原文 (黒川本) |
現代語訳 (渋谷栄一) 〈適宜当サイトで改め〉 |
注釈 【渋谷栄一】 〈適宜当サイトで補注〉 |
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午の時に、 | 午の時刻に、 | |
空晴れて 朝日さし出でたる 心地す。 |
空が晴れて 朝日がさし出したような 気持ちがする。 |
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2 |
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平らかに おはします うれしさの 類もなきに、 |
御安産で いらっしゃる うれしさが 類もないうえに、 |
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男にさへ おはしましける 慶び、 |
男御子でさえ いらっしゃる お慶びは、 |
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いかがは なのめ ならむ。 |
どうして 並一通りのこと であろうか。 |
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3 |
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昨日 しほれ 暮らし、 |
昨日は 心配で泣き濡れて 過ごし、 |
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今朝のほど、 | 今朝のうちは、 | |
秋霧に おぼほれつる 女房など、 |
秋霧に むせび泣いていた 女房などが、 |
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みな 立ちあかれつつ 休む。 |
みなそれぞれ 局に引き下がって 休む。 |
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4 |
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御前には、 | 中宮様の御前には、 | |
うちねびたる 人びとの、 |
〈少し〉年輩の 女房たちで、 |
〈うち+ねぶ〉 |
かかる折節 つきづきしき さぶらふ。 |
このような折に ふさわしい人たちが 付き添う。 |
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5 |
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殿も上も、 | 殿も北の方様も、 | 【殿の上】-道長の北の方倫子。 |
あなたに 渡らせたまひて、 |
あちらのお部屋に お移りあそばして、 |
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月ごろ、 | ここ数か月来、 | |
御修法、読経に さぶらひ、 |
御修法や読経に 奉仕し、 |
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昨日今日 召しにて 参り集ひつる僧の 布施賜ひ、 |
また昨日今日の 呼び寄せに 参集した僧侶たちに 布施を賜い、 |
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医師、陰陽師など、 道々の しるし現れたる、 禄賜はせ、 |
医師や陰陽師などで、 それぞれの方面で 効験を現した者たちに、 禄を賜わり、 |
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内には 御湯殿の儀式など、 |
また一方、内部では 御湯殿の儀式などを、 |
【内には】-『全注釈』は「内裏には」とするが、他の諸本は「内には」と解釈する。 【御湯殿の儀式】-新生児に産湯をつかわせる儀式。誕生直後の産湯ではなく、公的儀礼的な沐浴の儀式。 |
かねて まうけ させたまふ べし。 |
前もって 御準備を おさせになる のであろう。 |
〈最後「べし」で終わっているのは、見てないので知らんけどそうしてるんでないの、という意味。ちなみに両者の関係は最悪で双方極力顔を見たくない〉 |
6 |
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人の局々には、 | 女房の部屋部屋では、 | |
大きやかなる袋、 | 見るからに大きな衣装袋や、 | |
包ども 持てちがひ、 |
いくつもの包を 運び込む人たちが出入りし、 |
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唐衣の縫物、裳、 | 唐衣の刺繍や、裳の | 【縫物、裳】-『全注釈』は「縫物も」とするが、他の諸本は「縫物、裳」と解釈する。 |
ひき結び、 螺鈿縫物、 けしからぬまでして、 |
ひき結びの 螺鈿や刺繍の飾りを あまりにと思われるまでして、 |
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ひき隠し、 | またそれをひき隠したりして、 | |
「扇を持て来ぬかな」など、 | 「桧扇をまだ持って来ないですね」などと、 | |
言ひ交しつつ 化粧じつくろふ。 |
女房どうしで言い交わしながら、 化粧をし身づくろいをする。 |