原文 |
書き下し 漢文叢書 |
現代語訳 下村湖人+【独自】 要検討 |
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季氏 將 伐 顓臾 |
季氏きし 将まさに 顓臾せんゆを 伐うたんとす。 |
季氏(=魯の三家の一人、季孫)が 【今まさに】 魯の保護国 顓叟せんゆを 討伐しようとした。 |
冉有 季路 見於孔子 曰 |
冉有ぜんいう・ 季路きろ、 孔子こうしに見まみえて、 曰いはく、 |
季氏に仕えていた冉有と 季路(=子路)とが 先師にまみえて いった。 |
季氏 將 有事 於 顓臾 |
季氏きし 将まさに 顓臾せんゆに 事こと有あらんとす。 |
「季氏が 【今まさに(この反復につき章末対応)】 顓叟せんゆ に対して 事を起そうとしています。」 |
孔子曰 | 孔子こうし曰く、 | 先師がいわれた。 |
求 | 求きう | 「求きゅう(冉有の名)よ、 |
無乃爾 是過與 |
乃すなはち爾なんぢ 是これ過あやまつ無なきか。 |
もしそうだとしたら、それはお前が わるいのではないのかね。 |
夫顓臾 | 夫それ顓臾せんゆは、 | いったい顓叟せんゆという国は、 |
昔者 先王以 爲 東蒙主 |
昔むかし 先王せんわう以もつて 東蒙とうもうの主しゆ と為なす、 |
昔、 周王が 東蒙とうもう山の近くに領地を与えて その山の祭祀をお命じになった国なのだ。 |
且在 邦域之 中矣 |
且かつ 邦域はうゐきの 中うちに在あり、 |
それに、 今では魯の支配下に はいっていて、 |
是 社稷 之臣也 |
是これ 社稷しやしよく の臣しんなり、 |
その領主は明らかに 魯の【※社稷=周代の祭祀→国家】 臣下だ。 |
何 以伐爲 |
何なんぞ 伐うつを以もつて為せん。 |
【どうして 討伐などできるのか】 |
△同じく魯の臣下たる季氏が 勝手に討伐など出来る国ではないだろう。」 |
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冉有曰 | 冉有ぜんいう曰いはく、 | 冉有がいった。 |
夫子 欲之 |
夫子ふうし 之これを欲ほつす、 |
「主人が やりたがって困るのです。 |
吾 二臣者 皆 不欲也 |
吾われ二臣にしんの者ものは 皆みな 欲ほつせざるなり。 |
私共は 二人とも 決して【皆=全員と全くの掛詞と解す。独自】 賛成しているわけではありませんが……」 |
(○ 冉有と子路とでは、子路の方が先輩であるのに、 冉有だけがものをいつているのは、彼が季氏に信任され、 主として謀議にあずかつていたからだろうと想像されている。) |
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孔子曰 | 孔子こうし曰く、 | 先師がいわれた。 |
求 | 求きう、 | 「求きゅうよ、 |
周任 有言 曰 |
周任しうにん 言いへる有あり、 曰いはく |
昔、周任しゅうにんという人 (○周任=古代の史官であつた)は |
『陳力 就列 |
力ちからを陳のべて、 列れつに就つく、 |
『力のかぎりをつくして 任務にあたり、 |
不能者 止』 |
能あたはざれば 止やむと。 |
任務が果せなければ その地位を退け。 |
危而 不持 顚而 不扶 |
危あやふくして 持ぢせず、 顚てんして 扶たすけずんば、 |
【危ういのに】×盲人がつまずいた時に 支えてやることが出来ず、 ころんだ時に たすけ起すことが出来なければ、 |
則將焉 用彼相矣 |
則すなはち将また焉いづくんぞ 彼かの相しやうを用もちひん。 |
【それでまた一体どうして、 そういう者を(他でも)部下として登用しようとなるか。】 |
×手引きはあっても無いに等しい』 といっているが、全くその通りだ。 お前のいうことは、いかにもなさけない。 |
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且爾言過矣 | 且かつ爾なんぢの言げん過あやまてり。 | 【かつ、そなたの発言は誤っている。】 |
虎兕 出於柙 |
虎兕こじ 柙をりより出いで、 |
もしも虎や野牛が 檻から逃げ出したとしたら、それはいったい誰の責任だ。 |
龜玉 毀於 櫝中 |
亀玉きぎよく 櫝中とくちうに毀やぶれば、 |
また亀甲や宝石が 箱の中で こわれていたとしたら、 |
是 誰之過與 |
是これ 誰たれの過あやまちか。 |
それはいったい 誰の罪だ。よく考えて見るがいい。」 |
冉有曰 | 冉有ぜんいう曰いはく、 | 冉有がいった。 |
