段 | 冒頭 |
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1 | 御簾の中を見わたせば、色ゆるされたる人びとは |
2 | 綾ゆるされぬは、例のおとなおとなしきは |
3 | 若き人は、菊の五重の唐衣を心々にしたり |
4 | うちとけたる折こそ、まほならぬかたちも |
5 | かねてより、主上の女房 |
6 | 御膳まゐるとて、筑前、左京 |
7 | 御まかなひ橘三位 |
8 | 殿、若宮抱きたてまつりたまひて |
9 | 弁宰相の君、御佩刀執りて参りたまへり |
10 | 主上、外に出でさせたまひてぞ、宰相の君は |
原文 (黒川本) |
現代語訳 (渋谷栄一) 〈適宜当サイトで改め〉 |
注釈 【渋谷栄一】 〈適宜当サイトで補注〉 |
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1 |
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御簾の中を 見わたせば、 |
御簾の中を 見わたすと、 |
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色 ゆるされたる 人びとは、 |
禁色を 〈許されている格の〉 女房たちは、 |
△聴された 〈渋谷校訂「聴され」を諸本に従い「ゆるされ」とする〉 |
例の 青色、 赤色の 唐衣に 地摺の裳、 |
いつものように 青色や 赤色の 唐衣に 地摺の裳を付け、 |
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1a |
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上着は、 おしわたして 蘇芳の織物なり。 |
上着は みな一様に 蘇芳色の織物である。 |
〈蘇芳(すほう・すおう):紫がかった赤〉 |
ただ 馬の中将ぞ 葡萄染めを 着てはべりし。 |
ただ 馬の中将の君だけは 葡萄染めの上着を 着ておりました。 |
【馬の中将】-中宮付きの女房。藤原相尹の娘。 〈葡萄染(えびぞめ):薄赤紫色・ぶどう色の染物〉 |
1b |
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打物どもは、 濃き薄き 紅葉を こきまぜたる やうにて、 |
打衣などは、 濃いあるいは薄い 紅葉を 取り混ぜた ようにして、 |
〈こきまぜる(扱き混ぜる):まぜあわせる・かきまぜる〉 |
1c |
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中なる 衣ども、 |
内側に着ている 袿などは、 |
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例の くちなしの 濃き薄き、 |
いつもの 梔子襲の 濃いあるいは薄いのや、 |
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紫苑色、 | 紫苑色や、 | |
うら青き 菊を、 |
裏を青にした 菊襲を、 |
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もしは 三重など、 |
もしくは 三重襲など、 |
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心々なり。 | それぞれ思い思いである。 | |
2 |
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綾 ゆるされぬは、 |
綾織物を 許されていない女房で、 |
〈聴→ゆる〉 |
例の おとなおとなしきは、 |
例の 年輩の女房たちは、 |
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無紋の青色、 もしは蘇芳など、 |
無紋の青色、 もしくは蘇芳色など、 |
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みな五重にて、 襲ねどもは みな綾なり。 |
みな五重襲で、 ふせの襲ねなどは みな綾織である。 |
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大海の摺裳の、 水の色 はなやかに、 あざあざとして、 |
大海の摺模様の 裳の水色は、 華やかで くっきりとして、 |
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腰どもは 固紋をぞ 多くは したる。 |
裳の腰などは 固紋を 多くの人は していた。 |
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袿は 菊の 三重五重にて、 織物はせず。 |
