原文 実践女子大本 (定家本系筆頭) |
現代語訳 (渋谷栄一) |
注釈 【渋谷栄一】 |
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たまさかに | 時たまに | |
返り事したりける人、 | 返事をした人が、 | 【たまさかに返り事したりける人】-作者自身、第三者的に表現している。古本系の陽明文庫本では「たまさかに返り事したりける後」とある。底本「けり」は「ける」の誤写とみて訂正する。 |
後に又も書かざりけるに、 | 後に再び書かなかったところ、 | |
男、 | 男が、 | 【男】-実践本「おとこ」は定家の仮名遣い。 |
折々に | 折々に | 【折々に】-「おり/\」は定家の仮名遣い。 |
書くとは見えて | 返事を書くとは見えたが、 | |
ささがにの | ささがにのように | 【ささがにの】-枕詞、「い」に掛る。「ささがに」は蜘蛛のこと。「い」は蜘蛛の網、巣。「書く」に「掛く」を響かす。 |
いかに思へば | どのように思えば | |
絶ゆるなるらむ | 絶えることになるのでしょう | |
*「紫式部がもとへふみつかはしける返事をたまさかにのみし侍りけるが、猶かきたえにけるにつかはしける よみ人しらず
をりをりにかくとはみえてささがにのいかにおもへばたゆるなるらん」(尊経閣文庫本「続古今集」恋五 一三七二)