×仰しゃることはごもっともですが、しかし | ||
今夫 顓臾 固而 近於費 |
今いま夫かの 顓臾せんゆは、 固かたくして 費ひに近ちかし、 |
「現在【か】の 顓叟せんゆは、 要害堅固で、 季氏の領地の費ひにも近いところでございますし、 |
今不取 後世必 爲子孫憂 |
今いま取とらざれば、 後世こうせい必かならず 子孫しそんの憂うれへを為なさん。 |
今のうちに始末をしておきませんと、将来、 子孫の心配の種になりそう にも思えますので……」 |
孔子曰 | 孔子曰く、 | 先師がいわれた。 |
求 | 求きう、 | 「求きゅう(冉有の名)、 |
君子 疾 夫 舍曰 欲之而 必爲之辭 |
君子くんしは 夫かの 之これを欲ほつすと 曰いふを舍おいて、 必かならず之これが辞じを為なすを 疾にくむ。 |
君子というものは、 自分の 本心を 率直にいわないで、 あれこれと言葉をかざるのを にくむものだ。 |
丘也 聞 |
丘きうや 聞きく、 |
私は こういうことを聞いたことがある。 |
有國 有家者 |
国くにを有たもち 家いへを有たもつ者ものは、 |
【主君】×諸侯や 【主人】×大夫たる者は |
不患寡而 患不均 |
寡すくなきを患うれへずして、 均ひとしからざるを憂うれふ、 |
その領内の人民の貧しいのを憂えず、 富の不平均になるのを憂え、 |
不患貧而 患不安 |
貧ひんを患うれへずして、 安やすからざるを患うれふ。 |
人民の少いのを憂えず、 人心の安定しないのを憂えるというのだ。 |
(○「乏しきをうれえず、均しからざるをうれう」 という名高い言葉は、ここに出所がある。) |
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蓋 均 無貧 |
蓋けだし 均ひとしければ 貧まづしきこと無なく、 |
私の考えるところでは、 富が平均すれば 貧しいこともなく、 |
和 無寡 |
和わすれば 寡すくなきこと無なく、 |
人心がやわらげば 人民がへることもない。 |
安 無傾 |
安やすければ 傾かたむくこと無なし。 |
そして人心が安定すれば 国が傾くこともないだろう。 |
夫如是 | 夫それ是かくの如ごとし。 | かようなわけだから、 |
故 遠人 不服 |
故ゆゑに 遠人ゑんじん 服ふくせざれば、 |
もし遠い土地の人民が 帰服しなければ、 |
則 修文德 以 來之 |
則すなはち 文徳ぶんとくを脩をさめて 以もつて 之これを来きたす。 |
文教徳化をさかんにして 自然に 慕って来るようにするがいいし、 |
既 來之 |
既すでに 之これを来きたせば、 |
すでに 帰服して来たものは |
則 安之 |
則すなはち 之これを安やすんず。 |
安んじて生を楽むようにしてやるがいい。 |
今 由與 求也 相 夫子 |
今いま 由いうと 求きうと、 夫子ふうしを 相たすけ、 |
今、きいていると、 由ゆうも 求きゅうも、 季氏を 輔佐していながら、 |
遠人 不服而 不能 來也 |
遠人ゑんじん 服ふくせずして 来きたす 能あたはざるなり。 |
遠い土地の人民を 帰服させることが 出来ず、 |
邦分崩 離析而 |
邦くに分崩ぶんほう 離析りせきして、 |
国内を四分 五裂させて、 |
不能 守也 |
守まもる 能あたはざるなり。 |
【守ることができず、】 ×その収拾がつかず、 |
而 謀動 干戈 於邦內 |
而して 干戈かんくわを 邦内はうないに 動うごかすを謀はかる。 |
しかも 領内に 兵を動かして 動乱をひきおこそうと策謀している。 |
×もっての外だ。 | ||
吾恐 季孫之憂 不在 顓臾 而在 蕭牆之內也 |
吾われ、 季孫きそんの憂うれへ、 顓臾せんゆに 在あらずして、而して 蕭牆せうしやうの内うちに 在あるを恐おそる。 |
私は、 |
【※蕭牆(ショウショウ):君臣の会見場所に設けた囲い。 転じて内輪・身内・国内等、多義的だが、 本章の文脈では、まさに今この会見の場と身内の掛詞と解し(独自)、 これが冒頭の表現と合わせて三対をなす(そして三人いる)。 一般のように季氏の問題とするのみならず、 孔子門内の問題と見た。よって恐れている。 特に冉有の最後の発言と、それを止めない子路。 これが孔子の「帝心朕躬有罪」思想(20-1)。 以下の下村訳では専ら季氏側の問題とするから、 「恐」の部分がなくなっている 】 |
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×垣根のうちにある と思うがどうだ。」 |