袿は 菊の 三重五重襲で、 織物は用いていない。 |
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3 |
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若き人は、 菊の五重の唐衣を 心々にしたり。 |
若い女房は、 菊の五重襲の袿の上に唐衣を 思い思いに着ていた。 |
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上は白く、 |
ふきの襲の表は 白色で、 |
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青きが上をば 蘇芳、 |
青色の上を 蘇芳色にして、 |
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単衣は 青きもあり。 |
下の単衣は 青色の者もいる。 |
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上薄蘇芳、 | また表は薄蘇芳色で、 | |
つぎつぎ 濃き蘇芳、 |
次々と下に 濃い蘇芳色を着て、 |
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中に 白き まぜたるも、 |
その下に 白色を 混ぜているのも、 |
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すべて しざま をかしきのみぞ、 かどかどしく 見ゆる。 |
総じて 〈仕立てが 妙なのだけが これみよがしに〉 見える。 |
×配色に趣きがあるのだけが才気が見える(渋谷) ×配色に趣のあるのだけが気がきいて見える(全集・集成) ×ともかく、仕立てに趣のあることだけがね、気がきいて見える(全注釈) |
〈「をかし」は一般に多義的なところ、学説が「趣深い」と良い意味一辺倒に解するのは皮肉や批判を認めないから。本段のテーマ「若き」は式部にとって幼いと同義(8)。「おどろおどろし」と対の「かどかどし(目ざわり)」を才気・気が利いてるとするのは、論理上当人達がそれを良しとする感性で、文面も無視して根本の「をかし」の定義を省みない過ち。究極何が書かれてもそういう意味ではない、それが正しいと言えばいい〉 | ||
言ひ知らず めづらしく、 おどろおどろしき 扇ども見ゆ。 |
何とも言いようもなく 珍しく、 仰々しい 桧扇などが見える。 |
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4 |
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うちとけたる 折こそ、 |
くつろいでいる 時は、 |
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まほならぬ かたちも うちまじりて 見え分かれけれ、 |
整っていない 容貌の人が 混じっているのも 見分けられるが、 |
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心を尽くして つくろひ けさうじ、 |
皆が一生懸命に 着飾り 化粧して、 |
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劣らじと したてたる、 |
人に負けまいと 競い合っているのは、 |
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女絵の をかしきに いとよう似て、 |
女絵の 〈おかしな〉のに たいそうよく似て、 |
×美しい 〈学説は美しい(全集・集成・全注釈)とし皆美しいことにするが、それでは3段末尾で若き人のおどろおどろしさを揶揄した趣旨も、本段末尾の「かかる中にすぐれたりと見ゆるこそ」の素直な趣旨も没却し不適当。そもそも「をかし」を美とするのが文面無視の拡大解釈。つまり学説の「をかし」の根本の理解がおかしく、それで次々ひずみが出る。後述〉 |
年のほどの おとなび、 いと若き けぢめ、 |
年齢の具合が 年輩者と ごく若い者との 〈けじめは、〉 |
×違いだけが、 |
髪のすこし 衰へたるけしき、 まだ盛りの こちたきが わきまへ |
髪がすこし 衰えている様子や まだ盛りで 〈やたら盛ってる 違い |
△たくさんある違い 〈こちたし(事痛し・言痛し):うるさい・甚だしい・ひどくたくさん・仰々しい。単に多いというフラットな意味ではない〉 |
ばかり 見わたさる。 |
くらいしか 見うけられない〉。 |
×ぐらいが見わたされる。 |
