原文 実践女子大本 (定家本系筆頭) |
現代語訳 (渋谷栄一) |
注釈 【渋谷栄一】 |
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卯月に | 四月に | 【卯月】-寛弘四年(一〇〇七)四月のこと。 |
八重咲ける桜の花を、 | 八重に咲いた桜の花を、 | |
内裏にて、 | 宮中で見て、 | |
九重に | 八重桜が九重の宮中で | |
匂ふを見れば | 咲いているのを見ると、 | |
桜がり | 桜のもとに | 【桜がり】-桜の木のもと。 |
重ねて来たる | 重ねてやって来た | |
春の盛りか | 春の盛りでしょうか | |
*「ゐんの中宮と申してうちにおはしまししとき、ならより、ふこうそうづといふ人のやへざくらをまゐらせたりらせたりしに、これはとしごとにさぶらふひとびとただにはすごさぬを、ことしはかへり事せよ、とおほせごとありしかば
いにしへのならのみやこのやへざくら今日ここのへににほひぬるかな
ゐんの御かへし
ここのへににほふをみればさくらがりかさねてきたるはるかとぞ見る」(東海大学本「伊勢大輔集」一五)
*「女院の中宮と申しける時、内におはしまいしに、ならから僧都のやへざくらをまゐらせたるに、こ年のとりいれ人はいままゐりぞとて紫式部のゆづりしに、入道殿きかせたまひて、ただにはとりいれぬものをとおほせられしかば
いにしへのならのみやこのやへ桜けふ九重ににほひぬるかな
とのの御まへ、殿上にとりいださせたまひて、かむだちめ君達ひきつれてよろこびにおはしたりしに、院の御返
ここのへににほふをみれば桜がりかさねてきたるはるかとぞ思ふ」(彰考館本「伊勢大輔集」六)
「伊勢大輔集」では中宮彰子の返歌となっているが、「紫式部集」にある歌で、また「続後拾遺集」(一五七)や「秋風集」(一四〇)では紫式部の歌となっている。この歌は紫式部が中宮彰子に代わって代作した歌である。(以上渋谷注)