原文 (実践女子大本) |
現代語訳 (渋谷栄一) |
注釈 【渋谷栄一】 |
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都の方へとて | 都の方へ帰るというので、 | |
鹿蒜山越えけるに、 | 鹿蒜山を越えた時に、 | 【鹿蒜山】-越前国の歌枕。 |
呼坂といふなる所の | 呼坂という所の | |
わりなき懸け路に、 | とてもひどく険しい路で、 | 【懸け路】-険しい山道。桟道。 |
輿もかきわづらふを、 | 輿もかき難じているのを、 | |
恐ろしと思ふに、 | 恐いと思っていると、 | |
猿の木の葉の中より、 | 猿が木々の葉の中から、 | |
いと多く出で来たれば、 | たいそうたくさん出て来たので、 | |
ましもなほ | 猿よ、 | 【まし】-「猿」と「まし」(二人称)の掛詞。 |
遠方人の | おまえもやはり遠方人として | 【なほ】-「なを」は平安の仮名遣い。 |
声交はせ | 声を掛け合えよ | 【声】-「声」と「呼ぶ」は縁語。 |
われ越しわぶる | わたしが越えかねている | |
たごの呼坂 | たごの呼坂で | 【たごの呼坂】-現在地不明。 |
「紫式部
ましらなくをちかた人に声かはせわれこしわぶるたごのよびさか
此歌は、宮このかたへとて帰山をこえけるに、よびさかといふ所のいとわりなきかけぢをこしもかきわづらふ、おそろしとおもふに、さるのこのはの中よりおほくいできたればよみけると云々(静嘉堂文庫本「夫木和歌抄」雑三 坂 九二四六)