原文 (実践女子大本) |
現代語訳 (渋谷栄一) |
注釈 【渋谷栄一】 |
---|---|---|
近江守の女、 | 近江守の娘に、 | 【近江守の女】-誰であるか不明。 |
懸想すと聞く人の | 求婚しているという評判の人が、 | 【懸想すと聞く人】-のちに夫となる藤原宣孝のこととされる。 |
「二心なし」など、 | 「あなた以外に、二心ありません」などと、 | 【二心なし】-作者に言ったことば。 |
常に言ひわたりければ、 | いつも言い続けていたので、 | |
うるさくて、 | わずらわしくなって、 | |
湖の | 湖の | |
友呼ぶ千鳥 | 友を呼ぶ千鳥よ、 | |
ことならば | 同じことならば | 【ことならば】-同じことならば、の意。 |
八十の湊に | たくさんの湊に | 【八十の湊】-たくさんの湊。多くの女性を譬喩する。 |
声絶えなせそ | 声をかけなさい | 【声絶えなせそ】-副詞「な」--終助詞「そ」禁止を表す。声を絶やすな、求婚の声をかけよ、の意。 |
「冬歌中 紫式部
水うみにともよぶちどりことならばやそのみなとにこゑたえずなけ
この歌は、あふみのかみの女けさうしける人の、ふた心なしとつねにいひわたりければ、うるさくてよめると云々」(静嘉堂文庫本「夫木和歌抄」冬二 千鳥 六七五〇)