原文 (実践女子大本) |
現代語訳 (渋谷栄一) |
注釈 【渋谷栄一】 〈適宜当サイトで補注〉 |
---|---|---|
〈本歌の詞書の「脱落」を推測するのが有力だが、83~84~85で一体をなし詞書を想定する必要がない。また以下の通り夫の歌とみなすのが通説だが文脈に具体的根拠がなく、これは83け近くての「人」で、この人は83番歌の内容との符合から58深山辺のの「ほのかに語らひける人」と解する(独自)〉 |
||
峯寒み | 今は峯が寒いので |
【峯寒み】-峯に雪が積もって寒いので。宣孝の返歌。〈宣孝は不適。後述〉 |
岩間凍れる | 岩間で凍っている | |
谷水の | 谷水のように浅い水ですが | |
行く末しもぞ | 行く末は水嵩も増して | 【行く末しもぞ深くなるらむ】-夫婦仲も行く行くは深くなっていくでしょう、の意。〈夫婦を補うのは不適〉 |
深くなるらむ | 深くなっていくでしょう | |
この歌を通説は「宣孝の歌であろう」(新大系・集成)とするが根拠も示さない憶測に過ぎない。争いない夫の歌、33番「底見ゆる石間の水は絶えば絶えなむ」の内容とも歌序とも相容れない。 また夫は女複数なのに夫は一人とみなすのは男目線が過ぎ、よって「詞書がないが、男性からの求愛の歌」(和歌文学大系:中周子)という説もある。 稀代の恋愛物語を書いた紫式部が結婚前は女友達としかやりとりせず、若い美男子に人妻に言い寄る物語を書いた紫式部が、高齢夫の死亡後になお一途に高齢夫を慕い続けるという見立ては、想像が過ぎる。
この歌は57番「閉ぢたりし岩間の氷うち解けばをだえの水も影見えじやは」と58番「深山辺の花吹きまがふ谷風に結びし水も解けざらめやは」との符合・同じ話題(ここでは氷から水が見えている)から、そこで言い交わした58番「ほのかに語らひける人」が83番の人で、この人が紫式部の返しに続けた歌と解し、それで何の問題もなく通り、むしろ宮中の話題で一貫する〉 |
||