源氏物語・蜻蛉(かげろう)巻の和歌11首を抜粋一覧化し、現代語訳と歌い手を併記、原文対訳の該当部と通じさせた。
内訳:7(薫=柏木の子)、1×4(匂宮=今上帝三宮、小宰相君=明石中宮女房、女房・中将のおもと、弁の御許)※最初と最後
即答 | 1首 | 40字未満 |
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応答 | 6首 | 40~100字未満 |
対応 | 1首 | ~400~1000字+対応関係文言 |
単体 | 3首 | 単一独詠・直近非対応 |
※分類について和歌一覧・総論部分参照。
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上下の句に分割したバージョン。見やすさに応じて。
なお、付属の訳はあくまで通説的理解の一例なので、訳が原文から離れたり対応していない場合、より精度の高い訳を検討されたい。
原文 (定家本校訂) |
現代語訳 (渋谷栄一) |
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756 贈 |
忍び音や 君も泣くらむ かひもなき 死出の田長に 心通はば |
〔薫〕忍び音にほととぎすが鳴いていますが、 あなた様も泣いていらっしゃいましょうか いくら泣いても効のない 方に お心寄せならば |
757 答 |
橘の 薫るあたりは ほととぎす 心してこそ 鳴くべかりけれ |
〔匂宮〕橘が 薫っているところは、 ほととぎすよ 気をつけて 鳴くものですよ |
758 独 |
我もまた 憂き古里を 荒れはてば 誰れ宿り木の 蔭をしのばむ |
〔薫〕わたしもまた、 嫌なこの古里を離れて、 荒れてしまったら 誰がここの宿の 事を思い出すであろうか |
759 贈 |
あはれ知る 心は人に おくれねど 数ならぬ身に 消えつつぞ経る |
〔小宰相君:明石中宮女房〕お悲しみを知る 心は誰にも 負けませんが 一人前でもない身では 遠慮して消え入らんばかりに過ごしております |
760 答 |
常なしと ここら世を見る 憂き身だに 人の知るまで 嘆きやはする |
〔薫〕無常の世を 長年見続けて来た わが身でさえ 人が見咎めるまで 嘆いてはいないつもりでしたが |
761 独 |
荻の葉に 露吹き結ぶ 秋風も 夕べぞわきて 身にはしみける |
〔薫〕荻の葉に 露が結んでいる 上を吹く秋風も 夕方には特に 身にしみて感じられる |
762 贈 |
女郎花 乱るる野辺に 混じるとも 露のあだ名を 我にかけめや |
〔薫〕女郎花が 咲き乱れている野辺に 入り込んでも 露に濡れたという噂を わたしにお立てになれましょうか |
763 答 |
花といへば 名こそあだなれ 女郎花 なべての露に 乱れやはする |
〔障子にうしろしたる人=女・中将君(旧大系):中将のおもと(全集)〕 花と申せば 名前からして色っぽく聞こえますが 女郎花は そこらの露に 靡いたり濡れたりしません |
764 贈 |
旅寝して なほこころみよ 女郎花 盛りの色に 移り移らず |
〔弁の御許〕旅寝して ひとつ試みて御覧なさい 女郎花の 盛りの色に お心が移るか移らないか |
765 答 |
宿貸さば 一夜は寝なむ おほかたの 花に移らぬ 心なりとも |
〔薫:柏木の子〕お宿をお貸しくださるなら、 一夜は泊まってみましょう そこらの 花には心移さない わたしですが |
766 独 |
ありと見て 手にはとられず 見ればまた 行方も知らず 消えし蜻蛉 |
〔薫〕そこにいると見ても、 手には取ることのできない 見えたと思うと また行く方知れず 消えてしまった蜻蛉だ |