、 |
すてていいという 道理はありますまい。 |
欲潔 其身 |
其身そのみを 潔いさぎよくせんと欲ほつして、 |
道が行われないからといって自分の一身を いさぎよくすれば、 |
而亂大倫 | 大倫たいりんを乱みだる、 | 大義をみだすことになります。 |
君子之仕也 | 君子くんしの仕つかふるや、 | 君子が出でて仕えるのは、 |
行其義也 | 其その義ぎを行おこなふなり、 | 君臣の義を行うためでありまして、 |
道之不行 | 道みちの行おこなはれざるは、 | 道が行われないこともあるということは、 |
已知之矣 | 已すでに之これを知しれり。 | むろん覚悟のまえであります。」 |
○ 子路の言葉は、孔子の意をつたえたのであるか。自分の考えをのべたのであるか、また、誰に向つてそういつたのであるか、原文だけでは明らかでないが、諸説を參考にして補足して訳した。なお、子路が、特に長幼の序を引きあいに出したのは、前日老人が二子をして長者に対する礼を以て子路を迎えさせたからであろうと想像されている。