〈けじめ・わきまえ(作法)が対になり、それが実質何もないという裏返しの表現。全注釈(上402p)はこの対句性を指摘するものの、老いも若きも「わかまえ(我が前・自分の前)」位しか判別できないという異本系本文による注釈を批判し、額の上からも判別できるから自分の前と限定する必要はないとするが、問題はそこではない。これが在五の「けぢめ見せぬ心」以来の「けぢめ」見せれない問題〉 | ||
さては、 扇より上の 額つきぞ、 |
それによって、 桧扇の上から現れている 額つきが、 |
〈額つき:学説は額の様子・額際(おでこ)の様子と一致して定義するが、それ自体意味不明なので、顔の下半分を隠した裏返しの表現(マスクした顔)と解し、文脈もその意味。つまりおでこにフォーカスした意味はないしする意味もない。独自説だが、できるなら定義と認識を改めてもらいたい。宰相の君の昼寝でも顔の下半分を隠していることを明示した同じ用法〉 |
あやしく 人のかたちを、 しなじなしくも 下りても もてなすところ なむめる。 |
妙に 人の容貌を 上品にも 下品にも して見せるもの のようである。 |
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かかる中に すぐれたりと 見ゆるこそ 限りなき ならめ。 |
このような中にあって 優れていると 見えるのは この上なく美しい人 なのであろう。 |
〈続く筑前・左京、弁宰相の君の容姿が優れていると暗示。独自。前二者は「よろしき」天女となっているが、一目で別格と分かることに意味がある〉 |
5 |
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かねてより、 | 行幸の前から、 | |
主上の女房、 宮にかけて さぶらふ 五人は、 |
主上付きの女房で、 中宮様付きも兼ねて 仕えている 五人は、 |
【主上の女房、宮にかけてさぶらふ五人】-主上付きの女房で、中宮付きも兼務した女房、五人。 |
参り集ひて さぶらふ。 |
こちらに参集して 伺候している。 |
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内侍二人、 命婦二人、 御まかなひの人一人。 |
内侍が二人、 命婦が二人、 御給仕役が一人である。 |
【内侍二人】-前出の左衛門の内侍橘隆子と弁の内侍。 【命婦二人】-筑前の命婦と左京の命婦。〈後述6〉 【御まかなひの人一人】-橘三位。〈後述7〉 |
6 |
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御膳 まゐる とて、 |
主上に御膳物を 差し上げる ということで、 |
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筑前、 左京、 一もとの 髪上げて、 |
筑前の命婦と 左京の命婦が、 一髻の 髪上げをして、 |
【筑前】-筑前の命婦、出自未詳。 【左京】-左京の命婦、藤原修政の妻。 |
内侍の 出で入る隅の 柱もとより 出づ。 |
内侍が 出入りする隅の 柱のもとから 出て来る。 |
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これは よろしき 天女なり。 |
これは ちょっとした 天女である。 |
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左京は 青色に柳の 無紋の唐衣、 |
左京の命婦は 青色の 柳襲の上に 無紋の唐衣、 |
【唐衣】-底本「から衣は」とある。『全注釈』は文意から「唐衣に」と校訂、『集成』『新大系』『新編全集』『学術文庫』は「唐衣」と校訂する。 |
筑前は 菊の 五重の唐衣、 |
筑前の命婦は 菊の 五重襲の上に唐衣で、 |
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裳は 例の 摺裳なり。 |
裳は 例によって 共に摺裳である。 |
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7 |
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御まかなひ 橘三位。 |
御給仕役は、 橘三位徳子である。 |
〈若宮の乳付け役として前出。ここで給仕する一条天皇の乳母でもある〉 |
青色の唐衣、 唐綾の黄なる菊の 袿ぞ、 上着なむめる。 |
青色の唐衣に、 唐綾の黄菊襲の 袿が 表着のようである。 |
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一もと 上げたり。 |
この人も一髻を 髪上げしていた。 |
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柱隠れにて、 まほにも見えず。 |
柱の陰のために 十分には見えない。 |
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8 |
