頭中将の和歌全17首(贈9、答5、独詠0、唱和3※)。相手内訳(源氏10.1、夕霧1.2、夕顔・落葉宮(息子柏木の妻)・宰相の君1、左代弁・柏木・紅梅(柏木弟)0.1。唱和を0.1とした)
頭中将の突出最多は源氏で、柏木が夕霧1首しかないのと対照的。
※通説は松風の唱和一首「頭中将」をここだけ別人と認定し16首とする(全集6・598p。全集2・418~420pでもその根拠は示されない)が物語全編通してここだけ別人の頭中将が、源氏の歌に直後続けて唱和したとする認定は木を見て森を見ず。源氏のライバルの頭中将は、歌の相手は源氏が最多であり、更に松風直前の絵合で権中納言、松風直後の薄雲で大納言兼大将に昇進するから、松風時点でも権中納言かつ頭中将。紫式部はこの夢物語を支配する女流作家なのだから、夢のような栄達を描く中で適当に官位を当てたといえ、自分達の常識に照らした人定はナンセンス。目先の木や機体ばかり細かく議論して森やフィールドの支配者(ルーラー)など眼中にないのが日本流。何事も自分達が支配していると思う男村社会。
定家の百人一首での業平17も、頭中将17首と認定したことによるものと見たい。
原文 (定家本) |
現代語訳 (渋谷栄一) |
|
---|---|---|
帚木(ははきぎ) 1/14首 |
||
15 答 |
咲きまじる 色はいづれと 分かねども なほ常夏に しくものぞなき |
〔夕顔→〕 庭にいろいろ咲いている花はいずれも皆美しいが やはり常夏の花のあなたが一番美しく思われます |
末摘花(すえつむはな) 1/14首 |
||
70 贈 |
もろともに 大内山は 出でつれど 入る方見せぬ いさよひの月 |
〔源氏←〕ご一緒に宮中を退出しましたのに 行く先を晦ましてしまわれる十六夜の月のようですね |
紅葉賀(もみじのが) 2/17首 |
||
94 贈 |
つつむめる 名や漏り出でむ 引きかはし かくほころぶる 中の衣に |
〔源氏←〕 隠している浮名も洩れ出てしまいましょう、引っ張り合って 破れてしまった二人の仲の衣から |
99 答 |
君にかく 引き取られぬる 帯なれば かくて絶えぬる なかとかこたむ |
〔源氏→〕あなたにこのように取られてしまった帯ですから、 こんな具合に仲も切れてしまったものとしましょうよ |
葵 1/24首 |
||
122 贈 |
雨となり しぐるる空の 浮雲を いづれの方と わきて眺めむ |
〔源氏←〕妹が時雨となって降る空の浮雲を どちらの方向の雲と眺め分けようか |
賢木(さかき) 1/33首 |
||
164 贈 |
それもがと 今朝開けたる 初花に 劣らぬ君が 匂ひをぞ見る |
〔源氏←〕それを見たいと思っていた今朝咲いた花に 劣らないお美しさのわが君でございます |
須磨 2/48首 |
||
213 答 |
あかなくに 雁の常世を 立ち別れ 花の都に 道や惑はむ |
〔源氏→〕まだ飽きないまま雁は常世を立ち去りますが 花の都への道にも惑いそうです |
215 答 |
たづかなき 雲居にひとり 音をぞ鳴く 翼並べし 友を恋ひつつ |
〔源氏→〕頼りない雲居にわたしは独りで泣いています かつて共に翼を並べた君を恋い慕いながら |
松風(まつかぜ) 1/16首※ |
||
297 唱 |
浮雲に しばしまがひし 月影の すみはつる夜ぞ のどけかるべき |
〔源氏+頭中将※通説はここだけ別人扱い+左代弁〕 浮雲に少しの間隠れていた月の光【しばし見紛えた月影】も 今は澄みきっているようにいつまでものどかでありましょう |
行幸(みゆき) 1/9首 |
||
397 贈 |
恨めしや 沖つ玉藻を かづくまで 磯がくれける 海人の心よ |
〔源氏←〕恨めしいことですよ。玉裳を着る 今日まで隠れていた人の心が |
藤裏葉(ふじのうらば) 3/20首 |
||
439 贈 |
わが宿の 藤の色濃き たそかれに 尋ねやは来ぬ 春の名残を |
〔夕霧←〕わたしの家の藤の花の色が濃い夕方に 訪ねていらっしゃいませんか、逝く春の名残を惜しみに |
441 唱 |
紫に かことはかけむ 藤の花 まつより過ぎて うれたけれども |
〔頭中将+夕霧+柏木〕紫色のせいにしましょう、藤の花の 待ち過ぎてしまって恨めしいことだが |
453 贈 |
そのかみの 老木はむべも 朽ちぬらむ 植ゑし小松も 苔生ひにけり |
〔宰相の君←〕その昔の老木はなるほど朽ちてしまうのも当然だろう 植えた小松にも苔が生えたほどだから |
456 答 |
紫の 雲にまがへる 菊の花 濁りなき世の 星かとぞ見る |
〔源氏→〕紫の雲と似ている菊の花は 濁りのない世の中の星かと思います |
柏木 1/11首 |
||
507 唱 |
木の下の 雫に濡れて さかさまに 霞の衣 着たる春かな |
〔頭中将+夕霧+紅梅(頭中将の子・柏木弟)〕木の下の雫に濡れて逆様に 親が子の喪に服している春です |
夕霧 1/26首 |
||
548 贈 |
契りあれや 君を心に とどめおきて あはれと思ふ 恨めしと聞く |
〔落葉宮(息子柏木の妻)←〕前世からの因縁があってか、あなたのことを お気の毒にと思う一方で、恨めしい方だと聞いております |
御法(みのり) 1/12首 |
||
560 贈 |
いにしへの 秋さへ今の 心地して 濡れにし袖に 露ぞおきそふ |
〔源氏←〕昔の秋までが今のような気がして 涙に濡れた袖の上にまた涙を落としています |