竹取物語 (國民文庫) |
竹とりの翁物語 (群書類從) |
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173 | 猶この女見では、 | なを此女みでは。 |
174 | 世にあるまじき心ちのしければ、 | 世にあるまじき心ちしければ。 |
175 |
天竺にあるものも持てこぬものかは。 と、思ひめぐらして、 |
天竺にある物ももてこぬものかは と思ひめぐらして。 |
176 |
石作皇子は 心のしたくみある人にて、 |
いしづくりの御子は 心のしたくある人にて。 |
177 | 天竺に二つとなき鉢を、 | 天竺に二つとなきはちを。 |
178 |
百千萬里の程行きたりとも いかでか取るべき。と思ひて、 |
百千萬里のほどいきたりとも いかで・(かイ)とるベきと思ひて。 |
179 | かぐや姫の許には、 | かぐや姫のもとには。 |
180 |
今日なん天竺へ石の鉢とりにまかる。 と聞かせて、 |
今日なん天竺へ石のはちとにまかる と聞せて。 |
181 |
三年ばかり經て、大和國 十市郡(とをちのこほり)にある山寺に、 |
三年計大和國 とをちの郡に有山寺に。 |
182 |
賓頭盧(びんづる)の前なる鉢の ひた黑に煤つきたるをとりて、 |
びむづるの前なるはちの ひたぐろに墨付たるを取て。 |
183 | 錦の袋に入れて、 | 錦の袋に入て。 |
184 | 作花の枝につけて、 | つくり花の枝につけて。 |
185 | かぐや姫の家にもて來て見せければ、 | かぐや姫の家にもて來て見せければ。 |
186 | かぐや姫あやしがりて見るに、 | かぐや姫あやしがりてみれば。 |
187 | 鉢の中に文あり。 | はちの中にふみ有。 |
188 | ひろげて見れば、 | ひろげて見れば。 |
♪1 189 |
海山の みちにこゝろを つくしはて |
海山の 道にこゝろを つくしはて |
みいしの鉢の なみだながれき |
な[みイ]いしの鉢の なみた流れき |
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190 | かぐや姫、光やある。と見るに、 | かぐや姫光や有とみるに。 |
191 | 螢ばかりのひかりだになし。 | 螢ばかりのひかりだになし。 |
♪2 192 |
おく露の ひかりをだにも やどさまし |
置露の 光をたにも やとさまし |
小倉山にて なにもとめけむ |
をくら山にて なにもとめけむ |
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193 | とてかへしいだすを、 | とて返し出すを。 |
194 | 鉢を門に棄てゝ、 | はちを門にすてゝ。 |
195 | この歌のかへしをす。 | 此歌の返しをす。 |
♪3 196 |
しら山に あへば光の うするかと |
しら山に あへは光の うするかと |
はちを棄てゝも たのまるゝかな |
鉢をすてゝも 賴まるゝかな |
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197 | とよみて入れたり。 | とよみて入たり。 |
198 | かぐや姫返しもせずなりぬ。 | かぐや姫返しもせずなりぬ。 |
199 | 耳にも聞き入れざりければ、 | みゝにも聞入ざりければ。 |
200 | いひ煩ひて歸りぬ。 | いひわづらひて歸りぬ。 |
201 |
かれ鉢を棄てゝ またいひけるよりぞ、 |
かのはちをすてゝ 又云けるによりぞ。 |
202 |
面なき事をば はぢをすつとはいひける。 |
おもなき事をば はちをすつとはいひける。 |