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殿、 若宮抱き たてまつり たまひて、 |
殿が 若宮をお抱き 申し上げ なさって、 |
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御前に ゐて たてまつり たまふ。 |
御前に お連れ 申し上げ なさる。 |
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主上、 抱き移し たてまつらせ たまふほど、 |
主上が お抱き取り になる時に、 |
【主上】-一条天皇。二十九歳。〈日記初出〉 |
いささか 泣かせたまふ御声、 いと若し。 |
若宮のすこし お泣きなさるお声が とても幼(くほほえまし)い。 |
△可愛いらしい、かわいい(全集・全注釈) △赤子らしい(集成) 〈若いは乳児にはおかしいのでおかしな表現で、その暗黙の「をかし」に引っ掛けた「わかし」と解する。安易に意訳したり反面で硬直的にしない。ここでは「ほにゃあ」と泣く声が幼くほほえましい。さらにこれは上記3の「若き人」「心々」が幼い、周りが見えてないという揶揄(独自)。 |
さらにこの解は以下の宰相の君に連なるが、学説は真面目一辺倒でこの種のをかしさを全く解せない。素朴におかしいことをおかしいと思えなくなる、前ならえで自分一人では解らない、それが日本式上意下達教育の成果〉 | ||
9 |
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弁宰相の君、 御佩刀 執りて 参りたまへり。 |
弁宰相の君が 若宮の御佩刀を 捧持して 伺候している。 |
【弁宰相の君】-前出。〈藤原豊子。前は若宮を産湯につける役〉 【御佩刀】-主上から賜ったお守刀。御湯殿の儀にも側で捧持された。 |
母屋の 中戸より 西に 殿の上 おはする方にぞ、 |
母屋の 中戸から 西の方の、 殿の北の方が いらっしゃる方に、 |
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若宮は おはしまさせ たまふ。 |
若宮は お連れ申し上げ なさる。 |
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10 |
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主上、 外に出でさせ たまひてぞ、 |
主上が 御簾の外に お出ましになってから、 |
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宰相の君は こなたに帰りて、 |
宰相の君は こちらに戻って、 |
【宰相の君】-〈9の〉弁宰相の君。〈以下の記述は、日記冒頭で彼女が昼寝をしていた文脈と不可分〉 |
「いと 顕証に、 はしたなき 心地しつる」 |
「とても 目立ってしまって、 きまりの悪い 〈思い〉をしました」 |
〈顕証(けそう・けんしょう):あからさまなこと、目立つこと。 △とてもあらわで、きまりの悪い思い(全集) ×はれがましくきまりの悪い思い(集成・全注釈)→語義から離れた拡大解釈かつ表現自体不審 渋谷訳「心地」部分脱落で補い〉 |
と、 げに 面うち赤みて ゐたまへる顔、 こまかに をかしげなり。 |
と言って、 ほんとうに 頬を赤らめて 座っている顔は、 〈いちいち ほほえましいのだ〉。 |
×端正で美しい感じがする(渋谷) ×上品で美しい様子(全集・全注釈) 〈これは日記冒頭の昼寝の段と全く同じ文脈(すこし起き上がりたまへる顏のうち赤みたまへるなど、こまかにをかしうこそ)。学説はどちらも隅々まで美しい等、文脈と字面から離れて美化するが、「をかし」を「美」とするのは最早字面と真逆の拡大解釈で不適当。そもそも趣深いとする元の理解が的外れ。その意味なら興があると解する。独自。 |
「をかし」の美化解釈は、若宮の幼いほほえましい流れとかみあわないのに加え、直後後段で目立って恥ずかしいという宰相発言を正面から否定し、いや貴女は目立った装いだったと言うおかしさを解せていないので不適当。そもそも紫式部日記の特徴は同僚女房への痛烈な批判とされているだろうし、私の解はそれに全く矛盾しない。ただし昼寝の宰相の君は若君と並べても可愛く思ったからかいで、目立つのははしたないと自称してもいるので、本段4におけるの若い人々への皮肉的批判とは異なる〉 | ||
衣の色も、 人より けに 着はやし たまへり。 |
衣装の色合いも、 他の人より 〈とても異なって 着ばえして〉 いらっしゃった〈のに〉。 |
△他の人よりは一段と引き立って着こなして(渋谷) →すぐれて着ばえがして(集成) 〈けに:先の「げに」と比較し、けに(異に)、げに(実に)か不明。諸本言及せず渋谷訳のように強調に訳すが、掛詞的にどちらの意味にも解する〉 〈着はやす:見栄えよく着飾る〉 |