原文 (黒川本) |
現代語訳 (渋谷栄一) 〈適宜当サイトで改め〉 |
注釈 【渋谷栄一】 〈適宜当サイトで補注〉 |
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1 |
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その夜さり、 | その日の夜に、 | |
御前に | 中宮様の御前に | |
参りたれば、 | 参上しましたところ、 | |
月をかしきほどにて、 | 月が美しい時分なので、 | |
端に、 | 簀子(すのこ)の端近に、 | |
御簾の下より | 御簾の下から | |
裳の裾など、 |
女房たちの 裳の裾などが、 |
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ほころび出づる | こぼれ出ている | |
ほどほどに、 | あたりに、 | |
小少将の君、 | 小少将の君や | 【小少将の君】-中宮付きの上臈の女房。倫子の姪、源時通の娘。〈日記初出。紫式部集における固有名詞の最多人物で最重要人物。大小ではなく小大の順にするのもその表れで、次に出る時は大納言の君の後になっている〉 |
大納言の君など | 大納言の君などが | 【大納言の君】-中宮付きの上臈の女房。倫子の姪、源扶義の娘廉子。 |
さぶらひたまふ。 | 伺候していらっしゃる。 | |
2 |
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御(おん)火取りに、 |
中宮様は 御香炉で、 |
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ひと日の | 先日の | |
薫物(たきもの)取う出て、 | 薫物を取り出して、 | |
試み させたまふ。 |
聞香を させていらっしゃる。 |
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3 |
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御前の ありさまの をかしさ、 |
〈中宮様の ご機嫌の よろしさ、〉 |
×お庭先の趣き深い様子や、 〈通説(全集・集成・全注釈)は「御前のありさま」を中宮の庭の様子・景色とするが(新旧大系説明回避)文面上無理なので、直後「悩ましき」から素直に人々の中宮への言及と見る。 学説は軽妙な表現を解せない点で不適当。妙だと全力で曲げ、いびつにして押し通す習性。素朴な字面から離れるのは解釈ではなく誤解〉 |
蔦(つた)の色の | 蔦がまだ | |
心もとなきなど、 | 色づかないじれったさなどを、 | |
口々聞こえさするに、 |
女房たちが 口々に申し上げていると、 |
〈つまりご機嫌をとって気を紛らわしている〉 |
例よりも 悩ましき |
いつもよりも 苦しそうな |
〈例よりも:日記冒頭「御前にも、近うさぶらふ人びと、はかなき物語するをきこしめしつつ、悩ましうおはします」の時よりも。 悩ましき:人々の口々の言及とギャップがあるのと、辛いのにうるさいから〉 |
御けしきにおはしませば、 | ご様子でいらっしゃるので、 | |
御加持どもも | ちょうど御加持などを | |
参るかたなり、 | なさる時刻であり、 | |
騒がしき心地して | 落ち着かない感じがして | |
入りぬ。 |
加持なさる部屋に 入った。 |
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4 |
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人の呼べば | 朋輩が呼ぶので | |
局に下りて、 | 自分の部屋に下がって、 | |
しばしと 思ひしかど |
少しの間横になろうと 思ったのだが |
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寝にけり。 | 眠ってしまった。 | |
5 |
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夜中ばかりより | 夜中ごろから人びとが | |
騒ぎたちて ののしる。 |
騒ぎ出して 大声を出している。 |
【夜中ばかりより騒ぎたちてののしる】-中宮彰子が産気づかれた。 |